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Proposal
規則的に羽を瞬かせながら、蒲公英の周りを何度も飛び交う紋白蝶を、僕はぼんやりと眺めていた。視線を横にやると、白詰草を器用に編み、花冠を作っている彼女の姿が目に入る。彼女は僕が密かに想いを寄せている人だ。
彼女は完成した花冠を両手で掲げ、くすりと微笑みながら、僕の頭の上にそっと乗せた。そんな仕草一つで、胸の奥がざわつく。これはただの思い込みだと、何度も自分に言い聞かせている。それでも、彼女も僕と同じ気持ちなのではないか、と期待してしまうのだ。彼女の笑みには何の穢れもなく、僕の中に溜まった汚れた感情や弱さを、すべて拭い去ってくれるような気がしたからだ。
彼女とは幼い頃からの仲だった。公園の原っぱで、僕が意味もなく花を摘んでいると、彼女はいつも隣にしゃがみ込み、白詰草の花冠を作ってくれた。その花冠を僕に渡すたび、彼女は決まってこう言った。「ずっと一緒にいようね」あの言葉が、いつの間にか僕の中で特別な意味を持つようになったのかもしれない。
彼女はモテた。向日葵のように明るく、周囲を自然と照らす存在だった。誰に対しても分け隔てなく接し、笑顔一つで人を安心させる。彼女の周りにはいつも人が集まり、僕はその少し外側から眺める役目だった。
成長するにつれ、彼女と僕の距離は少しずつ変わっていった。同じ時間を過ごしているはずなのに、彼女は前へ進み、僕は立ち止まっているような気がした。彼女の笑顔が誰かに向けられるたび、胸の奥がちくりと痛む。そんな自分の感情を、僕はひどく醜いものだと思った。
ある日、彼女はいつもの公園に僕を呼び出した。白詰草が揺れる原っぱで、彼女は少し困ったように笑いながら言った。「好きな人ができたの」その言葉は、穏やかな春の日差しとは裏腹に、僕の心を一瞬で凍りつかせた。
相手の名前は聞かなかった。聞く必要もなかった。彼女は変わらず僕に微笑み、「今までありがとう」と言った。その笑顔は、あの頃と何一つ変わらないはずなのに、僕にはひどく遠く感じられた。彼女が去ったあと、僕は一人、原っぱに立ち尽くしていた。足元には、彼女が作りかけていた白詰草の花冠が落ちている。それを拾い上げ、そっと頭に乗せる。胸の奥が痛む。それでも、不思議と涙は出なかった。
彼女の言う「ずっと一緒」は、永遠の約束ではなかったのだろう。けれど、あの時間が嘘だったわけでもない。そう思えたとき、胸の奥に絡みついていた何かが、少しだけほどけた気がした。
紋白蝶が、再び蒲公英の周りを舞っている。僕は花冠を外し、草の上に置いた。そして、彼女のいない原っぱを、静かに後にした。