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嫌いな彼と
雨がやんだ夜。
俺たちは、言葉もなく悠馬の部屋へ向かった。
迷いも、遠慮も、本当はまだ心のどこかにあった。
でもそれ以上に――確かめたかった。
あの夏に言えなかった想いを、今、体温で伝えたかった。
部屋に入っても、しばらくは会話もなかった。
ただ、カーテンの向こうに残る雨音と、時計の針の音だけが静かに鳴っていた。
そして、先に動いたのは悠馬だった。
ソファに座っていた俺の隣に腰を下ろし、
まるで何かを許してくれとでも言うように、目を伏せながら肩に寄りかかってきた。
「……触れてもいい?」
その声に、俺は頷いた。
指先が、そっと頬に触れる。
少し震えた手だった。怖がっていたのは、きっと俺だけじゃない。
口づけは、やさしく始まった。
けれど、それはすぐに、言葉よりも深く、長く続いた。
夜が深くなるにつれ、ふたりの距離はゆっくりと、けれど確実に縮まっていった。
シャツのボタンが外される音も、ためらいながら服を脱ぐ手つきも、
どこか不器用で、でも誠実だった。
言葉は、あまり交わさなかった。
その代わりに、触れ合う指と、重なる呼吸がすべてを伝えていた。
肌と肌が触れた瞬間、
あの頃の「届かなかった想い」が、やっとひとつになった気がした。
はじめて触れる悠馬の温度は、
想像していたよりもずっと繊細で、ずっと――切なかった。
決して激しくはなかった。
ただ静かに、そっと、確かめるように。
ふたりの孤独が、少しずつ重なり合っていく。
終わったあと、俺たちは言葉を探さなかった。
必要なことは、全部もう、伝わっていたから。
悠馬は、シーツにくるまったまま、俺の肩に額を預けて小さく囁いた。
「……好きだよ。今度こそ、ちゃんとそう言える」
俺も、彼の髪に触れながら答えた。
「もう逃げないって決めたから。だから……離れるなよ」
その夜、俺たちははじめて心まで、
ちゃんとひとつになれた気がした。