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GW企画 #2
文豪ストレイドッグスより『檀一雄』を深堀り!
「檀、この資料はどうしたら良い?」
「そこら辺にでも置いてくれ」
声を掛けられた青年──檀一雄はパソコンの画面とにらめっこしながら言った。
分かった、と赤髪の男──織田作之助は近くの机へと段ボールを置いた。
横浜に何処かにある地下室。
そこは裏社会の人間がよく出入りする診療所だった。
織田は、ここで闇医者の手伝いをしている。
彼も命を救われた人間の一人だ。
「そろそろ休憩を挟んだ方がいいんじゃないか?」
「何時?」
「……22時だな」
じゃあ寝るしかないか、と檀は近くのソファーへと向かった。
これは、ある異能力者達のある日を描いた物語。
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檀side
目が覚め、体を起こす。
卓上にある時計は六時を差していた。
ふわぁ、とあくびをしながら立ち上がって、またパソコンの画面とのにらめっこを始める。
この依頼は受けるべきではないが、受けなかった時が面倒くさい。
まさか今の時代に《《ポートマフィアに喧嘩を売る奴》》がいるなんて、誰が想像しただろうか。
「起きてたのか」
「まぁ、八時間も寝たら充分だ」
「二十時間の間違いだろう?」
は、と思わず立ち上がってしまった。
もしかしなくても俺、寝過ぎじゃないか。
つまり返信しなくてはいけない時刻まで残り一時間を切っていることになる。
「それにしても、この依頼は結局どうするんだ?」
「どちらも敵にまわしたくねぇし、まだ迷い中……」
無意識のうちにため息を吐く。
本当にどうしようか。
「マフィアに恩を売っておけばいいんじゃないか?」
「……その手があったか」
「檀はとっくに思い付いていたと思っていたが……」
とりあえず、残り一時間でどうにかポートマフィア首領との面会を設定しないといけない。
でも、首領に会うためには何人も経由しないといけないだろうな。
本部に乗り込むにも、俺の異能力は戦闘向きじゃないときた。
もしかしなくても俺は詰んでいるのではないだろうか。
この診療所も終わりか。
「俺で良ければ付き合うぞ」
「へ?」
彼はいつも想像の斜め上の発言をする。
その中でも、今回は本当に予想外すぎた。
織田は現在死んだことになっており、表だった行動をずっと避けている。
俺の為なのは分かるが、特にポートマフィアにはバレたくない。
「太宰から首領がお忍びで行く場所などの話を、よく聞いていた。特に会合とかがなければ会えるだろう」
「この時間でもいるか?」
「いると思うぞ」
会えたらラッキー、ぐらいの気持ちで行くしかないか。
一応連絡は入れておこう。
「まずは此処だな」
そう、俺達がやって来たのは子供服の店。
一瞬だけ思考が停止してしまった。
何故ポートマフィアの首領であろう人物がお忍びで来るのか、全く理解ができない。
「いなさそうだ。次の場所へ行こう」
「正直、いても困るんだが?」
それから俺達はもう何店舗か子供服の店をまわり、スイーツが有名なカフェなどにも寄った。
しかし、何処にもポートマフィア首領の姿はない。
「此処が最後だな」
「エリスちゃーん!」
何度か聞いたことのある声が聞こえてきた。
でも、俺が知ってるのはこんな明るい声じゃない。
織田の方を見てみると、いつもと同じく感情が読みにくい表情だった。
「入るか」
「え、ちょっと、あの、待って?」
その時、目の前の店の扉が開いた。
中から出てきたのは金髪に碧眼の少女と、白衣の男。
まだ心の準備が終わってないのに、と僕はため息を吐いた。
白衣の男は俺を見つけると、目を見開く。
「君は……」
「急用だから部下を通している暇がなかった。少し時間を貰えるか?」
「あぁ、構わないよ」
ところで、とポートマフィア首領──森鴎外は僕の隣へと視線を向けた。
「彼は君の連れかい?」
「……まぁ、そんなところだ」
織田のことをどう誤魔化すか。
そう考えていると、森鴎外は歩き出した。
「近くに良いレストランがあるんだ。そこで食事をしながら、なんてのはどうだい?」
「……なるほどね」
普段なら絶対にいかないであろう高級レストラン。
その個室に、僕達は白衣で食事を取っていた。
「つまり、私達に情報を渡すことで、その組織から守ってほしいと?」
「自分で言うのもおかしいが、俺の毒を解毒できる奴はそういない。出来ればお前達を敵に回したくないんだ」
「まぁ、構わないよ。いつも部下がお世話になっているからね」
とりあえず一安心か。
例の組織から狙われることはなくなり、マフィアに借りを作らずに済んだ。
問題は──。
「それで《《黒髪》》の彼は何者だい?」
「助手をしてもらってる。最近どっかの組織の構成員がたくさん来て、一人じゃ対応しきれないからな」
疑われている気がするけど、仕方がない。
確信を持たせなければ、此方の勝ちだ。
「例の組織に連絡した方が良いんじゃないのかい?」
時計を見ると、時間ギリギリだった。
文面は打っておいたので、すぐに送信する。
あれから、数日が経った。
例の組織はというと、俺を殺しに来たところをマフィアに殺られた。
これでこの診療所が無くなる心配はない。
「本当にバレていなかったのか?」
「分からない。でも、アンタがまだ生きているという証拠もない」
織田は、髪を黒く染めていた。
髭も剃っており、声を出しさえしなければバレることはない筈。
「俺が提案していてあれだが、本当に染めて良かったのか?」
「別に構わない。お前の手伝いをするために必要なことだからな」
「……そうか」
早く太宰さんと安吾と絡ませたい。