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とある映画のネタバレ、というか内容に触れるシーンがあります。
ピピピピ。ピピピピ。
昨日の夜セットしておいた午前くじのアラームが鳴る。
寝る前に冷蔵庫はすぐにいじっていいって言ってもらえたから、今日は私が朝食を作るんだ!
冷蔵庫の中には…卵、ウインナーあるし、昨日は和食だったから今日は洋食な感じにしよう!
トーストと、スクランブルエッグとウインナーを焼く。
お気に入りのバンドの曲をイヤホンで聴きながらウキウキで料理をしていると、後ろからトンと肩を叩かれる。思わずビクッ!としながら後ろを振り返ると、まだ眠そうにしているヴィオさんが居た。
「あ、ヴィオさん!おはようございます!今日は私がご飯作ったんですよ?ヴィオさんもう食べれます?」
そう聞くと、目をこすりながらヴィオさんが答える。
「おはよー。うん、もう食べれるよ。ジャスちゃんありがと」
「ヴィオさん、今日はどこに行くんですか?」
ご飯を食べながら聞いてみる。
「バイク後ろ乗りたいんでしょ?だから昼前ぐらいに出て、ご飯食べて。そっからジャスちゃんに見せたい映画あるからレンタルビデオ屋に借りに行って、その映画見たらジャスちゃんやりたくなることがあると思うから、それやりに行く」
「やった!バイクいっぱい乗れるんですね!あ、でも映画ってサブスクとかで見れないやつなんですか?」
そう聞くと、ヴィオさんはにやりと笑い言う。
「ジャスちゃんわかってないねー。ジャスちゃんもサブスクで聴けるのに好きなバンドのCD買うし借りるでしょ?それと一緒だよ。物があるのがいいの」
「なるほど!確かに私CDは買うなぁ」
「ジャスちゃんジャスちゃん!あたしが昔着てたワンピースあるんだけど着る?」
着替えようとしていると、ひょっこりと顔だけだしたヴィオさんが言う。
「ホントですか!?やった!どんなのですか??」
そう聞くと、ジャジャーンと効果音を言いながらそのワンピースを見せてくれる。
「…めっちゃ可愛い…!」
そのワンピースはショッキングピンクなタイトなロングワンピースで右側には膝のあたりからスリットが入っている。
「ほんとに可愛い…!ほんとに私が着てもいいんですか??」
「いいよいいよ。なんならあげるし」
あっけらかんとびっくりするようなことを口にする。
「ありがたく受け取らせていただきます…!」
「ジャジャーン!どうです?似合ってます??」
ヴィオさんにもらった服を着た姿を見せる。
「いいじゃん、かわいい。似合ってるよ」
そう言うと私は通り過ぎ押し入れを開けて、小さめの段ボールを取り出す。
「たぶん私がそのワンピースと一緒に合わせてた靴。ジャスちゃんサイズ合う?」
そう言われ箱を覗くと、そこには綺麗な漆黒のハイヒールだった。
「…キレイ。これ、履いてみても良いですか?」
聞くと「いいよ」と返事が返ってきたので、ハイヒールの上に足を下ろす。
「あ、ピッタリっぽいね。今日履く?」
「履きます!嬉しいなぁ、ありがとうございます!」
「気に入ってくれて良かったよ。靴もあげるからワンピースと一緒に使いな」
「…ヴィオさんって神様でしたっけ?」
「バイク最高ー!私も免許取ろっかなぁ!」
「いいじゃん、それだったらバイク買うとき付き合うよ」
「ほんとですか?やったー!夏休みにでも教習所行こっかなぁ」
初めてのバイクの乗り心地は最高で、冬の冷たい風が気持ちよかった。
「ヴィオさん何借りるんですか?」
気になったので聞いてみると、ヴィオさんは少し口角を上げ口元に人差し指を近づけて「ヒミツー!」と笑う。
「ちぇ、何だヒミツかぁ」
「見てからのお楽しみにしてて。ジャスちゃんは好きなとこ見てきな」
「はーい!」
家に戻り、買ってきたポップコーンを食べながら映画を見る。
その映画は自分の恋人にいじめられているゲイの男のコを助けたことで彼のヒミツの宝物…河原に放置された死体の存在を教えてもらう。主人公、ゲイの彼、そして二人の後輩でモデルの女のコの3人で秘密を共有し、歪んだ絆で結ばれていく…という話だった。
映画の公開は最近だけど、原作の漫画は90年代で、ヴィオさんはすごく好きだったらしい。
最後まで見終わったが、言葉では言い表せないし、何かもわからない、得体も知れない傷を心に残されるような、そんな映画だった。
この傷の正体を解明したい、どうすればいいだろうと考えているとあることを思いつく。
「ヴィオさん、私…」
そう言いかけるとヴィオさんは「ちょっと待って!」と遮り口を開く。
「『河原に行きたい!』でしょ?」
そう言い、ニヤリと笑う。
「なんでわかったんですか!?」
ビックリして聞いてみる。
「だってあたしもこれ漫画で読んだとき、河原言って死体探したもん」
と笑う。
「せっかくだし服着替えよー。どうせならあの世界観に浸りたいっしょ。服ならいっぱいあるからさぁ」
「流石古着屋さん…!」
ヴィオさんは緑のシャツの上にグレーのパーカーを着て、ボトムスは膝下までの丈のデニム。
私はポンチョのような形の赤いチェックの上着と、ベージュのショートパンツに黒タイツという格好。
「かわいい!」
「似合ってる、それもあげるよ。あ、荷物全部持って。家よって荷物置いてから行こうよ。一回ここ戻るの遠回りだしさ」
「はーい!」
「河原!河原!死体あるっかな!」
家に荷物を置いたあと、歌いながら歩いていると、ヴィオさんが笑いながら言う。
「そんなに楽しそうにしたい探すの、サイコパスかジャスちゃんかの2択だよ」
「えぇ、2択ですかぁ?」
しばらく2人でセイタカアワダチソウの中をかき分けるが、死体も、他にワクワクするものも見つからなかった。
2人で地べたに寝っ転がりながら話す。
「結局見当たらなかったなぁ、死体」
「まぁ、早々ないだろーね―。それに今の時代じゃなおさら」
「今の時代じゃ?どういうことです??」
気になったので聞いてみる。
「なんか、そんな本読んだんだよね。あのお話がこの時代にあったらってやつ。途中までの話はおんなじなんだけど、最後焼身自殺した女のコいたじゃん?あの子が二人の浮気を疑ったとき、あとつけて、死体見つけて。SNSに投稿しちゃって。それで撤去されるーみたいな。ロマンもクソも無いねー」
「スマホがあるせいで、か」
「だろーね。便利になったけど、そのせいで居場所を失った子も居たのかもねー」
そんな話をしていると、時間が夜だったということもあり、視界が狭くなってくる。そこで私の記憶はなくなった。
明るい光が瞼に差し込んできて目が覚める。
そこにはもう、ヴィオさんは居なかった。
あの映画、「リバーズ・エッジ」ですね。
あたしまだ15歳なってないので、映画見れて無くて漫画だけなんですけど。
面白いので見てみてください!
このお話もあと1話で完結です!
最後まで楽しんでってください!