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尾行は突然に
日曜日、午後一時。
待ち合わせ場所の時計台の下で、西畑大吾は何度もスマートフォンの画面を鏡代わりにして前髪を直していた。
「……よし、変じゃないな」
初心(うぶ)な反応と自覚しつつも、心拍数はすでに異常事態だ。
そんな彼の様子を、十メートルほど離れた植え込みの陰から見つめる二つの影があった。
「見たか、丈くん。大吾、さっきから五分に一回はカバンの中身確認しとるで」
「あれやろ、『ねえ、変じゃないかな?』って鏡に問いかけてんねん。重症やな」
大橋和也が双眼鏡を覗き込み、藤原丈一郎がメモ帳に大吾の挙動を記録している。
「今日のミッションは『大吾のデート成功を見届ける(という名の冷やかし)』やからな。バレたら即、強制送還やぞ」
そこへ、背の高い人影が近づいてきた。
「……西畑さん! お待たせしました」
私服姿の道枝駿佑だ。いつものエプロン姿も眩しかったが、ラフなコートにマフラーを巻いた姿は、さらに「太陽」のような輝きを放っている。
「み、みっちー! 全然待ってないよ、今来たところ!」
「嘘つけ、三十分前からおるわ」と丈一郎がツッコミを入れるが、もちろん届かない。
二人が歩き出すと、植え込みの影も音もなく移動を開始した。
映画館、ウィンドウショッピング……。
微笑ましく見守っていた「尾行部隊」だったが、噴水広場で二人が立ち止まった時、大橋が声を上げた。
「あ! 丈くん見て! 磁石みたいに手が近づいてる!」
「お前、双眼鏡奪うな! ……おっ、大吾、行け! 手、繋げ!」
大吾の指先が、道枝の手の甲に触れそうになっては離れる。
「こんなはずじゃなくて」と戸惑う大吾の背中を、二人の念力が押し続けていたその時――。
不意に道枝くんが立ち止まり、ひょいっと大吾の手を包み込むように握った。
「……っ!?」
真っ赤になる大吾。それを見て満足げに笑う道枝。
「……ねえ、大吾くん。後ろの二人、そろそろ呼んであげなくていいんですか?」
道枝が振り返り、植え込みを指差して爽やかに笑った。
「「げっ!!!」」
飛び上がる丈一郎と大橋。大吾は驚きのあまり、繋いだ手はそのままで叫んだ。
「お前ら、マジで何してんねん!!」
「いやぁ、大吾があまりにも初心(うぶ)やから心配で……」と頭をかく丈一郎に、「みっちー、デートおめでとう!」と能天気に笑う大橋。
怒る大吾だったが、繋がれた手のひらから伝わる道枝の体温があまりにも温かくて、最後にはふにゃりと顔を綻ばせた。
「……もう、しゃあないな。四人でパンケーキでも食べに行くか?」
二人の初デートは、結局いつもの賑やかな日常へとグラデーションしていった。
けれど、繋いだ手だけは、最後まで決して離れることはなかった。