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Tens:soleil 第1話
ガンバ ルヨ
神の子、降臨
静かな階段、ここに太陽の光は無く生物の声も聞こえない。
神のうめき声だけが聞こえる。さすがの神でも時間には抗えない、と言うことを改めて実感する。
いやここで考えてる暇はないわ。
神様には今、時間がない。早くしないと。
神が眠る神台まで行く豪華な装飾がついた道も今では物悲しい。
「おいゼラウス、お前が遅れるなんて珍しいな」
「仕方ないでしょ。少し時間くらい取ったっていいでしょ?」
「それにいつもこう言うのに遅れてるのは曉獄のほうでしょ?」
彼は少しイラッとした顔をしたがすぐに冷静になった。
「ほら早く。星の破片はどうした?」
「持ってるに決まってるじゃない?だから遅れたのよ」
「探すのにってことか」
「そうそう」
「それじゃ行くぞ」
「ええ」
私は星の破片を神台に捧げる。
「神の子よ、その力をもってこの地に再び陽光をもたらすのだ。」
捧げると同時に神台からとてつもない光が空へ飛び出した。
まるで空を引き裂くようだ。
「これで何とかなると思う?曉獄」
「さあな。これぞ本当の神のみぞ知るってやつだ」
「そういえばなんで私と曉獄だけなの?他の受者たちはどうしたの?」
「お前が遅すぎるから星の破片だけ捧げて帰っていったよ」
「ふふっ。ごめんね」
お願いよ。神の子。この星を、フレアを救う英雄になるのよ。
時を同じくしてオリンポス、黎明の森
雲の上からとてつもない音を立てながら流星のようなものが堕ち、森の1番大きい木、黎明の神木のそばに落下した。
なんだこれ?すごい...木の香り....?
「うぅ…」
「....ょうぶですか?」
「うぅ…」
「....ーい だいじょぶかぁ?」
「はっ!!」
「うわぁ!」
「びびび、びっくりしたぁ〜。もう、急に起きるなよ〜」
目が覚めるとそこにいたのは鹿の角のようなものがついた少女と猫の耳が頭についた少女だった。
「大丈夫ですか?あなた空から落ちてきたんですよ?」
「とりあえず自分の名前、分かりますか?」
「カ...ガリだ」
「カガリと言う名前でしたか。素敵ですね。」
鹿角の少女が続けて
「私の名前はアリアです。こっちの猫はニコ」
猫の少女は
「やっほ〜。アンタだいじょぶなの?頭とか痛くなぁい?」
と気にかけた。
「あなたは、ここでは見ない顔ですね。いったいどこからやって来たんですか?」
「分からない。いったいどこて生まれてどうしてここにいるかも俺は分からない。」
「まぁとにかくさー館に連れてこーよ。君のことがなんなのか分かる人いるかも。」
「館?」
「星霜の館です。もしかして知らないんですか?」
「まぁまぁとにかくさ。いこーよ。」
「分かりました。カガリ君は今歩けますか?」
「ああ。歩ける。」
「分かりました。それでは館に向かいましょう。」
館に向かっている道はとても神秘な森のようで、白い幹に黄金の葉が生い茂っている。遠くから鳥の鳴き声のようなものも聞こえる。
「あ、そういえばカガリ君、ここに来る前のことって、覚えていますか?」
数秒間沈黙したあと
「いや全く。どうしてここに俺がいるのかも分からない。」
「ホントに分かんないことだらけじゃん。」
「そんなこと話してる間にほら。着きましたよ。ここが星霜の館です。」
そこにあったのは大理石でできた大きな神殿と横にはこれまた大きな館があった。
「すごい建物だな」
「そりゃそーでしょ。だってゼラウス様が作ったちょーすげー神殿と館なんだよ。」
そんな話をしていると神殿からベールを被った女性が出てきた。
「ゼラウス様!?どうしたんですか?」
「あら。ごめんなさい急いじゃって。」
と言うと突然俺の方に話しかけてきた。
「まぁそんな事は置いておいて。そこの黒髪の男の子に私は用があるの。ごめんねアリアちゃん。」
「ニコちゃん。その男の子の名前はなんて言うの?」
「カガリだよ。」
「そう。カガリ君って言うのね。火を灯すのにぴったりな名前だわ。」
火を…灯す? いったい何のことだ?
「おい、火を灯すってどう言うことだ?」
「え?」
どうして知らないの?もしかして神の力が衰えすぎて産み落としたときの使命の記憶がない…?
これはかなり大変なことになるかもしれないわ。
「まぁとりあえず私の部屋に来て。アリアちゃんとニコちゃんはイーストスの部屋に戻っていて。」
「わかりました。ほらニコ、行こう。」
「わかったよ〜」
これはどういう事だ?もしかしてこのベールの女は俺の命を狙ってるのか?
そんなことを思いながら館に入る。
館の中もあの森に劣らないほどに神秘的だった。神殿が横にあるからだろうか。
ベールの女は自分の部屋に俺を案内し、自分の椅子に座った。
「そう言えば自己紹介がまだだったわね。私はゼラウス。この国の統治者であり神託受者よ。」
いったいこの女は何を考えているんだ?
と、思いながら話を聞いていると。女は何かを取り出した。
「カガリ君、ちょっと名前以外の自己紹介をしてくれないかな?」
俺は何も説明できなかった。なぜならなにも“分からない“からだ。
「ほら。何にもわからないでしょ?」
どういうことだ?なんで…俺はここにいる?
「じゃあ、教えてあげる。君がどうしてここにいるのかを。」
ゼラウスは星の破片をカガリの額に当て、こう唱えだした。
「神の子よ、その力をもって再びこの地に陽光をもたらしたまえ。」
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気がつくと空の上にいたような気がした
これは? なんなんだ?
『これはあなたの使命です。再び私の力を取り戻すこと』
「はっ!」
そうだ俺は神の子だったんだ
神様の力が衰えたから、俺はまたフレアに陽光をもたらすためにここにいるんだ。
神は続けて語りかける。
『私の手中にある燭台にあなたは火を灯す。これは10ある。これを全て、あなたは灯す。』
『灯し終えたのなら再び空に帰ってきなさい。』
えっ?
「俺はフレアにずっといることはできないのか?」
俺は気付くと神に話しかけていた。
『あなたはずっと地で暮らしたいの?』
「ああ。一瞬しか見ていないけど、とっても綺麗で空よりも美しかった。俺はずっとフレアで暮らしてみたい。」
神はしばらく沈黙したが
『良いだろう。そうかもうフレアは空よりも美しくなっていたのか。』
『私はもう長くはない。楽しんでこい。火を灯し終えたら普通の人間になればよい。』
「ありがとう。」
「はっ!」
「うふ。起きた?神様とお話しできた?」
「もう一度聞くわ。あなたの使命は?」
「…燭台に、火を灯す。そして再びフレアに陽光をもたらす。」
「うん。バッチリみたいね」
ゼラウスは頷き、俺の方を見るのをやめた
「ゼラウス。伝えておきたい事がある。」
ゼラウスは振り返って
「なぁに?どうしたの?」
「全ての火を灯し終えたら俺は人間になって、またフレアに降臨する。」
「その時また記憶が無かったら、俺のことを見つけて色々教えて欲しい。」
ゼラウスは少し驚いたようだったが、瞬きして微笑んだ
「ええ。わかったわ。」
「それじゃぁとにかくゆっくり進めていきましょう。」
「まずはイーストスの部屋にいって、アリアちゃんたちと仲良くなってきてちょうだい。」
「わかった。」
俺は扉を閉め、イーストスの部屋へ向かった。
うふ。面白いフレアの旅になりそうね。
ゼラウスは窓の外を見ながら心の中でつぶやいた。
用語解説
オリンポス
ゼラウスが統治する12の神を信仰する国家。
古くもどこか新しい風が吹く比較的治安のいい国。
対応する空の色は黎明。
モチーフはギリシャ。