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帰宅部
あたしは|日下稔《くさかみのり》、帰宅部の中1だ。
「稔、今日はどうする?一緒に帰る?」
帰りのホームルームが始まる前、同じく帰宅部の同級生・|森下沙綾《もりしたさあや》が話しかけてきた。
「いや、今日は別々で。ほら、《《あれ》》もあるし?」
「あ、そうだね」
着席して、先生の話を聞く。その後、「さようなら」の声で、静かだった教室が一気に声で溢れる。その後、みんな散り散りになっていく。
「稔、行きます!!」
今日は補習もなく、放課後残っていく用事は何らない。なら、《《練習》》しなきゃね!
そう言って、わたしは廊下を校則ギリギリラインで早歩きした。
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校舎を出たら、猛ダッシュ…とはいかない。寧ろダッシュすると、一番はじめにある信号に捕まって、余計体力が削られる。早歩き程度だと、きっちりストレスなく歩くことができる。その後は駅に行く。切符は買ってあるし、信号のことも計算して、一度も立ち止まらずに電車に乗ることができる。
いかに早く帰宅をすることができるか。それが、あたしがやっている『帰宅部』だ。なんにも部活をしていない『帰宅部』ではない。
もちろん、家からの距離などもあるので、いろいろと計算しなきゃでもある。大体は『距離÷時間』。単にタイムを競うだけでなく、披露加減等も考慮する。運動部の一面も持ち合わせながら、計算力と思考力が試される。
来月にある『全国帰宅部大会』に出場するべく、あたしたちは最善の帰宅ルートを考える。沙綾も、あたしと同じ帰宅部の仲間だ。
「よしっ、今日は…」
昨日より、1分早くなっている。手にしたストップウォッチを、あたしは思いっきり握り締めた。
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『全国帰宅部大会予選通過』と書かれた紙が、学校掲示板に貼り出された。
「えーと。日下と森下……あ、あったっ!」
よしっ、予選通過。かなり順位もいい。
「やったね、稔っ!」
「うんうん、嬉しい!」
次はどのルートでいったら、1位をとれるのか。また、いろいろ計算しなくちゃな。