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Let's meet again
その日は突然やってきた。
世界一、否宇宙一の名探偵でも予想できなかった。
あれは確か、夕焼けが街を綺麗に染めていた秋の日のこと。
気がつけば周りには誰一人もいなかった。
頼りになる先輩も。
小言の五月蝿い相棒も。
こんな自身を慕ってくれる後輩も。
窓から街を見下ろせば、静寂が包み込んでいる。
涼しい風が彼の肌を優しく撫でるばかりで、音なんて何処からも聞こえない。
誰一人いない街。
そこに太宰治はたった一人だけ残されてしまった。
会社を出て、この街は全て見て回った。
やはり誰もいない。
人だけがまるでパッと消されてしまったようだった。
これがマジックならどれ程良かったか。
マジシャンが指を鳴らして全て戻ってくれば良かったのだが。
どうしたものか。
いや、どうもしなくていい。
いつも通り川に入水して海まで流されてしまえばいい。
網に掛かろうと、誰も助けてはくれないだろう。
迎えに来る人もいない。
やっと⬛︎⬛︎⬛︎のもとへ行けるのだ。
だが、太宰は橋の上でずっと立ち尽くしていた。
何を躊躇っているのか、彼は判らなかった。
良い川だ。
夕日が綺麗に映っているし、流れも穏やかだ。
こんな川で入水しないのは勿体ない。
ただ気になってしまうのだ。
本当に太宰しかこの世界にいないのか。
こんな疑問を残したまま死ぬのは惜しい。
太宰はヨコハマの街を飛び出して、一人旅を始めた。
とりあえず日本を一周することにした。
まぁ、誰も見つからなかったが。
次に目指すは海外。
海はどうにか船で渡った。
荒れて一時はどうなるかと思ったが、死にはしなかった。
自身の存在は紙に書き残し、各国に置いている。
だが道中手に入れた無線機に反応がないということは、そういうことだ。
そもそも日本語が読めるとも限らないが。
この無線機が使えるのかも判らない。
何だかんだあって太宰は日本へ、ヨコハマへ戻ってきた。
見た目が植物などで変わり果てた街でも、道が無くなったりはしていない。
記憶を頼りに戻ってきた彼の居場所は、不思議なことに綺麗なままだった。
会社のあるフロアだけ、綺麗に保たれている。
「……やぁ」
声が聞こえた。
人が消えてから初めて聞いた、自身以外の声。
「君なら世界一周して此処に戻ってくると思っていたよ」
久しく話していなかったからか、太宰の声は出なかった。
風が喉を通りすぎるだけ。
そんな彼の様子を見て、お茶を用意していた青年は抱き締めた。
青年と呼ぶには少々幼すぎるが。
男と抱き合う趣味はない。
それは、いつか太宰が云った台詞だ。
でも今だけは、このままでいたい。
そんな太宰の気持ちを知ってか、はたまた知らずか。
青年は優しく頭を撫でていた。
「さて、落ち着いたかな?」
コクリ、と太宰は小さく頷く。
180cmを超えている筈の彼がまるで迷子の少年に見えた。
昔の彼は幼子の皮を被った神のようだったが、時の流れというのは凄いものだ。
「とりあえず僕が此処にいるのは人間じゃないからだ」
「い、なり……ぃこと、ますね」
「……無理してしゃべらなくて良い。それに、長旅で疲れてるでしょ?」
そんなことは、と少し云うも青年は立てた人差し指を唇に当てた。
「大体なら君の云いたい、というか聞きたいことは判る。この世界には君しかいないよ」
「……!」
「或る異能力の暴走で人間が全員いなくなった。否、僕達が別世界に飛ばされたのかもしれないね」
「そ、れは──」
もう誰にも会えないと云うこと。
太宰はいつも冷静で、他人にさほど興味がない人間だった。
でも今は少しだけ動揺しているように見える。
「……。」
そんな彼の様子を見て、青年はお茶を一口含む。
何を考えているのか分かりにくい表情をしていた。
「……る、ぃすさ、」
「何かな」
「ど、して……嘘をつく、ですか?」
「──。」
何かを云いかけて、微笑む。
青年は嘘をついた。
彼ら二人以外に誰もいないのは事実だ。
だが理由に気づいていないのは、嘘。
流石だね、と青年は立ち上がった。
そして彼へと近づき、また頭に手を乗せた。
「外はもう安全だよ。君以外は全員無事」
「待ってください、ルイスさん──!」
「……夢から醒める時間だ」
「──あ、れ……?」
太宰が気がつくと、そこは見慣れない天井だった。
自身が目覚めたと同時に抱きしめてくる敦。
動揺は隠せず、思わず抱き返した。
「心配したんだぞ、この大莫迦者」
「……国木田君」
彼が眠っていたのは或る病院の|寝台《ベッド》。
どうにか起き上がると、探偵社が殆ど全員いた。
三人の姿だけない。
社長に、乱歩に、与謝野。
嫌な予感がした太宰は青年の、居場所を問い掛ける。
すると、カーテンで遮られていた隣の寝台から名探偵が顔を覗かせた。
「太宰、落ち着いて聞いてほしい。ルイスは──」
良かったのか、と私は問い掛ける。
青年はその問いに首を傾げていた。
「ちゃんと挨拶は出来なかったけど、乱歩に預けてある。それに僕なんて居なくても問題ない」
問題しかないだろう。
「君がそれを云う?」
確かに、私が云うのもおかしい話だ。
けれども残された側の傷はそう簡単に癒えない。
それはお前が一番わかっていると思っていたのだが。
「……。」
青年は何とも言えない表情をしていた。
思ったことを素直に伝えることしか、私には出来ない。
それで何か心境の変化があろうが、なかろうが。
私達はこの場所に囚われているのだから変われない。
「……ねぇ、織田作さん」
ことん、と青年は私へ体重を預ける。
「僕、もっと色んなものを見たかった。これから皆がどんな道を歩むのか、世界がどう繋がっていくのか」
どう反応したら良いか分からず、とりあえず青年の頭に手を乗せた。
少しすると目に涙が浮かんでくる。
「太宰君、僕のこと恨んでるかなぁ……?」
ぽつぽつと、青年は誰かの名を呼んだ。
もう会うことの叶わない、仲間達の名を。
世界の狭間。
彼岸と此岸の間に位置する、不思議な空間。
普通なら迷い込むことのなどなく、何もない筈だった?
何故か此処へやってきた私と、
この世界から嫌われて此処へ追いやられた青年。
二人だけの狭間世界。
亀裂から見える彼らの姿を私達は見守るだけだ。
迷ヰ犬の幸せを、心から願っている。
「……織田作?」
探偵社。
自分の机で目を瞑っていた太宰は、ふと顔を上げた。
「太宰」
「……乱歩さん」
「これ、預かっていたものだ」
事件から数日。
いつも以上に生きているのか死んでいるのか判らない太宰に、名探偵は一通の封筒を渡した。
誰からの手紙かは、聞くまでもない。
太宰は受け取り、謎の焦燥感に駆られながら封筒を開けた。
「━━Let's meet again, Mr.Lewis」
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**誰得!?解説コーナー!!**
ということでやってまいりました第127回「誰得!?解説コーナー!!」です特にコーナー名を強調した意味はない今日この頃の|私《わたくし》天泣は私にわざわざルビをつけた意味もありませんそして127回もこのコーナーやってないでしょうやってませんよねこれ初回ですよね誰か教えてくださいと書いたところで読者がブラウザバックしそうだから一旦落ち着きましょう。
まぁそんなこんなで「誰得!?解説コーナー!!」を始めます。
なんか異能組織との戦いがあって、一人異能じゃない力を持ってる人がいました。
力自体は「死ぬまで悪夢に囚われる」ってやつで、無効化しようとした太宰に掛かっちゃいました。
で、ルイスがどうにか昔の繋がりをワーってやって太宰の夢の中に入りました。
太宰を夢から追い出してルイスが囚われることで目覚めたけど、ルイスはそのまま永眠…
一応|「」《かっこ》以外は織田作の台詞(?)をイメージしてみた。
あとはルイスのことをなるべく青年と呼ぶようにしてます。
彼=太宰にしたくて。
ちょくちょく織田作を書きたいシーズンがあるのは何だろうね。
やっぱり好きだからかな。
そして死ネタを久しぶりに書いたけど、ムズイなやっぱり。
あんまり死ネタっぽくなかったかも。
ここからは妄想。
太宰の夢に誰もいなかったのは、意外と人間を愛していたから。
今の日常を心地よいと思っていたから、誰もいなくなった。
結局ルイスと織田作はどこにいたのか問題。
一応、文中にもあるように「狭間世界」です。
太宰達のいる「此岸/この世」と六蔵少年達のいる「彼岸/あの世」の間にある世界。
願えば大抵のものは手に入り、織田作はルイスが来るまで紙とペンを願って小説を書いていた。
たまに「亀裂」で彼岸を見守っていた。
何か他にも書きたいことあった気がするけど、とりあえず解散で。
衝動書きand後書きにお付き合いいただきありがとうございました。
Let's meet again/また会いましょう