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海月は淡い木漏れ日に包まれて。Ⅲ
ガラガラ…スライドドアが開く音がし、そっちに目をやると、白く美しい衣装を着た想生くんがいた。まるで王子様のように少しずつ金色の部分が入っていたりと高級感が凄い。深川鼠色の髪と白い衣装が黒い狐の顔を目立たせ、私を魅了した。また、前の肩まで隠す赤色のマントはさらりと長く、想生くんのスタイルをさらにかっこよくさせた。
「どう?」
「す、すごい…めっちゃ似合ってるよ!あと、えっと…言いたいことがありすぎて何を言いたいのかわからなくなってきた…」
頭をぐるぐると回していると、想生くんは「じゃあ、海月のドレスも早く見たいから着替えてきて!」と私を試着室へグイグイ押した。正直、私に似合うドレスなんてないと思うけど。そうお思いながら個室に入りドアを閉め、並ぶドレスへ目を向けた。病院側は私には4種類の淡い色のドレスを用意してくれていた。
1つ目はペールラベンダーのマーメイドラインのドレス。2つ目は淡黄蘗色のプリンセスラインのドレス。3つ目は一斤染めのA型ラインドレス。4つ目は白緑色のエンパイアラインのドレス。どれもオーラも模様も輝いて綺麗だった。しかし、1つ目は大人すぎて私には到底似合わないだろう。2つ目と4つ目はボリュームがすごくて私の心が拒否反応を起こした。ので一番目立たないであろう3番目の一斤染めのドレスにした。6か所に流れるように付いている小さな花が無難に綺麗だ。想生くんは気に入ってくれるだろうか。少し戸惑いながらも、猫子さんに手伝って貰いながらドレスを着た。自分の姿がどうも気になってつい鏡を見てしまった。まずいと思って咄嗟に手で顔を防いだが、猫子さんはなぜ私の両手を止めた。するといつも大嫌いだった人間の顔、私の顔はドレスのせいか別人に見えた。そして、少しだけ、怖くなかった。心臓はバクバクして今でも飛び跳ねそうだけど、いつもより落ち着いていて、見つめられるようになっていた。
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いつも、周りの人間の顔は《《両親の顔》》になっていた。怖すぎて、近づきたくない。また、いじめられるんじゃないかって。殴られて、蹴られて、怒鳴られる毎日が頭の中から離れない。もうあんな生活はしたくない。だから、顔を見ないようにした。人の顔を見ると、私を睨む両親がいるように見えるから。けれど、それは本当にそうなのだろうか。想生くんも両親になってしまうのだろうか。いつも優しく接してくれる、猫子さんや熊太郎さんも両親と一緒なのか。もしかしたら、想生くんたちは両親と逆なんじゃないかと最近少し思うようになった。
みんなは私のために《《いろんな事をしてくれている》》のに。
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ゆっくりと個室のドアを開くと、後ろを向いていた想生くんが振り返って見てきた。
「変…じゃない?」
想生くんは私に1歩近づき、少ししてから声を出した。
「…かわいすぎ…反則だよ…惚れさせようと思ったのにまた僕ばっかり…」
想生くんは小さな声で何かを言いながら《《仮面》》の隙間から見える顔を赤くした。赤い顔を隠すためか手で顔が見えないように挙げた。私は何かやらかしてしまったのかと思い、想生くんに近づいた。
「どうしたの?熱でもあるの?」
そう言って私は想生くんの頭に手をのせた。
想生くんはビビッと少し動いてから何も話さなくなり、動かなくなった。余計に心配になったため、勢いで想生くんに抱き着いた。少し離れたところから見ていた猫子さんはすごい驚いていた。
「熱いの熱いのとんで行けー!」
私が精一杯想生くんを抱きしめていたその時、やっと動いたかと思えば私を横抱きして個室へ向かい、降ろした。
「ちょ、ちょっと。メインは明日なのに今そんなに見ちゃったら楽しみが無くなっちゃうでしょ。だからもう脱ご。」
無理矢理ドアを閉められて、私は訳がわからないまま着替えた。着替えている途中に猫子さんが入ってきた。
「海月ちゃん…鈍感なのね。だからあの子の気持ちがわからないわけだ。」
呆れたように言うと、さっさと着替えを手伝ってくれた。私はあった真の整理が追い付かず、よくわからなくなった。ただ、私が少しだけ人を克服できたということだけ、はっきり覚えていた―。
そして翌朝、舞踏会当日。待ち合わせは病院の一階ロビーに10時に集合だ。いつもより早く目覚めた私は、せっせと支度をした。一斤染めのドレスを着て、猫子さんに髪を括ってもらった。2週間前に想生くんに聞くと、「ハーフアップが好き」と言っていたのでそうした。そして念の為の薄いメイクをしてもらった。猫子さんは「元はかわいいのに仮面で隠しちゃうなんて残念。」と言いながら手伝っていた。私が付ける仮面は猫子さんにお勧めされた白く右に桜色の蝶がついている仮面で、顔の上だけ隠すやつだ。衣装と相性が良く、私に似合うから、と。
午前9時50分、病院の一階ロビーに向かった―。
色々伏線をつけてみたヨ。気づけるかな?
あ、ちなみに海月は恋愛なんてしたことがない身なので恋愛に関してはかなり鈍感ですので、想生がドキッとするような事をするのはわざとじゃないです(^^