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16.
「俺らの目的は、第3王女なんで。あんたが来てくれるなら喜んで離しますよ。」
シャルムを抱えたまま、紫薇は告げる。
「お嬢様、私のことは気にしないで・・・・!」
「俺は、第3王女と話してるんすよ。黙っててください。」
そう言って、抵抗するシャルムを手刀で気絶させる。
―――これで、私一人になってしまった。
「それで、どうするんすか。」
私は歯噛みする。私の実力じゃ、あいつに負けるのは明らかだ。
―――美音たちに助けを求める?
いや、あの2人のことだから、勝っていたらこっちに向かうはず。
来ないってことは、重症なのか戦闘が終わっていないのか・・・・。
―――可能性にかけて、魔法を使うとか?
あいつとシャルムの距離を考えると、シャルムもダメージをくらうかも。
加減して撃つと、あいつはきっと倒れない。
いったいどうすれば・・・。
すると、シャルムが目覚めたらしい、ぶつぶつと何かを呟いている。
「__あの魔法を使うときが来た・・・? でも―――。__」
そして決意したように、叫んだ。
「お嬢様! 離れてください!」
私は、反射的に後ろへ下がる。
「『黒炎魔法 |黒蕾《こくらい》』」
「『黒炎』の使い手なのか!?あれは伝説の話じゃ・・・・!」
紫薇は、急に焦り始めた。 たしかに、聞いたことのない魔法だけど。
小さな植物の芽が、2人の足元に生えているのが見える。
その芽は急速に成長し、黒い花の蕾は2人を包みこんだ。
「シャルムも中に入っちゃったけど・・・・、いいんだよね?」
一抹の不安が残る、でも私にできることはもう何もない。
――――また、助けられちゃったな。
そんなことを考えていると。
蕾の中で何かが暴れているのか、大きく揺れる。
黒い蕾が閉じ込めた空間から、まるで生き物のように絡みつく炎が吹き出した。
紫薇の叫び声が、花弁の隙間から一瞬だけ漏れる。
そして、蕾がふわりと開き、綺麗な黒いバラが咲いた。
美しさと華々しさ、そして禍々しさを持ち合わせたバラ。
暗黒に染まったそれは黒い霧を散らしていた。
その上に降り立ち、優雅な微笑みを見せたのは―――
シャルムだ。
周囲に紫薇の姿はなく、何かが焦げた跡だけが残っている。
「勝ったの・・・?」
「えぇ、勝ちましたよ。お嬢様。」
短い返答を聞き、私は安堵する。
でも、体の震えは止まらない。震えは、シャルムを心配したからではないから。
シャルムが生み出したバラの禍々しさ。私はそれに圧倒されていた。
・・・大丈夫、なんだよね?
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[シャルム視点]
これは、お嬢様を救うためには仕方がなかった・・・・。
もう、あの魔法を使って後悔はしたくありません。
・・・お嬢様が、もし黒炎魔法を知っていたら。
そのときは、ただじゃ済まないですね。
黒炎魔法は―――。
《《世界を滅ぼす禁忌の魔法》》と言われていますから。
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[美咲視点]
・・・この禍々しさは一旦おいとくとして。
シャルムのおかげで勝てたのは間違いないんだ。
今は、あの2人を助けるのが先だ。
待っててね、2人とも。
まず、私がするべきなのは――――。
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[美音&美和]
「ったく、埒が明かないですね。」
「あぁ、お互いに体力を消耗するだけだ。」
お互いに攻撃を続けるが、決定打となるものがない。
「『神降 |無慈悲な世界《クルーエル ワールド》』」
『|威光《いこう》の|剣冥《けんめい》』が、敵の命を喰らうために天から姿を現す。
「それはもう対処できる。『上級闇魔法 黒影乱舞』」
「美音殿、すまない。そろそろ妖力が尽きそうだ。」
「・・・奇遇ですね、僕もですよ。」
(僕の魔力的に、魔法が使えるのはあと3回くらい。どうすれば。)
「そんなに余裕がないのだろう? 私よりも経験が浅いのだからな。」
「あなたに心配されるほど、弱くありません。敵は黙っててください。」
(そうは言ったものの・・・・。)
(これ、負けるかも。)
美咲たち到着まで、残り10分。
それまで持ちこたえたら、美音たちの勝利。
それまでに重症を負ったら、敗北を意味する。
地獄の耐久戦は、始まったばかりだ。