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いよいよバトります
私の意識放棄は、シャネルさんに身体の中に入られてとんでもない大声で叫ばれるまで続いた。
今、テストが始まろうとしている。
さて、ひとつ問おう。
正攻法で、私がクレアさんに勝てるか?
答えは否だ。
だから、私はとある戦略を用意した。これが通用するかどうかで、これからの生活が決まる。
そこで、エドワールさんが話しかけてきた。
「おい、さっき言い忘れたが、急所を攻撃されると死にはしないが気絶するから気を付けろよ」
……つまり、そこを攻撃されたら負けだということ。
私は緊迫感を高めてフィールドの中に入った。
「試合開始!」
今、エドワールさんのその声が轟いた。
ちゃき、と剣を鞘から抜く音がして__
一拍遅れてクレアさんが袈裟斬りの要領で右上から左下に振り下ろし始め__
クレアさんはその足を曲げ、力を貯めて__
その瞬間、私は右脇を締めて左肩を上げ、ぐっと耐える姿勢に入った。手元に意識を全部集中させた。そして、全身に身体強化を発動する。この一ヶ月で、私の身体強化は一人前レベルになっていた。
なんとか、その一の太刀を受け止めた。
だが気は抜かない。
しかし、
そこで、
左脇腹に、
鮮烈な、
衝撃が、
走り、
気がつくと、私は結界に右半身を預けてへたり込んでいた。
あれ?
何がどうなった?
えっと、私は、クレアさんの、剣を、受け止めて、それから、それから……。
思考がショックでパーになる。スローになる。なにがなんだか、わからなくなる。だめだ。はやくじょうきょうをりかいして、たいせいをたてなおさなければ。
だが、それを待ってくれるほど敵は親切ではない。
霞む視界の中で、剣を振りかぶり鬼気迫るほどの勢いで突っ込んでくるクレアさんが見えた。
それは。
それは、反射的な行動だった。
私は、素早く右手を上げ、そして振り下ろし、地面に叩きつけた。
余談だが……反射的にそんな行動を出来るということは、私も晴れて異世界の住民になったのかもしれなかった。
上段に構えられ、私を頭から真っ二つにするべく閃いた刃は、しかし、ついぞ私を切り裂くことはなかった。
阻まれたのだ。その、水色の障壁に。
即ち、結界に。
私は、とっさに地面についている結界を変化させ、新たな壁を作ったのだ。私とシャネルさんの魔力が全く同一だから出来た芸当である。
クレアさんは、一瞬だけ結界を睨むと、なんとか破れないかと考えたのだろう、連撃を放ち始めた。
私は自分に向けられたギィン、ギィンという音に恐れおののき怯えすくみつつ、それでもイメージは崩さなかった。
埒が明かないと悟ったのか、クレアさんは20連撃ほどしたところで剣を下ろした。
そして、剣を構え、こちらをつぶさに見つめ始めた。
結界越しではこちらも攻撃できない。なので、いつか来るはずの結界が解除される時を待っているのだ。
しかし、好都合だった。
まず、私はそういうイメージをもって結界を黒く染めた。
それを作るのを見せないためだ。
そして、それを作り始めた。
一発逆転の奥の手を。最強で、奇抜で、しかし、とてつもなく、例えようのないほど、残忍なそれを。
五分くらいたっただろうか。と、言っても、当人たちには一時間ぐらいの時間だ。
クレアは、じっと待った。待ち続けた。機を待った。
そして、その時はやってきた。
黒い壁に、ぽっかりと穴が空いた。
おそらくはあの穴から剣を投げるなり、魔法を打つなりして攻撃するのだろう。あちらはいくつでも剣を作れるのだから。
そう考え、それより先に相手を制するために穴に向かって突撃する。飛んでくる剣、魔法もさばけるように自らの剣を構えながら。
__だが。
ぞくりとした。ぶわっと鳥肌が立ち、嫌な予感を感じた。そして、そのせいだろうか、認識がやたらゆっくりになった。
同時に。
穴の奥、その暗闇が光を放った。
そして、ほんの、本当にほんの僅かな後に、こんな音がした。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド__
私は、マシンガンを撃っていた。
私のお父さんはアメリカ人のガンマニアで、実銃も撃ったりしていた。
私もアメリカに行ったときに銃を触ったり、お父さんの講釈を長々と聞かされたりした。正直少しうんざりしていた。
まさか、それに感謝する日が来るとは。
今、私が撃っているのはミニミ。アメリカ製の軽機関銃である。身体強化をした上で銃座を作って固定し、伏せ撃ちをしているので、なんとか扱えている。音がうるさいので、イヤーマフを装着した状態で、排出された空薬莢がうず高く積まれていくのを横目に見ていた。
しかし、さすがに撃ち続けたため銃身が熱くなってきたかもしれない。
それに……クレアさんが、いや、その魔力体がどうなっているか確認したいという思いもあった。
私は一旦射撃をやめた。
さっき聞いたところによると、いくら攻撃されても本体には影響がないらしいが心配なものは心配だ。
黒い結界に空いた、割りと大きい穴を右目で覗き込んだ。
右目に違和感が走った。
「……っ!」
とっさに引いて右目を押さえる。
右目を開けようとすると、違和感が強まった。別に痛くはなかったが、気持ち悪いのでやめた。
追撃が迫った。
「わ、と、わ、わ、ちゃ、ちょ、ま、え、わ、」
ひっきりなしに穴からつき出される剣。奇声を上げながら変な姿勢でかわす私。
穴の向こうのクレアさんは必死の形相だった。驚いたことに、スキルか何かを使ったのだろうか、五体満足だった。しかし、どうやらそれでは防ぎきれなかったらしい。身体のところどころに銃弾が刺さっていた。
そして、
決定的な瞬間がやってきた。やってきてしまった。
一閃が、私の胸を貫いた。ちょうど真ん中だった。
胸焼けするような、変な感覚がした。
やばい。急所をやられたら、気絶するって、さっき……。
その言葉が嘘ではなかったことが証明された。剣を抜かれると同時に意識がぐわんぐわんと歪み始め、さっきまでとは比にならない気持ち悪さが起こって、ひと揺らぎごとに意識が少しずつ刈り飛ばされていく。
やけくそだった。
私は、もう一度引き金を絞った。
船酔いのような感覚に加えて振動が体を揺らし、言葉で言い表せないくらいの気持ち悪さが体を襲った。マシンガンは固定していて押さえなくてもいいので、左手で口を押さえて吐かないようにした。
しかし、透明なシールドがクレアさんの前に出現する。体全体をおおえるほどではないが、さっきはこのスキルで防いだようだ。
待てよ__スキル?
それが頭に閃いた瞬間、クレアさんが苦痛に顔を歪め、それを確認しないままに私は叫んでいた。
「……起爆っ!」