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白銀の弾丸
「敵の反応なし、進軍開始。」
指令が下る。
「了解。」
からだ中の筋肉が張りつめる。
私ーエラン・リーヴェルトは、この大陸の東西戦争で、東側の兵士として送り込まれた刺客だ。
幼い頃に両親を亡くし、唯一の肉親である兄は行方知れず。ただ軍部で最高の暗殺者(アサシン)だと崇められている。
標的は敵軍の上官。
かなり危険な任務だ。
「エラン。」
「何でしょう?」
「無理はするな。」
そこではじめて震えが止まらないことに気づいた。
「わかってます。」
震えと緊張と不安に蓋をして、私とは何なのだろう。
音を立てないように進んでいく。
あらかじめ仕込んでおいたマイクで、大まかな状況を把握する。
金網を開け、ゆっくりとロープを垂らす。
好都合だ。と思った。
敵の上官は居眠りをしている。まさか命を狙われているとは思ってないのだろう。
各所に配置させた兵士に気づいかれずに侵入するなど不可能だと。
「終わりだ。」
声にならないくらいの音を漏らす。
顔だけ拝んでおこうと、帽子をそっとはずす。
「兄さんっ。」
何で兄さんがここに?
「誰だよ。」
まずい、どうすれば。
すぐには判断することができなかった。今でも持ち歩いている家族の写真。そこにならんで写っている私と兄。
間違えようがないし、本能がそうだと告げている。
任務か、兄か、
究極の選択。
「ごめん。兄さんっ。」
ズガーン。
撃った。撃ってしまった。
あとは逃げるだけだ。音で誰かがやって来るはずだから。
その後私は軍を抜け、田舎で暮らしている。
あのとき、撃たなかったらどうなっていたのだろうか。
どちらでも構わない。
私はエラン・リーヴェルト。
かつて最高の暗殺者(アサシン)と崇められた元軍人。
その事を、わたしは誇りに思っている。
「さよなら、兄さん。」