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青空の捜索願い
薄暗い部屋の中で、紙と鉛筆の鉛が擦れる音だけが響き、かつての舞台上のように楽しげに踊り続ける。
忙しなく動く手はその舞台を飾る音を止めず、私は諦めて目の前の原稿用紙に目を落とした。
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時たまに、貴方がもうここにはいないのではないかと恐ろしい気分になるのです。
それは私を頭の天辺から足のつま先まで覆い、忙しなく書き続ける原稿さえ真っ暗でぐちゃぐちゃな海の中へ沈めてしまいたくなるのです。
かつての貴方の腕の中で、どくどくと血が通って湧き出す流れに沿って鼓動する心臓はひどく落ち着いていて、どこか寂しく思い懸命に動く手は古い記憶の中の貴方を今でも描いています。
そして、
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そして。そして。そして……何になる?
私は今でも貴方を愛している、と締めくくってみようか。しかし、それではありきたりで、貴方に届くことはないかもしれない。
原稿用紙には生温く冷えることが決してない愛が、詩が綴られている。ずっと冷えることがないと思っていた愛はとうの昔に溶けるようにして“一途”を強調してしまった。
たとえ、一途でも行方不明な一途を探してもいいじゃないかと儚い“ずっと”が呪いのように踊り続けている。
すっかり止まって舞台を飾らなくなった手で鉛筆を離し、横に置かれた貴方の捜索願いを瞳が捉えた。
その捜索願いの紙に映る貴方は、ひどく幼くて私の皺の目立つ手が泣きたいぐらいに震える。逃げるようにして、薄暗い部屋の窓の向こうには小憎たらしいほどに綺麗な青空が広がっていた。
私はそれに、ため息をついて鉛筆を握りなおし、また紙と鉛筆が楽しげに踊り始めた。
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そして、貴方は今、この空の続く場所にいますか。
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