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17.状況説明
「行きましょう!」
「「はい!」」
ベノンたちを連れて護衛が来た方に向かう。
そこには、さっき叫んだ、その護衛がいた。
その奥には……
佐藤さんと、第一王子と思われる人が死んでいる様子、周りで大量の護衛が、出血している様子があった。
「うっ……あ、すみません。私は聖女ユミです。事情を伺ってもよろしいですか?」
「ユミ様……はい、構いません」
「何がありました?」
「分かりません。僕はもともと殿下……第一王子の護衛なんですが、後片付けをして戻っていたら、黒い霧が出ていて。しばらくして霧が晴れたんですけど、そこに殿下と聖女ユウナ様が息絶えておられました」
「護衛はどうなっていたの?」
「護衛は倒されていました。あと、言うのを忘れていましたが、護衛にも霧がかかったようで……」
「死んだの?」
「はい」
よく見ると、切られている護衛と、佐藤さんや第一王子のように傷はない護衛がいるっぽい。
「あなただけ? 残っているのは」
「いえ、あと2人います。現在は王宮にこのことを伝えに行っているようです」
「そう……」
悲しい話だ。
「犯人に心当たりは?」
「ありません」
うーん……困ったなぁ。
「おや。もういらしていましたか」
そんな声が聞こえ、振り向くとサムエルがいた。
「どこに行っていたのですか?」
「周りから人がいなくなってしまったようで寂しかったので、他の場所から見ていました」
……さみしい、ねぇ。
ちょっと嘘っぽいな。申し訳ないけど。
「それで、黒い靄、でしたっけ? それがヒントになりそうですけど……」
私は黒い靄を出し、人を殺す魔法なんて知らない。
「エンナ先生なら知っているかな?」
「iいえ、それには及びません。何かは分かっています」
「そうなのですか!?」
「はい。それは闇魔法の一つ。闇霧、と呼ばれるものです。霧のなかにいる者は逃れられず、だんだんと息が苦しくなって死んでしまう、というものですよ。」
そっか。それなら護衛も倒されていてもおかしくないな。それどころか、あの二人をまもれなかったことにも納得だ。
……ん? 闇?
「闇魔法ですか?」
「そうですね」
「何!?」
護衛の人が強く反応した。
そんなに危険視すること?
「サムエル様、どうか、どうか、神殿の上層部まで、この出来事を伝えてくれませんでしょうか!」
「一応しますけど……悪魔が動いたということは、これが神殿の意向という可能性もありますので……表沙汰にならない可能性のほうが高そうですよ?」
「構いません」
「……分かりました」
「ありがとうございます!!」
「ユミ様」
「何でしょうか? サムエル様」
「ここを浄化してやってください」
「……いいのですか?」
そりゃあ現場保存は必要だから、と今まで我慢してきたけど。
ただ、いいよ、と言われると不安になる。
「光ーー汝の視界を不純なきものに」
そして。
血は浄化された。
だけど、まだ。
彼らの顔が、苦しそうで嫌だ。
「光ーー汝の糧になれ」
それは、ただの偶然だった。
彼らのメインの死因は窒息。そして、ユミが力を集めたのは、顔。
そこは、かぶっていた。
そしてーー
「ん……」
「ううん……」
二人だろうか、目を覚ますものが現れた。
「「え?」」
私とサムエルの声が被った。
◇◆◇
これは、ちょっと前のこと。
突如、黒い闇が現れ、そこから人が現れた。
彼は、もといた人に話しかけられる。
「良くやってくれた。その後は彼らがやってくれるから気にせずともよい」
「はい、理解しております」
神官と神官のようだ。
いや、ただの神官ではなさそうだ。身なりがいい。
そして、不穏な話は続く。
「これで我らも多少は大きくなれるな」
「そりゃあ第一王子を屠ったんですからそれぐらいでないと納得がいきませんよ」
「はは、そりゃそうだ。……今回は本当に済まないことを任せてしまったな。礼を言う」
「もったいないお言葉です」
「これからも頼みにしているぞ。闇霧なんて。悪魔の仕業だとバレてしまうからあまり使ってほしくはないんだがな」
「その点については、誠に申し訳ありませんでした。何分、人が多かったもので」
そう、彼は、悪魔だった。
「まあいい。どのみち隠し通せるだろう。最悪彼らのせいにすればよいだけだ」
「そうですね。そちらの方では動いたほうがよろしいですか?」
「好きにしろ」
「かしこまりました」
そう言って、悪魔の方の男は、消えた。
その後には、闇が、しばらく残っていた。
闇魔法の一つ、転移だ。
「これでもう少しであの国は終わりだ」
そう言って、残った男はクククッと笑った。
◇◆◇
場所は広場の近く。
そこでは、先ほどサムエルとミアが声を上げたところだった。
「「生きてる?」」
またしても、私とサムエルの声が被った。
「確か……聞いたことがあります。闇霧は、動くものに苦しみを与えるが、動かないものには特に何も与えない……と」
そうなのか。知らないことばかりだ。
「彼らを起こしてきますね」
「はい……」
「なあ、何があった?」
護衛のものが話しかけてくるが、私のほうが真実を知りたい。
サムエルは、彼らのもとについたようだ。
「大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫……だ………ってあんた!」
「すみません、静かにしていただけますか?」
「なぜ静かにしなければならねえんだ? 教会の偉大な枢機卿の一人のサムエル殿が悪魔で、実は第一王子を殺した、というのは本当だろう!」
「ああもう……わからない人ですね。こちらにも事情があるんですよ」
サムエルはそんなことを言っているが、聞こえちゃった。
「サムエル様‥…犯人なんですか」