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君と僕の、夏の境界線 5
東京駅の丸の内改札口は、平日の夕方だというのに、目が回りそうなほどの人波で溢れていた。
地元の駅とは比べものにならない天井の高さ、鳴り響く革靴の音、すれ違う見知らぬ人たちの冷たい視線。
僕は、自分の大学のサークルバッグを肩にかけ直し、スマホの画面に目を落とした。
メッセージアプリの画面には、『もうすぐ着くよ!』という葵からの文字。
葵が東京の大学に進学してから、半年が経っていた。
画面越しのビデオ通話や、毎晩の通話で声は聞いていたけれど、実際に会うのはあの春のホーム以来だ。僕はといえば、地元の大学に通いながら、バイトでお金を貯めて、今日ようやく生まれて初めての東京へやってきたのだった。
「あ、見つけた……!」
人混みの向こうから、小走りで駆けてくる人影があった。
ハッとして顔を上げると、そこには葵がいた。
髪は少し明るい茶色になっていて、ゆるく巻かれている。地元の頃には着ていなかった、東京のセレクトショップで買ったような、洗練された秋物のコートを着ていた。
一瞬、僕の知らない綺麗な大人の女性に見えて、気後れしそうになる。
だけど、僕の前でピタッと足を止めた彼女の顔は、あの頃と少しも変わらない、僕の大好きな葵の笑顔だった。
「蓮! 本当に来てくれたんだ!」
葵は弾んだ声で言いながら、僕の顔をじっと見上げてきた。
「……おう。約束したからな。なんか、ちょっと雰囲気変わった?」
「え、本当? メイク、ちょっと研究したんだ。……変、かな?」
少し不安そうに首を傾げる葵。その仕草に、胸の奥がギュッと締め付けられる。
離れていた時間が一気に縮まっていくような感覚。
「いや、全然。めちゃくちゃ似合ってる」
僕がそう言うと、葵は「よかった」とホッとしたように胸をなでおろした。そして、いたずらっぽく笑いながら、僕の着ているジャケットの袖をツンツンとつついた。
「蓮もさ、ちょっと背伸びた? なんか、地元の時よりかっこよくなってる気がする」
「東京に来るから、一応おしゃれしてきたんだよ」
お互い、ちょっと照れくさくて、最初は敬語が混じりそうになる。
だけど、葵がそっと右手を差し出してきた。
「手、繋いでもいい? ここ、人が多すぎて迷子になっちゃいそうだから」
あの夏祭りと同じセリフ。
僕は何も言わずに、葵の手をぎゅっと握りしめた。半年前よりも少し大人びた彼女の手は、やっぱりあの時と同じように柔らかくて、温かかった。
「ねえ、蓮。まずは私がいつも行ってる、おすすめのカフェに行こ? たくさん話したいことあるんだから」
葵に引っ張られるようにして、僕は東京の人混みの中を歩き出す。
離れていた距離も、お互いの知らない時間も、この繋いだ手のぬくもりがあれば全部埋めていける。
僕たちの新しい季節が、この大都会の真ん中で、静かに動き始めていた。
(つづく)