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零、美しきかなこの世の特別
|葉隠の落し子《アーミル・エスクイン》。
白夜の魔女、存命していた頃最も恐れられた|女《怪物》。
その声を聴けば呪いに焼かれ、瞳を見れば頭が狂い、指先に触れれば凍ったという、伝説の魔女。
誰にでも恐れられ、誰のものでも手に入れられた彼女が唯一、生涯探し求めながらも手に入れることはなかったモノ。
それが、|葉隠の落し子《アーミル・エスクイン》。
東洋の神はかつて西洋の神に恋をしていた。
一途で、まっすぐで、愛おしい愛!
しかし、西洋の神は冒険が好きで、スリルを愉しむ神だった。彼女からの穏やかで優しい愛は、西洋の神には届かなかった。西洋の神は、気に入った人間の女と番となった。
その女は荒々しく、自分を磨く必要性を感じていない者であった。磨くものといえば剣術や武術、闘いに必要なもの程度。東洋の神であっても、嫉妬くらいはするものだ。しかし、西洋の神が選んだ人間なら、信じて認めざるを得ない。
そもそも彼女は優しく丁寧で、美しい神だ。
元から傷つけるなど非道な事はこれっぽっちも頭になかった。
しかし、女は自分の実力を過信した事により、ドラゴンの焔に抱かれ死に至った。突然の事だった。それが、運の悪いことなんのこと、東洋の神が守護している地であった。
西洋の神は激怒した。東洋の神が自分に好意をまだ抱いていることは知っていた。うじうじするとは何とつまらない女なのかと思っていたからだ。それがここまで、我が愛した人間を恨みこんなことをするなんて!!!
全て、すべて西洋の神の勘違いであった。そもそも早とちりなのだ。東洋の神は逆恨みをするような神ではないし、何より人間を神の中で一番といっても過言では無いほど愛している。ちっぽけな国の神が、「パン屋の娘がしんじまったよぉ」と嘆くだけで、瞳からぼろぼろと雫を流す。それはもう、滝のように。空から落ちた彼女の涙はやがて雨となり、大地に恵をもたらすので定期的に泣いてくれるのはありがたいが、それはもうウザったいくらいにわんわん泣く。
『だってぇ、わたくしたちのだいじなこが、こがぁ、こんなにおさないままそらにくるなんてぇ!!ひどい、うんめいとはこんなにもひどい!』ああうるさい。そもそもその子お前のじゃなくて小国の神が作った子だろ。人間全員がお前の子だと思うなよ。うちの子は渡さねぇからな。
…えぇと、ごほん。
まぁそんな人間想いの泣き虫な神が、ドラゴンに命令して焼き殺してもらうなんてことしやしない。そもそも彼女は新米で、命令できる立場ではない。土下座して頼み込んでやっとだ。それに、女を殺したドラゴンの種族は、知能が低いが戦闘本能が強いのが特徴だ。どうせ下手に回って女が自滅したんだろう。
だが頭のお堅い西洋の神、東洋の神に対する憎悪に呑まれてしまい、邪神となってしまった。
東洋の神をその力を注ぎきり呪い殺し、自身もその代償で砕け散った。突如東西の二神が姿を消したとなれば、世界も神々も、混乱に陥るしかなかった。空席の代わりはいない。案外神が生まれるのは早いが、東西をそれぞれ護れるような力のある神はそう容易く生まれない。
そこで神々は考えた。
全ての元凶である人間という種族に、護らせてしまえばいいのだと。
もう消えかけの東西の神の魂を掴む。そのまま、半分ずつ引き裂いた。そうして、他の神の魂もちょっぴり引き裂いたのを三個ほど適当に混ぜて捏ねる。
そうして一つの魂にギリギリ見えるようなものが出来たら、転生の門を開き、中へ向かって思い切り放り投げた。
転生の門から遠ざかればかるほど、魂の周りに肉体が形成され始め、やがて生まれる時には立派な赤子だ。
死ねばまた魂は空にのぼり、転生の門をくぐり、そして生まれるの繰り返し。
|葉隠の落し子《アーミル・エスクイン》は、先程の|東西の神の魂《それに少しの神の魂》を持つ人間のことである。