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2.夏の匂い
展開考えるのきつい
夏の匂いがする。
もうすぐ、中学生になってから、初めての夏休みがやってくる。特別な予定なんてないけれど。
友達はいないわけじゃない。2人くらい、けっこう話す仲の子がいる。でも一緒に昼食を食べるほどではないし、授業の「2人組になれ。」で組んでくれるわけでもない。
つまり私は地味に孤立している。
元々友達作りは苦手だったけど、小学校の時は幼馴染と同じクラスだったからなんとか耐えてた。それが、中学生になって、幼馴染は3組、私は1組、見事に離れてしまったわけだ。
けど、1人で食べる昼食も別に不味くはない。先生と組むのも少し恥ずかしいけど悪くはない。
チャイムが鳴り響く。6時間目が終わり、終礼が始まり、また終わる。
リュックを背負い教室を出ようとした時、先生に呼び止められた。
一瞬頭に疑問符が浮かんだが、すぐに理解した。
「今日もこれ届けてくれる?高柳さんに。」
先生に渡されたのは予想通りの、プリントが詰められたクリアファイルだった。私は毎週金曜日に、クラスメイトで不登校の高柳という生徒にプリントを届けに行っているのだ。
高柳さんは中学の入学式にすら来なかったので、初めてプリントを届けに行くまで顔も知らなかった。今でも下の名前は知らない。
インターホンを人差し指で押した。
しばらく待つとドアが開き、高柳さんの顔がのぞいた。
「山吹です。これプリント。」
毎週のことなので慣れたもので、高柳さんも浅く頷きながら受け取ってくれる。
それで終わりだ。毎週会うけど、仲がいいわけではない。事務的な会話以外を交わしたことはない。
「じゃ…。」
小さく頭を下げ身を翻した。
「な。」
歩き出した時、後ろから声が聞こえた。振り返る。
「夏休み、いつから?」
それは私に投げられた言葉だった。初めて高柳さんが話したところを見た。驚きつつ、口を開く。
「25日。…あと5日。」
そうだった。あと5日で夏休みに入るのだ。高柳さんにプリントを届けに行くことも、少なくとも夏休みの間はないのだろう。
高柳さんがわかったというように頷いたことを確認すると、私は今度こそ自分の家に歩き出した。
夏の匂いがする。けっこう好きな匂い。
キツい!