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〖極端で苛烈なルッキズム〗
ちょっとクソ長くて...凪&光流パートを入れられなくって...。
多分、次が凪&光流パートだけの内容になるかなと...。
何を言っているのだろうと、固唾を呑んだ。
嫌な緊張感が走っていた。
「...答えられない、かな?」
目の前の男性が酷く大きな怪物のように見えた。
やっとのことで絞り出した声はやや掠れて、どこか力無い声だった。
「どう、い、う...意味だ?」 (ミチル)
「......あ~...」
まるで納得するような顔をして、こちらを見る男性に動悸がやけに激しくなる。
どうにも逃げ出したい気持ちに駆られ、男性から目を背ける。
男性が少し考えて、森を見渡した時、
「君、田村_」
もう、そこには誰もいなかった。
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何かを叩くような音がした。
それが長く、長く続いた。やがて何かが軋むような音に変わってくぐもったような声が響いていた。
薔薇が咲き誇る庭園に一人の男性と猫がいた。
目鼻立ちが非常に整った男性は隣で毛繕いをする猫に向かって、話しかけた。
「ダイナ、鍵の在処に心当たりはありませんか?」
「ないね。もしかしたら、お喋りな薔薇が食べてるかも」
「ここの薔薇は鍵を食べるんですね」 (リリ)
「薔薇が鍵を栄養にするなんて思ってるの?」
「違うんですか」 (リリ)
「さぁ?できるか、できないかは本人次第でしょ。見てよ、あの薔薇...」
ダイナの視線の先に薔薇に水をやる黒薔薇の姿があった。
黒い花弁が所々虫に喰われ、青いオーバーオールを着た庭師。体格的に男性だと見える。
よく見れば、首元は鮮やかな緑の薄い茎で、今にも折れてしまいそうだった。
「...あ...どうも...えっと...」
「やぁ見ない顔だね。新人?」
「ああ、はい、そうです...あの、庭園で何か...?」
「鍵を探しに来たんだ。持ってるよね?」
「鍵...ですか?何に使われるんですか?」
「別に君のその細い首を折ろうってわけじゃないさ。部屋に入りたいんだよ、マスターキーぐらい庭師でも雇用されてるんだから持ってるんだろう?」
ダイナが堂々と述べた言葉に一つの疑問をもったリリが問いかけた。
「庭師程度でマスターキーを持ってるものなんですか?」 (リリ)
「ティー...貴婦人のことだから、持たせざるを得ないさ」
そう答えられ、リリは視線を男性に戻す。
見れば、オーバーオールのポケットを必死に漁る黒薔薇の男性の姿が目の前にある。
「あれ...どこ、行ったかな、えっと...」
だんだんとその行動が激しくなり、手に持った如雨露の水が激しく揺れる。
そして、その揺れる水が如雨露から這い出て、咲き誇る薔薇の一つにかかった瞬間、その薔薇が激しく絶叫した。その姿からは美しさは消え、醜いものへ変貌していた。
「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
その絶叫を聞いて、一斉に他の薔薇達が叫ぶ。庭園内が絶叫の連鎖を迎えていた。
「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
全く同じ長さで、声で叫ぶ薔薇に唖然とする他なかった。
「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
「あ...あぁ...終わった...終わった...終わった...」
その薔薇の中で一つ黒薔薇だけがうわ言のように絶望に暮れる。
地に手をつけ、四つん這いのような状態でその黒薔薇の頭が下がっていき地面に頭を着ける。
許しを請うようにして一人と一匹の前で固まる間、遠くの小屋からごそごそと音がして、やがて小屋の中から出てきたあちこちに鋭いトゲが生えた太く逞しい緑の触手が斧を持って、黒薔薇の男性へ近づいていく。
そして、人の腕のように斧を大きく振り上げ、その細長い茎の首を両断した。
それが済むと薔薇達の絶叫は止み、触手もゆっくりと小屋へ帰っていく。
ポケットから落ちた壮麗な鍵と、うっすらと黒ずんだ水が出る細い茎がオーバーオールを着た身体と黒い花弁が散ったゴミだけが残された。周りの薔薇はいつしか、美しさを取り戻していた。
その壮麗な鍵だけをダイナが拾って固まったリリの前に落とす。
「鍵、見つかったね」
「......そうですね...」 (リリ)
「じゃあ行こうか」
リリがそれを拾ったのを確認してからすっかり静まりかえった薔薇園を歩くダイナ。
それに続くようにしてリリも足を進めた。
何かを叩くような音がした。
それが長く、長く続いた。やがて何かが軋むような音に変わってくぐもったような声が響いていた。
その音が止み、部屋から白い煙の立ち上らせるティーポット頭の貴婦人が真っ赤な絵の具に濡れたパテベラをぶらんと垂らして、足を引きずりながら出ていった。
部屋の中にはぐったりとした女性が一人倒れていた。
何度か鋭いもので刺されたような跡が膝にあり、そこから赤い絵の具が垂れている。
また、顔や腕には何度か殴られたような跡が青痣になり、腕にはくっきりと手形が残っていた。
ただ呼吸は小さくともしっかりとしており、床には嘔吐物の痕も見られるので生きてはいるようだ。
しかし、その弱々しい呼吸をしている女性は満足に起きることも出来ないと見てとれた。
「やぁ...大丈夫?」
女性がうっすらと瞼を開く。
薄汚く毛並みの悪い痩せこけた猫が少し悲しげな顔で女性_結衣を見ていた。
隣には使うことのなかった鍵を持ち、口をあんぐりと開けたリリが棒立ちしている。
「...〖アリス〗、立てるかい?」
「......立てると、思うんですか...?」 (結衣)
「全然?...僕がすっごく大きな身体なら、君を乗せて走れるんだけどね」
ダイナがそう言って、リリを見る。すぐにリリが結衣を抱え、部屋から早足で出ていった。
その時、少しダイナを振り返って、開けた口から言葉を述べた。
「ダイナはどうするんですか?」 (結衣)
「ん?ん~...少し、やることがあるからね...薔薇の庭園にでもいてよ」
「...分かりました」 (リリ)
リリが去る姿を見送って、ダイナは部屋の中にあった白く細い紐を口に咥える。
そして、廊下に出て左右の壁から出た釘に引っかけて、離れたところでごろんと廊下に寝そべった。
やがてこつこつと高い音が廊下に響くと、目の前に花柄のティーポット頭の貴婦人がいた。
頭のひび割れは未だ、治っていない。
「何をしていらっしゃるの?」
「やぁ、ティー。見れば分かるだろう?寝てるんだよ」
「...お止めなさい。床が汚れてしまうわ」
「へぇ...《《床が》》、なんだ」
「............」
「君はいつだって、美しいものに目がない。けど、その趣味を〖アリス〗に乗せるのはちょっと違うんじゃないかい?」
「..................」
「どうだっていいけれど...そのパテベラ、やけに黒ずんでるね?」
「何が言いたいの?」
「`君、すっごく醜いね?`」
そう言われた途端、貴婦人の頭から白い煙が立ち上った。
寝転がるダイナに急速に近づこうとして、縦に引かれた紐に足を引っかけ派手に転んだ。
途端に花柄のティーポットが粉々に砕け貴婦人の身体そのものが動かなくなった。
「陶器ってのはやだね、すぐに壊れちゃうんだから」
ダイナは、嘲笑うようにして割れた陶器の破片を転がし、廊下の先へリリの後を追うようにして小さな手足を動かしていった。