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盲目
早朝の駅前に1人
男は大通りの端で探し物をしていた。
鞄に入れたブツが見つからない。
男は運び屋だった。
幸い人通りはなく、大きな荷物を漁る姿を怪しむ者はなかった。
鞄の奥から物を引っ張り出したとき勢い余ってブツ、拳銃が数個溢れる。
男はうめいた。転がる先に人があるいてきた。真っ直ぐ。拳銃の方に向かって。
白髪の混じった髭をたくわえた爺さんだった。
ついていた杖でコツコツと拳銃をつつく。
「君、」
鞄から出てくる所も見られた。男は話を遮ることに決めた。
「すいませんねお爺さん、私モデルガンの店を経営してまして...勿論全部偽物の銃ですよ!」
「偽物の銃...?」
老人がいぶかしんでいたので男はまた話を遮らなくてはならなかった。
「ここら辺、人通りの割に汚いですね」
思い付いた会話がこれだった。
爺さんがこの辺りにお住まいなら失礼な話だが、動揺と違法物を隠しながら回収する。
「...昨日は縁日をここでやってたそうで、毎年ゴミを路上に捨てる人が絶えなくて...」
まずい。地元の人だったか。
「ところでお兄さん、その銃よく見せてくれんか?」
老人が手をだす。男は凶行策に出た。
「お爺さん、サスペンスドラマはお好きですか?」
「映画ならよく観るね」
「じゃあ運び屋ってのも知ってますよね?」
「そんなタイトルの映画があったな。私はもっと派手な物が好きだが...いかん。話が長引くと始発に間に合わない。時間がないんだ」
こちらの方が時間がない。速歩きに切り替えた老人の後を追う。勿論拳銃を隠し持って。
男の気配に気付いた老人が止まる。
覚悟を決めたようにゆっくりと方向転換する。
張り詰めた緊張感は朝の冷えた空気のせいではないだろう。
老人の髭に隠れた口が重々しく開く。
「心配無用だよ」
老人の方向転換は90゜で止まった。
「今日は点字ブロックが沢山露れているからね」
抜け殻の屋台の残骸を避けるようにゆっくりと歩を進める。
老人は白杖をついていた。
そして老人が乗ったであろう始発電車の動く音で冷静さを取り戻した運び屋はもう1つ気付く。
通りの歩道一帯が点字ブロックで埋め尽くされていたのだ。
とある地域では点字ブロックが急に露れるという。
街の景観を気にせず、ゴミをそこらに捨てる。
そんな「盲目」な人達に事の重大さを分かってもらうためだ。
元々そうなっているのだ。
初夏、盲動、始発