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episode3
「ぼんさん……。」
「ん?どーしたの、ドズさん!」
入学式は終わって、少しの間の自由時間になった。
【三貴子】組は人気の少ない場所へ行った。
流石にあんなに貴重な属性を披露しては学生に囲まれること待ったなしと。
ぼんさんは先程までの悲しげな笑顔はなくなって、普段のぼんさんに戻っていた。
「そういえばドズさん、次は使い魔召喚するんだよね?」
「は、はい。」
この学校の入学式伝統行事パート2,使い魔召喚。
正確に言えば使い魔召喚と守護霊召喚。
自らの相棒となる使い魔と、自らを守ってくれる守護霊を見つける儀式。
「ドズさんはやっぱりゴリラかな?逆にゴリラ以外だったらびっくりだわ。」
「まぁ……自分でゴリラって言ってますしね。」
笑ったぼんさんのローブの襟には銀色の丸いバッジが付いていた。
ぼんさんの実力は、わからない。
幼い頃から魔法が使えなくて、ポーションづくりに熱中していたのは知っている。
だからだろうか?ぼんさんが魔法使いという確信が、僕は未だに持てない。
「行こう、ドズさん。」
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「あ、ドズルさん来た!」
みんなはもう会場で待っていた。
案の定学生に囲まれ、背の高いMENの頭以外何も見えない。
これには僕もぼんさんも苦笑い。
特におんりーはみんながどいてくれないみたいでなかなか出てこない。
そうこうしている間に儀式が始まってしまった。
最初はやっぱりおらふくん。
魔法陣の上に立って、真ん中の台に自らの属性の証を置いた。
みるみる証から煙が上がっていく。
そしてその煙は、雪だるまへと形を変えた。
「わぁっ!」
ぴょこぴょこ動く雪だるまを横目に、煙はまだまだ上がっていく。
おらふくんの後ろで煙は形を成し、ユキヒョウとなった。
「君たちが僕の使い魔と守護霊なんや。」
おらふくんは慈しむように彼らの頭に手を乗せた。
二匹(?)もうれしそうに顔を寄せる。
守護霊はすぐ消えてしまったが、雪だるまは残った。
「よろしくな、雪だるまくん。」
先ほどと同じ順序で儀式は進んでいく。
MENの使い魔はMENフクロウ。MENがそう名付けた。
ちなみに守護霊は大きいイノシシ。猪突猛進太郎と言いかけたところで消えてしまった。
おんりーの使い魔はいなりー。おらふくんが付けた名前をおんりーが採用した。
守護霊は妖狐。美しく気高いキツネだった。
そして僕。使い魔も守護霊もゴリラ。使い魔の方はビックボスと名付けた。すごく可愛い。
守護霊はシルバーバックの筋骨隆々なゴリラだったらしい。僕は一瞬しか見れなかったけど。
「やっぱゴリラじゃんwwww」
ぼんさん半分ツボってたな……。
最後にぼんさん。
さっきまでツボってたのに今や静かに台の方を向いている。
僕ら以外の皆、ぼんさんの方を見ることもなく、自分の支度を始める中、
ぼんさんは僕らが思ってもいない行動に打って出た。
ぼんさんは自分のバッジを外さなかった。
そのかわり、自分の指を噛んで血を出したのだ。
「へ!?」
ぼんさんは驚く僕らを尻目に、ポタポタとたれる血を、台の上にかけた。
そしてぼんさんが何事かをつぶやくと、、、、。
バッと一瞬だけ世界が暗くなった。世界から光が消えた。
数秒経つとふっと停電が収まったときのように世界に光が戻ってくる。
僕は見た。ぼんさんの側にいたのは………。
三本足のカラスと小さなサングラスを掛けたカラス。
三本足のカラスは、羽を広げ、まるでぼんさんを守っているかのようだった。
僕は知っている。遠い遠い東の果ての国。
そこには普通のカラスよりずっと大きい三本足のカラスがいると。
カラスは王を都へと導いたと。
そして、そのカラスの名は。
「ヤタ、ガラス。」
その名を口にした途端、カラスは消えてしまった。
ぼんさんは肩に乗った小さなサングラスのカラスの方を見ていた。
「おまっ……鳥なのにサングラスしてんのかよ。
んじゃ、お前の名前はグラサンバードな。」
彼の手つきは今になく暖かかった。
僕も知らない、彼の奥深くを知れた気がした。
「ぼん、さん。」
言葉が詰まる。太陽の光を背に受ける貴方が神々しい。
サングラスから覗いたあなたの瞳が、やけに輝いて見えた。
「みんな!終わったよ〜!」
「ぼんさん、ほんとなにやってんすか!!」
「いきなり指噛むから心配したんですが!?」
「てかさっきの鳥なんやねん!?」
僕より先に【三貴子】組が駆け寄ってぼんさんを問い詰める。
ぼんさんは困ったように頭を引っ掻いて僕を見た。
僕は言葉が出てこない。かろうじて何やってんすか、とだけは言えた。
「かっこよかったでしょ?俺の守護霊。」
ぼんさんはへらっと笑った。
この一日で僕は、ぼんさんの知らなかったことを知った。
何年も、何年も一緒にいるはずなのに。
悔しかった。ポーションなんかじゃ、魔法なんかじゃなんとでもならない。
それはおんりーもおらふくんもMENも一緒のこと。だからみんな、怒っている。
「そうですね。ヤタガラスは人をゴールへ導く鳥です。」
きっとぼんさんはヤタガラスを知らない。
神々のカラスであり神性な鳥であることも。
むしろそんなこと、ここじゃ知っているのは僕くらいかな。
「やたが……?」
「ふふっ……。ぼんさん、わかってたでしょ?
僕らがやったやり方じゃ、魔力を消費するから自分にはできないって。」
そう。あのやり方は地味に魔力を消費する。
僕らにとってはなんともないけど、ぼんさんがやったら一瞬で倒れるレベルだから。
ぼんさんはそれをわかってた。
だからちょっと危険な獣が出てくるかもだけど血液召喚の方を選んだ。
そっちは自分に従う獣が出てくるとは限らないんだけど
魔力を消費しないからぼんさんにとっては最善手。
「今度授業かなんかやる時は先に僕の魔力分けときますね。」
「自分の魔力も分けますよ。」
「僕も〜!」
「俺のも全然大丈夫っすよ。」
「ありがとー!ほんっと助かる!」
本当にあなたは、卑怯なのか、全て計算済みなのか予想がつかない。