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な き む し ヒ ー ロ ー .
似たような曲や小説がありますが、意識したり似せたりしているわけではありません。もしもこれ完全にアウトだろレベルに似ている部分がありましたら教えていただけると嬉しいです。消すorなおす等の対処をさせていただきます。
ヒーローは今日もわらっています。
あたしとヒーローが出会ったこのスイミングスクールで、喋れる人が他にいないあたしのとなりで、
ヒーローはいつもニコニコわらっています。
コーチにいやなことを言われても、いくら練習がキツくても、あたしみたいにすぐ泣いたりしません。
キツくないの?泣いたりしないの?って聞いたら、
「ヒーローだからね。」
と言いました。
あたしはずぅっと1人でした。
スイミングスクールに入った時にはお友達がいたはずなのに、1人、また1人とはなれていきました。
他のお友達とくっついて、まるであたしをわらっているんじゃないかって思うと、悲しくて、つらくてたまりませんでした。
どうせなら、もういっそ1人の方がいいんじゃないかって気づいて、
それからずぅっと1人でした。
1人になってから2年とちょっとのある日、コーチに
「友達いないの?1人なんて…」
って、まるで友達がいないのを悪いことかのように言われました。
もうちょっと明るくしてみたら?もうちょっと笑ってみたら?もうちょっと、もうちょっと…
そんなコーチの言葉を一つ一つ聞いていたら、もう吐きそうで…
泣きそうになったとき、
「別に好きで1人になっているわけじゃないと思うんですが」
声がしました。
ヒーローも1人でいたんです。
1人でいたあたしがおこられている事に腹をたてて、コーチを止めてくれたんだそうです。
その日から、ヒーローはあたしのヒーローです。
「そこ!!!!!」
コーチが大声を上げました。
それから、コーチはりふじんなことで怒り出しました…
普段から気に入らなかったのでしょうか、ヒーローのことをちゅうしんてきに怒っています。
ヒーローはコーチの方を、まっすぐ見つめていました。
その日の練習が終わったあとです。
ヒーローに、
「ヒーローは、ヒーローだから、泣かないの?」
って聞いたら、ヒーローは静かにわらって、
「ヒーローはね、ちっちゃい頃にたくさん泣いた泣き虫で、今はあんまり涙が残っていないから泣けないんだ。」
って、言いました。
でも、ヒーローは今にも泣きそうな顔をしていました。
それからまた月日が流れ、あたしは大きくなりました。
ヒーローも、大きくなりました。
あたしは、ちょっとだけ強くなった気がします。
ヒーローは、あの日以来、ちょっとだけ、
弱くなった気がします。
あたしは、ヒーローが泣きそうだったあの日から、ずぅっとずぅっと思っていたことを、
ヒーローに言ってみました。
「ヒーローだって、泣いていいと思うよ。」
ヒーローは、なんだか抑えているような気がしたから。
するとヒーローはポカンとして、しばらくこっちを見つめたあと、
「ははっ…」
って笑い声を出して、
泣き始めました。
でも、どうしてか、すっきりしたような表情もしていました。
その日、ヒーローは早退をしました。
早退をしたあの日から、ヒーローは現れませんでした。
それからまた、何年と、何十年とすぎていって、
私は社会人になりました。
ふらーっと東京に行って、仕事して、
ヒーローと出会った、あのスイミングスクールがあった地元に帰ってきました。
あまり変わらないような、変わるような風景に、私はほっと、安堵しました。
そして、なんだか泣きたくなりました。
理不尽な上司、よくできた後輩、毎日の残業、うまくいかない日々…
小さい頃よく泣いていると、泣けなくなると言うのがよくわかりました。
私は、最近なんだか泣けなくなっていたからです。
他の人の悩みをよく聞いて、善人だと思われて、「ヒーローだ」と言われて…
頭を抱え込んで座り込んだら、
「ヒーローだって、泣いていいと思うんだけどなぁ。」
昔より低くなったけど、やっぱり昔と一緒の、暖かみのある声が発した、聴いたことのある台詞が耳に飛び込んできました。