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胸郭の交合
静まり返った暗がりの中、ただ重なり合う視線と体温だけが、冷たい床の上に境界線を引いていた。
他人に触れられるたび、私の皮膚はいつだって酷い拒絶反応を起こす。
この世界はあまりに煩雑で、過剰で、息が詰まる。
けれど、目の前にいる貴方に対して胸の奥が熱く引き絞られるこの感覚だけが、私という存在の輪郭を揺るぎなく確立させていた。
これが私にとってのすべてで、これ以外の触れ方なんて知りもしない。
言葉も要らない。理由も要らない。ただ貴方という現象の真ん中に触れる。それだけのことが、私には当然だった。
静かに手を伸ばし、貴方の薄い胸元へ手のひらを滑らせる。服の生地越し、そして冷ややかな皮膚の向こう側に潜む幾何学模様へ、当たり前のように意識を浸透させていく。
人体というものは、まるで星空のように。
果てのない暗闇の中に点在する幾千の神経と、静かに流れる無数の光の筋。整然と並ぶその幾何学は、ただそこにあるべくしてそこに存在している。
指先を食い込ませ、その胸の、言葉も熱も生まれる前の、一番深い核へと迷いなく手を伸ばす。
掌の底でかすかに跳ねる、いつもの生動感。
君の心臓を掴んで初めて、月を見た。
掌を伝うかすかな脈動。ずっと天頂で孤立していたはずの月が、いまや私のこの手のひらの真ん中にごく自然に浮かんでいる。
静かな夜の底で。
ふたつの世界は音もなく重なり合い、当然のように、二度と解けない一筋の光になっていく。