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4.気づき
(><)
かわいいこれ
夏休みが明けても、高柳さんは学校には来なかった。
私が彼女の家にプリントを届けに行くのはもはや習慣となっていたし、今更面倒臭いとかそんなのは思わない。
ただ、勉強大丈夫なのかなというお節介な疑問は時折抱く。もちろん、訊かないけど。
インターホンを人差し指で押す。ピンポーン。しばらく待つとドアが開いた。
「あ。久しぶり。」
挨拶してプリントを渡す。受け取る高柳さんの肌は、夏休み前と変わっていないか、あるいはさらに白くなっている気がした。外に出ていないのだろう。
「先生が良ければ来てねって言ってたよ。」
みんな待ってるからと先生からの言葉を続けようとしてやめた。
こんな言葉は薄っぺらいし、嘘ではないが事実でもない。みんな、学校に来ていない子のことまで考えるほど余裕があるわけじゃない。
高柳さんは口を開いた。でもすぐに閉じた。
なに、と訊こうとしたけど、言うほどじゃないなら大したことでもなさそうだ。
私はいつも通りじゃあねと残して帰ろうとした。
「もう来なくていい。」
足を踏み出した時、高柳さんは硬い声を出した。
「…もう来なくていい。」
彼女はそう繰り返したあと、ドアを閉めた。鍵がかけられる音が聞こえた。
家に向かって歩きながら、私は沸々と怒りが湧いているのを感じていた。
もう来なくていいって、もう少し感じの良い言い方があるでしょ。結局最後まで感謝の言葉なかったし。
せっかく私が、プリントを届けに行ってあげてたのに。
そこまで考えてふと気づいた。
私が今まで、彼女に感謝の言葉ひとつかけられなくても苛立たなかった理由とか、面倒臭いと思わなかった理由とかを、理解した。
私は結局、自分に酔っていた。
不登校の子、つまりは弱い子に、わざわざプリントを届けにいってあげる自分。
感謝されなくても優しく接してあげる自分。
そういう自分が好きだったし、そこに価値を見出していた。だから、届けに行かなくても良くなったら、私の価値が下がってしまうと危機感を抱いているのだ。
気づいてしまった今、全部がつまらなくなった。
月曜日、担任に「高柳さんにもう来なくていいと言われてしまった」とか相談しなきゃな。
それが面倒で、私は思わずため息をこぼした。
続きのアイデア誰かちょうだい
誰かがくれるまで言い続ける(><)
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