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6.
目の前に|佇《たたず》む大きな岩。
「え、ここに住んでる・・・・・?」
「うん。 ・・・・・・あ、そうか。」
何かを思い出したかのように、美音は言う。
「2人とも、魔力探知ってできる?」
*魔力探知*:自身の周囲にある魔力の流れや、性質などを見ること。
「私は、ある程度使えます。でもお嬢様が・・・・・。」
シャルムが気遣うように言う。
「そ、私は全く使えない。」
誰もが認める魔法音痴。それが私。
魔法音痴というよりか、そもそも使ったことがないのが原因。
使える環境じゃなかったからな。魔法は1つだけ使えるけど。
「なら、練習しようか! 晩は磯辺と言うし!」
「善は急げだね。それだと、晩ごはんを海岸で食べることになるよ?」
「・・・・やってこー!」
「雑だな。」
「お嬢様は人のこと言えませんよ。」
(この展開が一番雑。)
---
「やり方は超簡単! 猿でもできる、というかできないとヤバい魔力探知講座〜!」
「言い方にトゲがあるなぁ、それで出来ない人いたらどうするの?」
「無理矢理にでもやらせる。」
その場の空気が凍りつく。
(こいつ、もしやパワハラ上司・・・?!)
「とまぁ、本気の冗談は置いといて。」
(え、どっち? ガチなん?)
「美音さん、そろそろ話を進めないと閲覧者さんたちが|BB《ブラウザバック》します。」
(メタいんよ、発言が。)
「対象に意識を集中させる。すると、モヤっぽいのが見えてくるはず。」
(意識を集中・・・・。)
彼女の意識は、深い海の中へ落ちていく。
海の中に1つしかない、己の魔力を探すために。
__「・・・・お嬢様。」__
__「美咲――― 。」__
声が聞こえる。それは、小さく聞き取ることができない。
(私の・・・・、魔力。)
*「自分の魔力は、見れば絶対にわかる。自分の体と結びついているから。」*
そう言った、出会ったばかりの彼の言葉を思い出す。
(これじゃない。これでもない。)
(本当に見つかるのか? ・・・・諦めちゃダメだ。)
そこで彼女は気づく。自分の体がほんのり光っていることに。
白と黒が混ざり合い、差し色に紅色を足したまばゆい光が。
(―――――これだ。これが、私の魔力。)
さらに、それに意識を集中させる。
(動いてる・・・・。いや、流れてる。私に流れてるんだ。この魔力が。)
魔力の色と流れを無事に確認した美咲は、意識を世界へと戻す。
「・・・・できた。」
「おかえりなさい、お嬢様。」
「おかえり、美咲。」
**「ただいま、2人とも。」**
無事に成功し、安堵した3人。
美咲を見て、2人は語りだす。
「美咲が魔力を見ている間に、少し話をしてたんだ。」
「私たちだけでなく、この世界にも魔力が流れていて、それぞれ相性があるらしいんです。」
「自分の魔力と、その場所の魔力の色が近いほど魔力回復が速くなる。」
「ここは緑色の魔力で 私の魔力も緑なので、相性がいいってことですね。」
「なるほど、そんな仕組みもあるんだ。」
「美咲の魔力は何色だった?」
「白と黒が混ざりあった色、紅色も混じってた。」
美音は黙り込む。まるで、自身の中から何かを探しているように。
その彼を、2人は黙って見ている。
「詳しくは、家の中で話そうか。『変化術 |開封《オープン》』」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
岩の形が変化し、それは立派な家となった。
「これが、僕の家の本当の姿。」
__「どういう仕組みなんだよ・・・、てか広すぎ。」__
__「―――なんか、すごいですね。」__
ギィィィィィィィィ
扉が開いた。 その家の全貌は・・・・。
「広すぎんだろ!?」
「お嬢様は、魔王城に住んでたじゃないですか。人のこと言えないですよ。」
「それは、父親が魔王だったからね! 元天使と言えど、こんな・・・・。」
「まあ、気に入ってくれたなら良かった。」
**「それじゃ、本題に入ろうか。」**
空気がひりつく。
「まず、一つ確認なんだけど。美咲は魔族なんだよね?」
「そうだよ。魔族として生まれた、底辺魔王の第3王女。」
「それで、魔力の色が白と黒と紅だったんだよね。」
「うん。そうだけど。」
(私、何かおかしいこと言ったか・・・?)
「魔族の魔力は、黒一色が当たり前なんだよ。」
「え、私って一応魔族だよ?」
「えぇ、お嬢様は間違いなく魔族で・・・・。」
(よかった、そうだよね。魔族だよね。)
「魔族は、黒が当たり前。なのに、正反対の白が含まれている。」
(ついでに紅も。)
「この現象が起こるのは。」
***「強力な魔族と神聖な人から生まれたときにしかありえない。」***
「強力な魔族、これは当てはまっている。美咲のお父さんが魔王だから。」
「なら、母親は? なにか特別な役職だったはず。」
彼女は答えない。否、答えることが出来ない。
**彼女は、母親について何も知らないのだから。**
それを見かねたシャルムが言葉をこぼす。
「もともとは、ただの人間だったんですよ。お嬢様のお母様は。」
---
「お嬢様のお母様のお名前は、『サクレ』。
人間界の「フランス」という国の言葉で『神聖な』という意味らしいです。
サクレさんは、日本人のご両親のもとに生まれました。
でも、ご両親がフランスで出産したから、フランス語のお名前らしいです。
そんなサクレさん、神聖なのは名前だけではなかったんです。
サクレさんは、幼少期から湖のほとりで遊んでいた。」
シャルムは目を閉じて、また話し始めた。
「そこは、光属性や聖属性の湖でした。
サクレさんは、そこでずっと遊んでいた。これが何を意味するか。」
2人はわかってしまった。このお話の結末が。
この悲惨な物語の終末が。
「きっとそれだけなら、良かったんです。
でも、サクレさんはその湖の影響であまりにも強大な力を手にした。
四大精霊を使役する、最強の精霊使いとして悪事を働く魔族を裁いた。
**だから、魔族に目をつけられた。**」
「でも、四大精霊がいたなら・・・・。」
(そうだ、母さんには精霊たちがいた。簡単に負けるなんて。)
しかも、四大精霊は精霊の中でもトップの実力を持つ。
「そう簡単に負けるなんて、ありえない。」
「私も、そう思いましたよ。サクレさんが、負けるなんて思いもしなかった。」
「でも、負けてしまった。 ・・・・私が知っているのはこのくらいです。」
シャルムは思い出したかのように、つけ足す。
「・・・・今更ですが、言ってしまって大丈夫でしたか?」
「本当に今更だね、大丈夫だよ。」
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〜ちょっと時間が経って〜
ちょっと重い話をしたけれど、今はこの大豪邸を満喫中。
前は、テレビも椅子もなかったからね。
「そういえば、美咲。本当に戦闘未経験だったの? そうとは思えないんだけど。」
ソファでくつろぐ美音がそう問う。
「・・・・難しい質問だね。必要になったら伝えるよ。」
「―――そっか。そこのベッドは使っていいからね。」
「ありがと。それじゃあ、また明日。」
今日は疲れた。ゆっくり休もうかな。
あ、忘れてた。
そう思い、カバンの中から数少ない荷物を取り出す。
「日記を書いておかないとね。」
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***習得したもの***
*・魔力探知、対象の魔力の色や流れを知ることができる。*
*・母親の情報、私の魔力にも関係あるらしい。*
*今日は、美音に出会った。最初は胡散臭いやつだと思ったけど、いいヤツ。*
*かなりの実力者だった。美和さんを呼ばないといけないのは誤算だった。*