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テロル
ハイリスクレッド
ショート・ショートストーリー✍ 9
2017年7月11日 午前0時より12時間前、の出来事。
☆
TERRORISM
☆
もぅ梅雨明けも近いのか日射しは容赦なく降り注ぎ真夏日になろうとしていた。
新東名高速道路、上り線の○○サービスエリアの駐車場に7台の乗用車が横並びに止まっている。
色も車種もメーカーもバラバラな7台の乗用車である。
敢えて、共通点といえば全てが盗難車だと言う事くらいだ。
○○サービスエリア内のレストランは駐車場が見渡せるようにと一面が硝子張りの作りであった。
歩行者通路が有り、車両通路が有り、白いラインで区切られた駐車場が有る。
もちろん駐車場からもレストランの中は丸見えである。
7台の乗用車は運転席以外に人は乗っていない。
正午過ぎレストランが混み始めた。
7台並んだ乗用車の真ん中の1台からひとりが降りて歩き出す。
黒いスニーカーにストーンウォッシュのグレー色のジーンズ、黒いジャンパーに黒いベースボールキャップで黒いサングラスをかけている。
真夏日になろうとしている今日には不向きな服装である。
しかしそんなことはお構いなしに混み始めたレストランに向って歩いている。
その後ろ姿のウエストからヒップへのラインはなだらかで女性と思われる。
目元はサングラスで隠れているが鼻筋は真っ直ぐに通り、形の良い唇をしている。
頬のラインはシャープだが顎の先は緩やかにカーブしていた。
黒い手袋をはめた右手には有名デパートのロゴがデザインされた大きめの紙袋を下げている。
その女性と思われる人物はレストランの入口のメニューサンプルには目もくれず入店する。
店内の中央まで行き立ち止まりゆっくりと周りを見回す。
ざっと目だけで客数を数え、厨房内に目を向ける。
60人前後と当たりをつけると外の駐車場が見える硝子張りの一面の前へ向かう。
硝子張りの一面の前に立ち駐車場の7台の乗用車に向って左手を上げ、OKサインを送った。
OKサインを見止めた運転席にいた残りの6人が動き出す。
運転席から出てきた6人はレストラン内にいる人物よりも逞しい身体つきで、あきらかに男性であった。
男達はレストラン内にいる女性と思われる人物と似た様な出で立ちだった。
違ったのは黒いマスクで顔を完全に隠し、左手には新聞紙に巻かれた1メートル程の棒状の物を持っている事だった。
6人の男達も入口のメニューサンプルにも目もくれず入店した。
2人が奥の壁際へ進み立つ。
2人が厨房の前に進み立つ。
残った2人は入口近くに立った。
入口近くに立った男のひとりがジャンパーの裾をめくり上げサバイバルナイフを取り出し流れる様な動作でレジにいた女子従業員に向ってサバイバルナイフを突きつけると低く声を出した。
「店の入口を閉めろ、ロックもするんだ」
女子従業員は目を見開き呆然としている。
「聞こえたのか」
そう言いながら男はサバイバルナイフの先を女子従業員の胸に軽く突き立てた。
女子従業員はその痛みに我に返ると声も出さず頷きながら入口へ向って小走りに駆け出し入口を閉めロックした。
最初に入店し硝子張りの前にいた女性らしき人物が入口がロックされた事を見止めるとジャンパーの裾をめくり上げサバイバルナイフを取り出し大きく声を出した。
「皆さん、食事を止め、両手を上げて下さい」
客達はその声に顔を上げ声を出した女性らしき人物に注目した。
同時に6人の男達は巻かれたいた新聞紙を取り払い鈍く銀色に光る棒状の物を右手に持ち身体の前に掲げた。
鉄刀である。
一般の人々には抜き身の日本刀に見えるかも知れない。
硝子張りの前に立つ女性らしき人物の手にしているサバイバルナイフを目にした客達は息を呑み動きを止めた。
「皆さん、ただいま、この場は我々に占拠されました」
と今一度声を出す。
客達は店内を見回しさらに息を呑んだ。
状況を理解した者から徐々に客達が手を上げていく。
全員の手が上がると女性らしき人物は硝子張りの前から店内中央のテーブルへ歩み寄る。
中学生くらいの女の子に小学生高学年くらいの男の子と両親の4人家族がそれぞれ注文した料理を前に座っている。
女性らしき人物が女の子の首元へサバイバルナイフを静かに当て声を出した。
「立って、料理を隣のテーブルに移すんだ」
女の子の身体が震え始める。
それを目にした母親が立ち上がり、私がっ…と掠れ声を出した。
女性らしき人物が、うん、と頷く。
母親が料理を移動させ、テーブル上に何も無くなった。
「携帯電話、スマートフォン、タブレット、パソコン、持っているモバイル端末全てをテーブルの上に置くんだ」
父親は、うん、うん、と頷きながら家族を見回し携帯電話をテーブル上に手早く置いた。
続いて、母親が、女の子がスマートフォンをテーブル上に置いた。
「立って壁際へ移動しろ」
父親が立ち上がり、男の子が立ち上がり母親に肩を抱かれる。
女の子が立ちがろとすると女性らしき人物は肩を押さえた。
「アナタは座っていていい」
父親が女性らしき人物に顔を向ける。
女性らしき人物は気にも止めず声を出した。
「早く移動しろ、この娘が痛い目にあうぞ」
父親は奥歯を噛みしめ、両拳を握り締めた。
仕方ないと父親が歩き出す。
母親と男の子が歩き出し壁際へ移動する。
「皆さん、お手持ちの携帯電話、スマートフォン、タブレット、パソコンなど全てのモバイル端末をこちらのテーブル上に置き、壁際へ移動してください」
不服な顔をしている客達に向って続けて声を出す。
「不服な方がいればこの女の子に痛い目にあってもらいます、原因は貴方達だ」
女性らしき人物がサバイバルナイフを高く持ち上げかざす。
ま、待ってくれ。慌てて声を出した不服顔をしていた客達がスマートフォン、タブレットを取り出しテーブル上へ置きにくる。
「そのまま壁際へ移動しろ」
言われるままに客達は移動した。
次々と客達がテーブル上に携帯電話、スマートフォン、タブレット、パソコンなどを置き壁際へ移動して行った。
続けて従業員達に声を掛け全ての料理を片付けさせた。
女性らしき人物はテーブル上に置かれた携帯電話をチェックし、バッテリー量の多い物をの6台を選び出す。
料理の片付けられたテーブルに並べていく。
「並べた携帯電話の持ち主は前へ出てきて下さい」
壁際へ立たされていた中から6人の持ち主が恐る恐る前に出てくる。
女性らしき人物は持参した紙袋からクリアファイルを取り出し6枚の紙を6人それぞれ1枚づつ手渡した。
渡された紙にはテレビ局6社の社名と電話番号が1枚づつに表記されている。
それと共に、テレビ局へのメッセージが記されている。
「それぞれに渡された紙に書かれたテレビ局に電話をして、メッセージを伝えてください」
と言い、少し間を取り改めて声を出した。
「スタートです」
自分の携帯電話と渡された紙を見つめてオロオロと6人がしていた。
その様子に女性らしき人物が声を荒らげる。
「オイ、早くしろ」
同時にサバイバルナイフを横に振る。
シュン、とサバイバルナイフが空を切る音が響く。
その音に首を竦めた6人が慌ただしく携帯電話を手に取り電話を掛けはじめた。
電話が繋がりメッセージを読み上げる声が聞こえ始める。
『報道部へお願いします。
現在、新東名高速道路、上り線、○○サービスエリアのレストランが占拠されいます。
中継に来て下さい。
現地レポーターを同行させてください。
このメッセージは他のテレビ局にも同時に伝えています、一番乗りのテレビ局をメインとして扱います』
メッセージを読み上げ終わるとテレビ局からの質問が返されてきた。
6人はそれぞれに戸惑い、女性らしき人物に顔を向ける。
「ありのままを自由に話しをしてくださって結構です」
女性らしき人物は余裕の返事をする。
その時、店内の有線電話の呼び出し音が鳴り響いた。
従業員が慌てて女性らしき人物を見る。
「責任者の方、電話に出て下さい」
は、はい。と慌てて責任者が電話に駆け寄り受話器を取る。
はい、はい。と返事を繰り返している。
し、しばらくお待ちください。と返事し女性らしき人物を見る。
また女性らしき人物は余裕の声を出す。
「ありのままの事を話してください」
額に汗しながら責任者が説明を始める。
また会話を止め責任者が女性らしき人物を見て、おずおずと問いかける。
あの、警察に連絡すると言ってますが。
女性らしき人物は僅かに微笑み声を出した。
「はい、お願いします、警察が到着後は、こちらで対応します」
えっ。と責任者が驚きの声を思わず出した。
女性らしき人物は頷きながら責任者に電話に返事をする様に促した。
言われた通りに返事した責任者は受話器を置き、大きく溜息をついた。
☆
一面硝子張りの面は、1箇所以外はブラインドが降ろされている。
ブラインドが降ろされていない場所には5人の男性客が立たされている。
真ん中の男性だけが外に向かされ他の4人は内向きである。
外に向かっている男性が声を出した。
「テ、テレビ局が来ました」
女性らしき人物が問返す。
「どこのテレビ局」
「Aテレビ局です」
「わかった、手を振って誘導してあげてください」
はい、と返事をすると男性はAテレビ局の中継車に向って手振り身振りを始める。
それを目にした中継車が男性の前の車両通路に止まる。
ひとりの男性が降りてくる。
硝子越しに男性同士が向き合う。
客の男性が小さなメモ用紙を中継車から降りてきた男性に見せた。
メモ用紙には、携帯電話番号が書かれている。
電話を掛けるようにと身振りで示すと中継車から降りてきた男性が慌てて自分のスマートフォンを取り出し示された番号に発信した。
呼び出し音のコールが始まる。
店内のテーブル上に集められた1つの携帯電話が着信音を発する。
女性らしき人物が着信音のしている携帯電話を手に取り通話ボタンを押し通話を始めた。
『も、もしもし、テレビ局の者ですが』
「ご苦労様です、お名前は」
『Aテレビ局の朝日といいます』
「ボクは、占拠者team のTalk係の JOKER。
では、朝日さん、Aテレビ局をメインに生中継をしてもらいます」
『えっ、どう言う事でしょうか』
二人が通話している間に次々と他のテレビ局が到着して来る。
「生中継は全てのテレビ局にしてもらいます、ただし、リポーターを立てれるのは朝日さんのテレビ局だけです。現場は朝日さんが仕切って下さい」
『しかし、それを他のテレビ局が譲らないのでは』
「依存のあるテレビ局の方を硝子張りの前に連れて来てください、私がお話しいたしますから」
『はい、そういう事なら承知しました』
「朝日さんあなたは賢いですよ、では、レポーターを立て下さい、そして今通話中のスマートフォンをレポーターに持たせてください」
『はい、承知しました』
Aテレビ局の朝日が身を翻し中継車へと駆け出した。
朝日は、テキパキと指示を出し中継体制を整えていく。
他のテレビ局の中継車へも駆け回り占拠者team の JOKERからの言葉を伝えていく。
その間にAテレビ局のレポーターが中継カメラの前に立ち左手にマイクをもちスマートフォンをハンズフリーにし右耳へ装着しスタンバイしている。
Aテレビ局のレポーターは女性であった、ニュース番組ではお馴染みの顔だ。
ひとりの男性が不機嫌顔で硝子張りの前に歩み寄って来る。
硝子越しに何事か話しかけてきている。
外に向って立っていた客の男性が店内を振り返り JOKERを見た。
JOKERが新しいメモ用紙を客の男性に向け突き出す。
男性が駆け寄りメモ用紙を受け取ると硝子越しに外の男性に向ける。
メモ用紙には別の携帯電話番号が書かれている。
客の男性はまた身振りで電話を掛けるようにと伝える。
外の男性は不機嫌顔のまま自分の携帯電話を取り出し番号をプッシュした。
店内のテーブル上の携帯電話のひとつが着信音を発する。
JOKERが携帯電話を手に取り通話ボタンを押す。
『も、もしもし、中継の件だけどうちはウチでやりたいんだ』
「それは、私の指示には、NOっていう事ですね」
『それがどうしたんだ』
と男性が強気に答える。
「どちらのテレビ局ですか」
『Nテレビ局ですが』
「わかりました、そのまま待って下さい」
そう言うと JOKERが左手を上げ、人差し指を立て厨房前の仲間に見せた。
厨房前にいた2人の男が壁際へ立たされている客の男性をひとり両脇から抱え硝子張りの前に連れてゆく。
硝子張りの前に客の男性を立たせ、ひとりの男に後ろから羽交い締めにし、もうひとりの男が前に立った。
JOKERが通話をまた始める。
「Nテレビ局の方、店内が見えてますか」
あぁ、と戸惑いながら返事をする。
はがいじめにされた客の男性の前に立っていた男が右手を振った。
パッシ、と客の男性の顔面が殴られた。
続けて左手、右手が連打される。
Nテレビ局の男性の表情がサッと強張る。
『何を、何をしている』
慌てて通話をする。
「殴ってます、あなたからYESが聞けるまで殴り続けますけど」
『そんな、むちゃくちゃな』
そんな通話の間にも客の男性は殴られ続けている。
「こちらの指示には、YESでしょうか」
ん、ん、とまだNテレビ局の男性は渋っている。
JOKERはAテレビ局のレポーターと通話を始める。
「硝子越しに店内、見えてますか」
『は、はい』
「生中継は開始されてますか」
『はい、大丈夫です』
「では、店内をズームして撮して下さい」
『はい』
レポーターはAテレビ局のカメラを誘導し店内をズームし撮し始めた。
JOKERはテーブル上のスマートフォンを1つ手に取りワンセグテレビをAテレビ局に合わせ画面を確認する。
レポーターへ通話をする。
「私の言う通り復唱し中継してください」
『はい』
「現在、店内で客の男性が殴り続けられています、原因はNテレビ局が占拠者team の指示にNOと言ったためです」
「どうぞ」
レポーターの女性は、グッと息を呑み、ゆっくりと息を吐き声を出し、JOKERの言葉を中継カメラに向かい復唱した。
Nテレビ局の男性との通話を再開する。
「生中継されてますよ、あなたが原因です」
ん、ん、わかった。と言葉を吐き出し男性は通話を終わらせNテレビ局の中継車へと戻っていく。
JOKERは左手を上げ手の平を見せる。
殴られていた男性の羽交い締めが解かれその場に崩れ落ちる。
占拠者の男2人は崩れ落ちた男性を引きずり隅へと転がした。
外を見ていた男性が上擦って声を出した。
「け、警察が来ました、凄い数です」
その声を聞きながら、JOKERはテーブル上のスマートフォンを6台並べワンセグテレビで各テレビ局の生中継を確認していた。
猛烈なスピードで警察車両が数台、テレビ中継車の前を遮るように停車する。
先頭車から中年の男性が車両から出てきて何かを喚き散らしている。
さがれ、さがれ、なんでテレビ局が前にいる。
多勢の警察官がテレビ中継車の前で大声を出しながら手を振り動き回っている。
先頭車から出てきた中年男性が硝子張りへ目を向ける。
外を見ていた男性が手を振って中年男性を呼び寄せる。
メモ用紙を硝子越しに見せる。
また別の電話番号が書いてある。
中年男性が携帯電話を取り出し番号をプッシュした。
店内のテーブル上のスマートフォンが着信音を響かせる。
JOKERはそのスマートフォンを手に取り通話を開始する。
『もしもし、警察だ』
「見ればわかりますよ」
ん、女か。中年男性が口走る。
「ボクは、JOKER。おじさんは」
『おじさん、って、刑事だ、県警の田中だ』
「田中さん、警察車両をテレビ局の中継車の後方へ下げてください」
『そん、そんな事は出来ない』
「NOですか」
『当たり前だろう』
JOKERが左手を上げ、人差し指を立てる。
占拠者の男2人がまた手近な男性客を引き連れ硝子張りの前に立った。
「田中さん、硝子越しに店内が見えてますか」
あぁ、見える。と田中が返事をした。
羽交い締めされた男性客が殴られ始めた。
それを目にした田中の目が見開かれる。
『何を、何を、してる』
「お客様に痛い目にあってもらっています」
『何故だ』
「警察車両がテレビ局の中継車の後方へ下がるまで殴り続けます」
そんな馬鹿な。田中は唇を噛んだ。
JOKERがテレビ局のレポーターに通話する。
「聞こえてますか」
『はい』
「では、また復唱してください」
「現在、お客様が殴られています、原因は警察が占拠者team の指示に従わないためです」
レポーターが JOKERの言葉を復唱する。
ワンセグテレビで確認をすると JOKERは田中と通話を再開する。
「田中さん、今の現状が全国にテレビ中継されていますが」
そんな。田中がつぶやく。
「お客様が殴られ続けているのは田中さんが原因です」
JOKERの言葉に田中は頭を左右に振り唸っている。
しばらくすると田中が顔を上げ、警察車両に向って叫び出した。
さがれ、さがれ、警察車両はテレビ局の後方へさがれ。
警察官達が困惑顔になっている。
人質の安全が第一だ、早くしろ。田中の声が響き渡る。
警察車両はすごすごとテレビ中継車の後方へ下がって行く。
殴られていた男性客がその場に崩れ落ちる。
また隅へと転がらされる。
さらに JOKERは田中に指示を出した。
「SIT、SATの配備を拒否してください」
うっ、と田中が息を呑み、唸る様に答えた。
『それは、一方的には判断を示せない』
なるほど、と JOKERはつぶやき、左手を上げ人差し指を立てる。
「田中さん、ご老人に痛い目にあっていただきましょう」
その言葉に田中が硝子越しに店内を見た。
男性の老人客が殴られ始める。
やめろ、やめてくれ。田中が叫んでいた。
『わかった、拒否するからやめてくれ』
田中の返事を聞くと JOKERが、では、と改まって声を出した。
「要求を出します、田中さんテレビカメラの前に立ってください、あなたは公的証人です」
田中は頭を左右に振りながら仕方なくカメラの前にレポーターと並び立った。
JOKERはレポーターへ復唱を促す。
「直ちに、この場に、総理大臣、官房長官、法務大臣を呼び寄せる事」
リポーターが復唱し生中継で全国に要求の第一段階が明らかにされた。
☆
総理大臣官邸。
新東名高速道路、上り線、○○サービスエリアのレストラン占拠の生中継のテレビ画面に釘付けになっていた総理大臣はぐっと息をつまらせ目を見開き、我が耳を疑った。
それから10分後、官房長官と法務大臣が駆け込んできた。
その後を追うように内閣府の担当職員が駆け込んでくると総理大臣へ声を掛けた。
「総理、いかがいたしましょうか」
総理大臣は担当職員をジロリと睨みながらお決まりの台詞を口にした。
「我々は、テロには屈しない、テロリストの指示には従わない」
その時まるで総理大臣のお決まりの台詞を聞いていたかの様にテレビ画面の中のリポーターが話し始めた。
「総理は占拠者の指示には従わないようです」
その言葉が終わると、中継カメラが硝子越しの店内へズームインしてゆく。
白いサマーセーター姿の女性客が後ろから羽交い締めにされ前からサバイバルナイフを突きつけられていた。
スッとサバイバルナイフの先が振られ女性客の肩口へ刺さった。
サバイバルナイフの先が抜かれ鮮血が白いサマーセーターを赤く染めた。
またサバイバルナイフが振られ、刺さり、抜かれ鮮血が白いサマーセーターを赤く染める。
またまたサバイバルナイフが振られ、刺さり、抜かれ鮮血が白いサマーセーターを赤く染めてゆく。
リポーターの声が被ってくる。
「ただいま、総理が占拠者team の指示に従わないために女性客の方が犠牲になっています、原因は総理大臣です」
その画面の映像とリポーターの声に総理大臣は固く目を閉じて頭を左右に振った。
内閣府の担当職員が思わず声をかける。
「総理、このままでは犠牲者が増えるばかりです」
その声に総理大臣は目を開け苦しげに声を出した。
「行きましょう、あの場所へ」
続けて、官房長官、法務大臣に視線を向ける。
官房長官は苦々しい表情で渋々と頷く。
法務大臣は俯いたまま視線も上げず無言のまま立ち上がった。
またタイミングを合わせた様にテレビ画面からレポーターの声が聞こえくる。
「1時間以内に総理大臣、官房長官、法務大臣がこの場に来ない時は、さらにお客様が痛い目にあう事になります」
無理だ、車で2時間はかかる。と担当職員がひとり呟いた。
「ヘリコプターを飛ばすように指示を出しなさい」
その担当職員に総理大臣が指示を飛ばした。
45分後、警視庁の文字を記されたヘリコプターが○○サービスエリア駐車場後方へ降りてきた。
ヘリコプターのプロペラの起こす強風のなか機体のスライドドアが開かれ3人の男性が降りてくる。
総理大臣、官房長官、法務大臣の3人である。
頭を下げ背を低くして早足にヘリコプターから離れる。
ヘリコプターはそれを確認するとフワリと浮き上がりその場から離れていった。
3人の警察官が駆け寄り案内をする。
中継カメラから映されたテレビ画面のセンターに総理大臣が立ち、右側に官房長官、左側に法務大臣が立った。
3人の斜め前にはレポーターが立ち、斜め後ろに県警の田中が立っている。
レポーターが中継マイクを総理大臣へ向け JOKERからの言葉を復唱し問いかける。
「占拠者team からの要求に従いますか」
総理大臣はレポーターを、キッと強く睨んでから中継カメラを睨み声を出した。
「我々はテロには屈しない、テロリストには従わない」
お決まりの台詞だった。
「総理、店内を見て下さい」
レポーターの言葉に総理大臣が硝子越しに店内を見つめる。
官房長官も法務大臣もそれに倣う様に店内を見つめている。
男性客が羽交い締めにされている。
男性客の前に黒いマスクに黒いサングラスで黒いベースボールキャップの男が向き合って立っている。
男の右腕が自分の左の腰辺りから、スラリと動いた。
その右手には鈍く銀色に光る鉄刀が握られている。
男は鉄刀に左手を添え、上段に構えた。
鈍く銀色に光る鉄刀を目にした瞬間、官房長官が思わず口走っていた。
日本刀!?
その言葉に総理大臣が官房長官に瞬間的に視線を向け、店内へ視線を戻した。
羽交い締めにしていた男が腕を解き後退ると鉄刀が袈裟懸けに振り下ろされた。
男性客の身体が一瞬仰け反るとそのまま崩れ落ちた。
総理大臣の目は固く目を閉じて身を震わせている。
レポーターが容赦なく問いかける。
「占拠者team からの要求を受けますか」
総理大臣が苦しげに声を出す。
「とりあえず、とりあえず内容を聞きましょう」
無言の間が開いた後、JOKERが声を出した。
「本質の要求は、ふたつ」
ふたつ、と総理大臣の眉が僅かに動く。
「ひとつ目は、共謀罪法の施行を停止し完全白紙撤回する事」
ぐっ、と総理大臣が顎を引き息を呑み、吐き出す様に声を出した。
「それは、議会で決議されるもので、私ひとりの意思では撤回出来ない」
その言葉の終わりと同時に硝子越しに女性の老人の客が立たされた。
女性の老人の客の前に立った男が鉄刀を上段から袈裟懸けに振り下ろした。
刹那、甲高い声が響いた。
やめてぇ!
それはリポーターの声だった。
鉄刀が女性の老人の首筋紙一重で止まる。
リポーター自身の言葉が発せられ始めた。
「総理、どれだけの犠牲者を出せばいいんですか。多くの国民が納得していない、共謀罪法にどれだけの重さがあるのですか」
総理大臣がリポーターを睨みつけ沈黙の時間が流れる。
唇を噛み顔を上げ、総理大臣がかすれるように声を出した。
「施行は停止し撤回し白紙に戻します」
法務大臣が目を見開き総理大臣へ視線を向ける。
「人命を優先させるのです」
その言葉に法務大臣が頭を上下させ返事を返す。
「はい、共謀罪法は白紙にいたします」
総理大臣の顔は苦渋に満ち、法務大臣の顔はホッとした表情であった。
☆
「要求のふたつ目です」
リポーターがまた JOKERの言葉を復唱し始めた。
「沖縄県の辺野古への米軍基地移転工事を即刻中止し、移転を撤回してください」
その要求を聞くと総理大臣は深呼吸をする様に天を見上げ息を吐く。
「しかし、それは、米国との兼ね合いがある、一方的には厳しい問題です」
お決まりの台詞を総理大臣は口にした。
硝子越しの店内にまた女性の老人客が立たされた。
それを見止めた総理大臣は思わず声を出していた。
「もう、やめてくれ、工事は中止し米国との折衝するから」
そう言った総理大臣の肩は力無く落ちてる。
官房長官は横目で総理大臣を睨み鼓舞するよう声を出した。
「総理、総理」
総理大臣はその声に頭を左右に振り、もう、終わらせましょう。と呟いた。
公式に残るわけではないのだから、この場を、納めましょう。とさらに呟いた。
しかし、その呟きはレポーターの差し出されていた中継マイクに拾われ全国中継されていた。
JOKERがリポーターに通話で最後の指示を出した。
最後の指示をレポーターが復唱する。
「総理大臣、官房長官、法務大臣、中継カメラに向かい撤回宣言と謝罪、土下座してください」
その指示に総理大臣、官房長官、法務大臣が唖然としレポーターを見返す。
レポーターが頷き、中継カメラへと促す。
チラリ、と総理大臣が硝子越しの店内に視線を向ける。
まだ女性の老人客が立たされ鉄刀の切っ先が向けられている。
覚悟を決めた様に総理大臣は奥歯を噛み中継カメラに整体した。
官房長官は苦い顔で従い中継カメラに向かい、法務大臣は抵抗も無く中継カメラに向った。
「共謀罪法の施行を停止し白紙撤回します。辺野古米軍基地移転工事を中止します。国民の皆様、沖縄県民の皆様を蔑ろにし申し訳ございませんでした」
弱々しい総理大臣の言葉の後、3人は地面に膝を付き両手の平を地面に付き頭を下げた。
JOKERの横に腰を下ろしていた男がタブレットをタップ操作し声を出した。
「OKだ」
総理大臣、官房長官、法務大臣の土下座謝罪シーンが世界的動画サイトにより世界に拡散されたのだ。
総理大臣が立ち上がり硝子越しの店内に目を向けたと同時にブラインドが全て降ろさた。
JOKERが持参した紙袋から2リットルペットボトルを2本取り出した。
ペットボトルの中には透明な液体が満たされている。
続けて紙袋から携帯式ガスボンベを2本取り出した。
ブラインドに近づきペットボトルの蓋を開ける。
クッ、と異臭が漂う。ガソリンの匂いだった。
ブラインド沿いに、ガソリンを振り撒き始める。
2本のペットボトルが空になるとガスボンベを180センチ程間隔をあけ一本づつ置いた。
店内のテーブルは横倒しにされ天板はバリケード代わりガラス面に向けてある。
レストランの責任者に裏通用口のドアを開けさせる。
拘束されている客達にバリケードの陰に隠れ身を伏せるように指示をする。
全員が身を伏せた様子を確認した JOKERはジャンパーのポケットからオイルライターを取り出し火を起こした。
ガソリンの撒かれたブラインドへ向けてライターを放り投げた。
バッ、と一瞬で炎が立ち昇る。
ブラインドを炎が舐め溶け落ちる。
その時、硝子張りの外側では警察官らが駆け寄り店内を窺おうとしていた。
突然立ち昇った炎に驚き慌てて後退し始める。
その時、一本目のガスボンベが爆発した。
一面硝子張りの硝子が砕け散る。
続けて、2本目のガスボンベが爆発する。
爆風に立ち昇った炎が暴れる。
暴れた炎の一部が通用口から吐き出される。
「走れ、一列で、通用口から脱出しろ」
男の怒鳴り声がした。
その声が誰のかさえわからなかった。
それでも全員が、男の怒鳴り声に従いながら駆け出した。
占拠者team6人の男はベースボールキャップとサングラス、マスク、手袋を炎の中へ投げ込み、鉄刀とサバイバルナイフも炎の中へ投げ込んだ。
JOKERも黒いベースボールキャップを取る。
長い黒髪がサラリと現れる、サングラスと手袋を外し、手にしていたサバイバルナイフと供に炎の中へと投げ込んだ。
さらに占拠者team 6人と JOKERはジャンパーを脱ぎ暴れる炎の中へ投げ込む。
占拠者team 7人それぞれの好みを表している様な色、柄の描かれたカジュアルな衣装に変わっている。
脱出している客達の後尾に付き、自分達が負傷させた負傷者達に肩を貸し、抱きかかえ続いて占拠者team7人も難なく脱出した。
負傷者達を抱きかかえ、肩を貸していた、6人の男と JOKERが一目散に救急車へ向って駆け寄り、家族を装い救急車へと乗り込む。
負傷者と6人の男と JOKERを載せた救急車は順次この現場を離れて行く。
新東名高速道路、上り線、○○サービスエリアの混乱が納まった時には、占拠者teamと JOKERと名乗った者達は消えてしまっていた。
☆
それから、一月後。
テロに屈した総理大臣として世界中から非難され政権の座から追われた。
議会は解散され、総選挙となり与党は入れ代わった。
それにより共謀罪法は廃止となり、辺野古米軍基地移転工事は無期限中止にされた。
終り。