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英国出身の迷ヰ犬×文豪ストレイドッグス! 3rd.ep_5.
「っまだ追ってきてる…!」
朱雀から降りて自分の脚で街の中を駆ける。
一般人は巻き込みたくないから、裏路地を。
時折飛んでくる銃弾は全て奇獣が弾く。
勿論、跳弾には注意した上で、凡て叩き落としている。
…何をされたって、追ってきている黒服さん達が仲間であることには変わらないから。
まだ追ってきているのか確認しようとした時、
パァン、と鳴って一発の銃声が頭すれすれを通る。
「…っと、...しょうがない、今は人影が全くないし__」
ごめんなさい、と心の中で呟いて、追手の人達を失神させた。
銃を持って武装している相手とはいえ、幹部にかかれば簡単なこと。
「却説、と」
全て済ませてぱたぱたと服に付いた土埃を払う。
「…それで、マフィアの幹部さんがこんな処で何の用かな?」
「…、っ!」
身構えながら突然の声に背後を振り向く。
「、慥かに貴方なら気配を勘付かれずに近づくのも頷けますね、__太宰さん」
うふふ、と笑うその顔に、憎たらしい程殺意が沸く。
けれど、だ。今はそんな場合じゃない。
「…太宰さん、手を貸して下さい」
「勿論だよ、君のお願いを私が断る訳が無いじゃないか」
きらり、と云う効果音をつけ乍ら私の手を取る太宰さんを無視し、ポケットの中で震えた携帯を取り出す。
...ルイスさんからの連絡、!
その内容はこうだった。
__いきなり警報が鳴ったから驚いた、それと中也君は何が起こったのかの確認に部屋を出ていったわ。
その後こっちの|あの人《森鴎外》から、
「トラブルが起きたらしいから、少し失礼するよ」
って云われて、その間にマフィア本部を抜けたところよ。
ルイスも桜月ちゃんに襲撃があったんじゃないかって睨んでるから、何処かで合流しましょう。
...でもまぁ、武装探偵社よね。
先に向かってるわ。
健闘を祈る、アリス、と締めくくられたそのメールにめちゃくちゃ感動しながら、硬直状態の太宰さんを見遣る。
...ルイスさんにアリスさん、云いたいことが全部伝わってて嬉しいけど推察能力が恐ろしくもある。
「太宰さん、私を少しの間探偵社に置いてもらえませんか?」
「ふふ、状況は既に大体聞いている。__勿論だよ」
そう云われてパァ、と顔を輝かせる。
厳重に布を何枚も重ねてから、太宰さんは天馬の上に座ってもらった。
...異能断絶の効果のある布。一応マフィアの保管庫の重要機密だけど。
直接、とはいかなくても、数重にしたら流石に無効化は通らないようだった。
「…ねぇ桜月ちゃん、彼らに如何してこうなったのか聞いてもらえないかな」
「…すみません、私が訊きたいです。あと___」
--- 「なんでボス迄探偵社にいるんですかっ!?」 ---
状況を説明しよう。
私と太宰さんが探偵社について、その扉を開いた時。
中からは歓声と数度のシャッター音が聞こえて来たのだ。
何事かと思い、慌てて中に入ると___ルイスさんのファッションショーと、敵の陣地(?)で深く眠るボスの姿が目に入った。
「…もう一度言わせてください。如何してこうなったのか私も知りたいんですけど何事ですか⁉」
「えっとね、本部を出る直前にボスを引っ張っていこうとしたら、彼は彼で状況を何となく把握してるみたいで、探偵社に移転してくれて」
「来たら名探偵が推理して待っていたからお茶と茶菓子で持て成されたルイス・キャロルに反して、超警戒されまくりで一人眠りこけていた俺」
「…桜月、この御方は何を着ても似合っていらっしゃるのですわ、それが例え女性の物でも」
ナオミ、真顔で恐ろしい事云わないで。
...無言でずいずいと近づいてくるナオミさん。怖いです。
「…兎のぬいぐるみあげる、...えっと、」
「僕はルイス・キャロルだよ、よろしくね」
「…うん、よろしく...ルイスさん、これあげる」
此方は此方で何ともほのぼのとしたやり取りを繰り広げる二人に、おじいちゃんが胸を押さえていたとか。
...孫娘設定、未だあるみたい。
「…ルイスさん、あの、私達の状況の説明は」
「それなら僕が凡て推理しているから大丈夫だよ」
ずい、とラムネの瓶を持ちながら話している間に割り込んでくる乱歩さん。
流石か。
「…取り敢えずそろそろ僕着替えてきていいかな」
「あら、残念ですわ!」
「でも、その恰好の儘でも違和感はなさそうですね!やっぱり都会って凄いです…!!」
賢治くん、、それは関係ないと思う、多分。
そして脳内ツッコミを入れている間に速攻で着替えてきたルイスさん。
私にも出されたお茶と茶菓子を頂きながら、真剣な表情に切り替わったその姿を見る。
見ながら、そして私は真っすぐに声を発するのだった。
__武装探偵社の社員の人々に向けて。
「…単刀直入に云います。私達の置かれた状況は途轍もなく崖っぷち...相手は3人で張り合えるような相手ではない____”私達3人からの”依頼です」
--- 「力を貸して下さい」 ---
正面のソファに座っているルイスさんも、そしてその隣に寝ていた筈のボスも、社員の方を見ている。
「今回の依頼については、私が報酬をお支払いします。__お願い、です…所属する組織からして、私やボスが信頼ならないのは分かります、それに、ルイスさんのことも、突然”別の世界”なんて云われても信じがたいのも分かります、それでも、っだけど、...!」
俯いて、ぎゅう、と膝に爪を立てる。
私に何かあるのは構わない。
それでも、
私達の所為で、ルイスさんに迷惑がかかるのも、このヨコハマに何か危害が加わるのも、どちらも許せない。
それを見かねたのか、ルイスさんが向かいのソファから手を伸ばして、爪を立てる手を優しく私の膝からおろした。
「…僕は友達を、この世界のヨコハマを、見殺しにはできない。その為に、戦い抜く覚悟を持っています___探偵社の皆がそうであるように」
その真っ直ぐな瞳は、誰を貫いていたのだろう。
私には知り得ない、何か。
其れでも…探偵社の人達には、間違いなく届いていた。
彼の心にある、”灯”が。
「…その依頼、承った」
流石に一大事として、社の長として出てきていた社長がそう云った瞬間、肩の力が抜けたような感覚が私を襲った。
それはルイスさんもボスも、同じようだった。
「はぁ…流石に緊張したね」
「でもルイスさんのお陰で探偵社の力が借りれることになったし、本当にありがとうございます…!」
「そう云ってもらえるなら嬉しいな」
わっとお姉ちゃんや敦くんを始めとしたみんなにも沢山の声を掛けられた。
やっぱり皆、優しい。
__この時点で、彼の様子がおかしいと気付けていた筈だった。
この時、気付いていれば、。
………ボスの「違和感」に。