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20.
久しぶりの投稿だから、
前話から読むのをおすすめしてます!
「人間界に住めない事情、ねぇ・・・・。」
私はつぶやく。
「種族迫害、能力による差別、価値観の違い。このくらいですかね。」
シャルムは淡々と告げた。そして私は、言葉を言いかけて口を閉じた。
「でも、ここも人間界だろう? 少し大きな無人島というだけだ。」
私の疑問を口にしたのは、美和さんだった。
・・・いつの間に起きてきたの?
でも、美和さんの言う通り、ここは人間界。大陸から離れているだけの島。
「えぇ、そうなんですよ。だけどこの島は―――」
そこで私は気づいた、この島は特別だってことに。
きっと結界かなにかで守っている。
美和さんも同じ結論に至ったのだろう、少し疑っているみたいだ。
「こんな大きな範囲をずっと結界で守ってんの・・・・!?」
この範囲をずっと守るのはほぼ不可能、そう結論づけたからだ。
「その魔力がどこから来てるのか、僕にもわからないんだ。」
首を横に振りつつ、そう言った。
「ここから5kmくらいだから、すぐに着くよ。」
「・・・歩いていくの?」
正直、昨日の疲れがまだ残ってる。戦闘初心者だし。
「でも、移動しないと行けないからなぁ・・・。」
「美音さん、『転移』で移動すればいいのでは?」
シャルムの提案ならたしかに歩かなくてもいい。けど、村には行ける。
簡単に言えばテレポートだからね。
「流石に3人を毎回『転移』させるのは魔力的に厳しいかも・・・・。」
うーん、たしかに。村に行くたびに使うのは厳しいか。
「なら、我らが使えるようになればよいのではないか? その『転移』とやらを。」
美和さん、ナイスアイデア。私達が使えれば、悩む必要もない。
「練習が必要ですけど、できますか?」
「やってみせる。」
「まず、特徴をあげていくから目を閉じて想像して。」
海が一望できる場所にあって、家がレンガで建てられている。
周りには田畑や牧場が広がっている、のどかな光景。
美音からの情報で、私の脳内には「リブレ村」が構成されている。
「唱えて。」
そんな空想を現実に変える。
「「『転移』」」
---
目を開くと、想像通りの光景が広がっていた。
「ここが、リブレ村なんだね。」
「我らは転移に成功したんだな・・・!」
向こうでシャルムと美音が手を振っている。そこに私達は駆け寄った。
「美音さん、珍しいですね。こんな時間に来るなんて。」
銀髪の男の人が話しかけてくる。背が高く、すらっとしている印象だ。
「この人は、デュマンさん。この村の村長さんだよ。」
見た感じ、40歳くらいかな。スーツが良く似合ってる。
「デュマンさん、この人たちは―――」
美音が、説明をしてくれている。
「おぉ、この村に美音さん以外が来るなんて何年ぶりだ!?」
「さぁさぁ、中へどうぞ。」
村の人達が歓迎してくれている、でも―――。
私は美音のほうを見る。
彼は大事な情報を言っていない。バレたら私が迫害されかねない情報を。
「みなさん。美咲について、一つ重要な報告があります。」
どうか落ち着いて聞いてくれ、と前置きをした上で続けた。
「彼女は、西魔界 魔王の第3王女です。」
その途端、嫌な空気が流れる。
先程まで楽しそうに話していた住民が、こちらを向く。
値踏みするような視線が痛い。
「美音さん、お嬢様を困らせる気ですか?」
「逆に、シャルムさんは隠し通すつもりだったんですか?」
__「・・・我が止めないと。」__
「その必要はないよ、美和さん。」
私は一歩前に出る。
「美音の言う通り、私は・・・。」
**西魔界の魔王、マルモンドの娘です。**
静寂が響く、誰もが自身の耳を疑うような静けさが生まれた。
「美音さん! なんて子を連れてきたんですか!?」
「流石に許されませんよ!」
当たり前だけど、非難の声が聞こえる。
それに対して静かに、ただはっきりと、美音は言葉を紡ぎ始めた。
「どうして、彼女が加害者だと錯覚しているんですか?」
「魔王だけでなく、兄妹や他の魔族からも迫害された美咲の何を知っているんですか?」
「すべてを受け入れるこの村で、あなた達は何を言っているんですか?」
言葉に怒気をはらんだ美音を制して、私は言う。
「美音、ありがとう。あとは私が言う。」
---
[シャルム視点]
お嬢様が、村の方々の前に立った。
そして大きく息を吸うと、こう叫んだ。
「あんたら、バカじゃないの!?」
私は驚いた、お嬢様がこんなに怒るなんて本当に久しぶりだから。
お嬢様は、怒涛の勢いで話し始めた。
「たしかに、私は魔王の娘ですよ。」
「でも、それの何が悪いっていうんですか!?」
「親がしていることの責任を取れって言うんですか!?」
すると、お嬢様は落ち着きを取り戻し、こう言った。
「気持ちはわかりますよ、あいつの娘なんてろくでもないって思うのは。」
「私は、私なんです。『魔王の娘』じゃなくて、『美咲』なんです・・・!」
誰もが黙り込んだ。お嬢様を刺激しないように言葉を選んでいるようだ。
「おいら、間違ってたよ・・・・。」
「あんなこと言ってすまなかったね、本当に・・・。」
謝罪の言葉が、この場を包む。
お嬢様の心が、彼らに響いたのでしょう。
「美咲さん。」
デュマンさんが手を挙げる。
「失礼ながら、あなたの過去を能力で見ました。」
「あなたは、身内からも嫌われ、私たちと・・・、いや我々以上に苦労してきた。」
「そうして初めて、私はあなたの言葉の重みを知りました。どうか、お許しを。」
デュマンさんは頭を下げた。まるで、彼らの態度の責任さえも背負っているかのように。
「・・・別に、怒ってないですよ。ただ、気が動転しただけです。」
お嬢様は、平然と言った。
「いやー、私のせいで空気ぶち壊しちゃったなー!」
・・・普段のお嬢様だ。率直で、何よりも陽気なお嬢様。
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その後、村の人達から食事を誘ってもらった。
私はただ思いをぶつけただけなのに、ご馳走が出てきてびっくりしたよ。
その後は、役所のゲスト室に泊めてもらって、一日を終えた。
私の日記には、この文たちが増えている。
---
*・『転移』を使った。*
*・リブレ村に行った、いい人たちだった。*
*・たくさん戦った、もっと練習したい。*
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「食べ物と乾電池と―――」
今日は、朝食を食べてから買い物。
シャルムと美音が、あんな物やこんな物をかごに入れる。
美和さんは、このお店を探検中だから、ここにはいない。
私も暇だな、と思いつつ店の外に目を向ける。
この村の中央には大きな噴水。噴水の上の方には茶色の宝石が埋まっている。
「あら、あちらに興味がありますの?」
声のほうを向くと、そこにはゴシック風のドレスをまとった女性がいた。
彼女は見るからに神聖で、私のことを圧倒した。
「ここの近くにいらっしゃる大地のドラゴン様のうろこなのですわ。」
「風のドラゴン・・・・、ここでは祀ってたりするんですか?」
「えぇ、察しがいいですのね。近くに教会がありますの、私はそこの聖職者です。」
そうなんだ、結構大事なポジションの人じゃない?
「ドラゴン様にも敵がいて・・・、今は封印されていますけれど。」
どんなやつなんだろ、戦ってみたいね。私が負けそうだけど。
「あ、お嬢様〜! __やっと見つけた・・・・。__美音さーん、いました〜!」
シャルムと美音が駆け寄ってくる。
「こんなところにいたんですね・・・、そちらの方は?」
「あぁ、この人はね―――。」
彼女のことを説明する、聖職者ってかっこいいよね。
「お時間があるときにでも、いらっしゃってくださいね。」
そう言って、教会に戻っていった。
「そろそろ、僕達も戻らないとね。」
美音が何気なくそう言った、そのときだった。
つんざくような叫びに私達は反射的に耳をふさいだ。
緑色の鱗をまとった巨体のドラゴン。
「俺達のドラゴン様の敵では・・・!」
・・・あれが、そうなんだね。
噴水の鱗を狙っているように見える。
「・・・美咲、やれる?」
「もちろん。」
こんなに楽しい村を襲うなんて許せないからね。
今度は逃げない。自分の力で守ってみせる。
「成長した私を見せてあげるから。」
「美音たちは、この村を守って。私が相手をする。」
「お嬢様、流石に1人は無茶です。せめて私も戦います。」
お嬢様は、少し考えてこう言った。
「わかった、一緒に戦おう。」
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[美音視点]
風圧がすごい、戦っていないのに押されている。
「『上級聖魔法 八神結界』」
ミシミシと音がなる、僕の結界だけじゃ厳しいかも・・・!
美和さんは、ここの人たちを避難させるために動いている。
だから、助っ人は来ないと思わないと。
「あれ〜? なんか大変なことになってんじゃーん?」
突然現れた白衣姿の彼を、美音は知っていた。
「研究所から出てくるなんて珍しいね、|星奈《せな》。」
自身の研究所を持つ科学者、星奈。
「まあね。しゃーない、手伝うか〜。『疑似魔法 星界』」
キラキラとした結界が村を覆う。
「あー! せなっち、久しぶり〜! 元気〜?」
軽い口調で現れたのは、オレンジのパーカーを着ている人物。
ぴょこっと出ている犬のような耳が可愛らしい。
「んー、元気だけどピンチだね〜。風のドラゴンが来たみたいだし。」
「だから結界張ってるんだ〜! あ、みなとっちの結界カチカチじゃん、すごーい!」
「わかったから手伝ってよ・・・・、|彩良《さら》。」
脳天気な二人を見て、苦笑する美音であった。
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[美咲視点]
「風がうっとうしい!」
風のドラゴンだとは聞いていた。でも、私の攻撃を跳ね返すなんて。
「シャルム、ここで祀ってるのって大地のドラゴンだよね?」
「はい、大地を司るドラゴンを崇めているらしいです。」
今更だけど、なんで知ってるの?
「なら、地魔法でいこうかな。『中級地魔法 |地魔刀《テールエペ》』」
私が立っている地面からナイフが生まれる。
でも、土でできたナイフは壊れやすい。
「シャルム。」
「『上級支援魔法 攻撃よ、地に伏せろ』」
一定時間、攻撃の影響を受けない技。
これなら、私のナイフも当たる。
「土が降ってきてる・・・・、え?」
私は、はるか上空を見上げる。
ドラゴンに当たるはずだったナイフは、鱗の前で散った。
「あの鱗、硬すぎるよ・・・・。」
せめて 弱点がわかれば。そして、そこを突ければ。
・・・あ。
あるじゃん、相手の弱点がわかる技が。
「私を守って、策があるから。」
美音の結界がいつまで持つかわからない。
できるだけ、決着はすぐにつけないと。
「任せますよ。『上級植物魔法 守りの籠』」
私を包むように、植物たちが姿形を変える。
それを確認した私は、すぐに魔法のネタ帳を出す。
***『究極聖霊術 禁じられた|変化《へんげ》』***
*・この技は、陰陽師か|精霊使い《フェアリーエンプレイヤー》に|変化《へんげ》することができる。*
*・陰陽師は式神を使役し、占術や呪術を司る。*
*・|精霊使い《フェアリーエンプレイヤー》は四大精霊を使役し、精霊術を司る。*
―――見つけた、これだ。
これで弱点をあぶり出して、勝つ。
でも、この技は初めて使う。成功するかさえ賭けだ。
だけど、やるしかないんだから。
「『究極聖霊術 禁じられた|変化《へんげ》』」
私のことを光が包み込む。
―――なんてことはなかった。
「失敗したってこと・・・!?」
考えれば当然のことだった、使ったこともないような魔法に賭けるなんて馬鹿だ。
手が震える、また私は―――。
__「誰かの大切なものを守れないんだ・・・!」__
**『魔法で大事なのはイメージだ、それができれば大丈夫。』**
「美音・・・・?」
ここにいるはずがない彼の声が聞こえる。
けれど、その一言は私を奮い立たせるには十分だった。
そうだ、イメージするんだ。
私がなるのは陰陽師。人を救い、人を呪う。
神聖さとおぞましさを兼ね備えたそれに、私はなるんだ!
「『究極聖霊術 禁じられた|変化《へんげ》』」
今度こそ体が光に包まれる。幻覚なんかじゃない、本物の光に。
その光は姿を変える、明るく暗い不思議な鏡となった。
相手のすべてを見通す『魂の鏡』を生み出したんだ。
「成功したんだ・・・!」
冷めきらない興奮を残したまま、シャルムに声をかける。
「シャルム、できたよ。」
彼女の声はしなかったが、植物が引いていく。
「今から、あいつの弱点を見る。」
「『占術 魂の鏡』」
海よりも透明な鏡に、細い文字が映し出される。
【大地の力】
「大地ってことは、地属性かな・・・。」
「植物は地の派生なので、私がやってみましょうか?」
「シャルムってあんまり火力がでる技ないよね?」
彼女は一瞬言葉に詰まったが、同意した。
「・・・確かにそうですね。」
---
たしかに植物魔法なら、お嬢様に劣るかもしれない。
でも、あの魔法なら・・・・?
いや、やめておきますか。
土属性以外が効かない可能性もありますし。
---
「美音って地魔法使える!?」
「逆に僕が使ってるとこ見たことある?」
2人だけでは解決できないと悟った私は、美音に助けを求めた。
・・・知らない人が2人いるけど、そこは後回し。
「あ、そうだ。彩良ならやれるかも。」
「もしかして、僕の出番かな〜?」
ひょこっと現れたのは、可愛い犬耳のある子。
彩良さんは美音と少し話したあと、私達に声をかけた。
「僕にとびっきりの支援をしてほしいなっ!」
---
「『究極支援魔法 攻撃は最大の防御』」
シャルムが最大限の支援を行う。
「『中級闇魔法 |幻刃《トリックナイフ》』」
「『上級聖魔法 光という名の免罪符』」
私が攻撃を相殺し、美音が守りを固める。
相殺なら私にもできるらしい、順調に攻撃を打ち消せている。
「偉大なドラゴン様に教えてあげるよ。」
少し皮肉を含んだその言葉は予想外だった。
「|僕《獣人》を敵に回すとどうなるかをね。」
彩良さんの足元に、魔法陣が見える。
私には到底たどり着けないような、力強さを感じる。
「自然の化身よ、この村に平穏を!『究極地魔法 慈岩葬』」
それは本当に大きかった。
岩に包まれたドラゴンは、何かを訴えるかのようで。
「『圧縮』」
石片とともに命が散る。光を反射しながら、あたりに飛び散った。
「じゃあね、愚かなドラゴンさん?」
そのときの彩良さんは、まるで悪魔のような笑みを浮かべていた。
超絶おひさです。
いつもよりも長めにしました。
だけど、全然物語が進めないという・・・。
気長に待って欲しいです。