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鳩の国 2話
アステリの城から立ち昇る黒煙が、遠くの空をどんよりと汚している。
つい数時間前まで、そこには音楽と笑い声が溢れていた。スターは泥にまみれた豪華なドレスの裾を握りしめ、一歩一歩、重い足を引きずるようにして歩いていた。
スターの小さな体には、この悲劇はあまりに重すぎた。
「……ねえ、少し休まない? みんなもう限界よ」
一行の静寂を破ったのは、カラスのような見た目の女性、ディアの声だった。
しかし、先頭を行くスターの耳には届かない。
彼女の視線は、指輪から伸びる淡い緑色の光線に釘付けになっていた。
この光の先に、母を奪い、国を壊した父・トロイがいる。
「無駄だよディア。お姫様はパパに会いたくて必死なんだ」
後ろからウノが、わざとらしいほど軽い調子で声を上げる。
「でもさ、そんなフラフラで追いついたところで何ができる? 相手はあの『伝説の救世主』サマだぜ。今のあいつは、俺たちの知ってる王様じゃない」
ウノがふらふらと歩み寄り、隣を歩くロージーの肩に手を置こうとした。その瞬間。
「触るなッ!」
ロージーが鋭く叫び、ウノの手を激しく弾き飛ばした。
その瞳には、隠しきれない拒絶と、静かな怒りが宿っている。
二人の間に流れた凍りつくような空気。
「おっと……相変わらず厳しいねえ」
ウノは両手を上げておどけて見せたが、その目は笑っていない。
彼はそのまま、スターの背中に向かって、冷ややかな、けれどどこか確信に満ちた言葉を投げかける。
「……王を見つけて、どうするつもりだ?」
スターの足が、ぴたりと止まった。
「……わからない。でも、パパに聞かなきゃ。どうして、あんなことをしたのか」
「理由があればいいけどな」
ウノの口角が、わずかに歪む。
「俺は、あいつをただ追いかけてるわけじゃない。救世主が何を血迷ったか知らないが……犯した罪には、それなりの報いが必要だと思わないか?」
ウノの言葉の裏に潜む、うっすらとした憎悪。
それは刃物のように鋭くはないが、氷ような冷たさを含んでいた。
父を信じたいと願うスターの心に、言いようのない不安が広がっていく。
「……行こう」
ロージーが、今日初めて自分から言葉を発した。
ウノを避けるようにしてスターの横を通り過ぎ、前へと進む。
その横顔には、誰にも触れさせない孤独な壁がそびえ立っていた。
スターは震える指で、母の形見である指輪を強く握りしめた。
緑の光線は、容赦なく荒れ果てた荒野の先を指し示している。
平和と幸せを教えてくれた父の背中を目指し、スターは再び、重い一歩を踏み出した。
…これ読んでる人いるのか?