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序章
ジリリリリリ、と鳴る目覚ましの音で目が覚めた。考えることなく慣れでそれを止める。顔を洗って、リビングに降りた。
「あら、|玲《れい》、おはよう。朝ご飯は作ってあるわ、早く食べちゃいなさい」
母の言葉に|頷《うなず》いて、言葉通りにさっさと食べる。
歯磨きをする。着替える。持ち物の確認をする。母から弁当を受け取って、
「行ってきます」
そう告げて家を出る。
何の変哲も無い。何の変わり映えもしない朝だった。
始業時刻になると、これまたいつもと変わらず、長ったらしい朝礼が始まる。
他のクラスメイトには、堂々と本を読んでいる奴もいれば、こっそりと机の下でスマホを触っている奴もいた。なんなら菓子を|貪《むさぼ》り食っている奴もいる。
玲も、いつもぼんやりと窓の外を眺めていて、眠そうな目をした教師の話などろくに聞いていない。
「……えー、もうすぐ梅雨が明けますね。梅雨が開けたら、もう本格的に暑くなります。暑い暑い夏が始まります。ちゃんと水分補給をするように、ではこれで朝礼は終わります。次の授業の準備をしてください」
教師の長ったらしい朝礼が終わると、各所から小さなため息が聞こえた。
梅雨明け。
夏。
そっとスマホを開き、LINEを起動させる。
『五時にいつものとこ集合な』
一年前に自分が送った、そんなメッセージで、彼女との連絡は途絶えていた。