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episode2
入学式の会場はやはりだだっ広かった。
僕の席は一番前。一番目立つ場所。【三貴子】である3人ならわかるけど、僕たちもここに入るとは。
たくさんの魔法使いの卵の中でも特に優秀な者たちがこの学校に入学してくる。
僕らは【三貴子】の護衛。まぁ、もちろん試験で入ったわけではあるんだけど……。
「俺さぁ、本当にここでいいのかな?」
すっかり目の覚めたぼんさんがぼやいている。
そう。ぼんさんは生まれつき魔法が使えない。
魔法使いではあるんだけれど、魔力が少なすぎるのと、魔力が体力に変換される【純血】の魔法使いに限りなく近いから、魔法を使うと倒れちゃうんだよね。
最悪の場合命に関わる。
ちなみに最近の魔法界では9割以上が混血だったり、魔法界の血を持たない人らしい。
【純血】の魔法使いは本当に少なくて、僕が会った限りではぼんさんだけ。
「ぼんさん、薬学得意じゃないですか。」
「いや、ギリギリよ?薬学で全部挽回したようなもんだし。」
最後の最後までぼんさんはボーダーギリギリの点数だった。
実技で点が取れない分、筆記などで取らないといけないからだ。
「最終的に実技はポーションでなんとかしたけどね〜。」
「あれは流石に卑怯だなって思いましたけど。」
そう。ぼんさんは卑怯。卑怯で魔力の少なさをカバーしている。
人を利用して、ポーションも利用して、その場にある全てを利用する。
そういうところを、学校は評価したんだろうなと僕は思う。
「2人で内緒話ですか?僕も混ぜてくださいよ!」
おらふくんたちは試験を受けていない。
能力も魔力も試験を受けてもすぐ突破してしまうことを数字で示していたので免除されたのだ。
だから3人は知らない。
最終試験が予告もなく実技になって、開き直ったぼんさんがありとあらゆる卑怯をしたことを。
「ん〜、秘密秘密。」
ぼんさんは笑っている。僕は苦笑いに近い。
あの時は流石に引いた。あれはちょっとやばかった。
おらふくんはキラキラとした瞳でこちらを見ている。
君は変わらないでいてくれ。
「人多いっすね〜。」
「魔法使いってやっぱりたくさんいるんだ。」
「本当はこの5倍とかいるから。試験会場やばかったから。」
ぼんさんがおんりーとMENに試験会場について語っている。
僕もちょっとこれは……?と思ったほどの人数だったから相当やばかったのだろう。
2人は嘘だと笑っていたが、本当。
しばらくして式が始まった。
騒がしかった会場も、しんと静まり返る。
この学校では一番最初に属性を測る儀式があると言う。
それを入学式で全員分やると言うから相当時間がかかるだろうと思っていたが、
ちゃんとチームに分かれて測るようだ。
ただ、僕らは一番前に座っていたことからも薄々わかるように、
みんなの前でやるということを先程聞かされた。
僕らは大丈夫だと言った。最初はやはり【三貴子】。
「起立、礼、着席」
静かに男性の教師が言葉を述べている。
なにかの祝電とか学校での生活についてとか、言われてるけどあんまり使うものはなさそう。
この学校には寮があって、僕とぼんさんはそこで暮らすことになっている。
……流石にここから家までが遠すぎるからね。
おんりーやおらふくん、MENは家から通うらしい。僕らはその護衛に毎朝通う。
そんな事を考えていると、もう属性を測る時間になってしまったらしい。
まず測るのは王子、おらふくん。
緊張しているのか、笑顔が消えている。彼らしくもない。
校長先生は彼を前へ招き、何かの術をかける。
見ている限りとても高度な魔法。
予測だけれどその人の奥に眠る魔力を引っ張り出すものじゃないかな。
おらふくんの体から水色のオーラみたいなものが出てきて、ひらひらと白いものが舞い始めた。
雪だ。春なのに。室内なのに。雪がふっている。
「おらふ。君の属性は|雪《レル》。」
ぱっと目に見えるくらいの雪の結晶が出来上がり、おらふくんの頭についた。
これが属性の証らしい。これをつけると属性の力が安定し、より強力な魔法を使えるとか。
おらふくんの顔は明るくなって、一目散に僕らの方へ。
緊張したと言わんばかりにホッとした顔だった。
次は武器職人の息子のMEN。
彼には緊張など微塵もなさそうだ。
堂々と校長先生の前まで歩いていく。
魔法をかけられたMENの体からは、ポン、ポンと何かが弾ける音がする。
花火だ。小さな花火が上がっている。
「おおはらMEN。君の属性は|火薬《ドーン》。」
ぽんっとMEN愛用のTNTの形をした属性の証が、胸についた。
MENは今までになくニコニコしていた。
大好きな火薬が自分の属性で嬉しかったのだろうか。
次はおんりー。
彼は何も変わらない。幼いときからこんな感じ。
MENより控えめだがちゃんと一歩一歩を歩んでいる。
魔法をかけられたおんりーの体からは、雷のような光が出ていた。
それと同時に回りがぱっと明るくなる。
「お、おんりー、君の属性は|光《ルート》。
絶滅したと言われている、伝説の属性だよ……。」
校長先生が驚いたように声を上げる。
僕らは、まあおんりーだし?と納得した。
小さいときから誰よりも魔法が得意だったし。
おんりー自身は何も変わらず、
雷の形をした証を腕輪のようにしてつけて戻ってきたが。
そして……僕。
めっっっっちゃ緊張してる。うん、何この緊張感!?みたいな。
もしかしたら試験のときより緊張してるかも。一歩が震える。
目の前に立つ校長先生は、なんだか戦士のように筋骨隆々。この人、本当に魔法使いか?
なんて思ってたらいきなり魔法をかけられた。
心臓がドクンと大きく動く。体の奥底があったかい。
感じたことがない、不思議な感覚。いつの間にか僕を、炎が包んでいた。
でも、熱くはない。むしろちょうどいいくらい。
「ドズル、君の属性は|炎《ファナ》。」
小さな炎の形をした証が、僕の肩につけられた。
嬉しかった。何より暖かかった。おらふくんの気持ちがわかった気がする。
戻ろうとしたら、後ろに立っていたぼんさんの顔が目に入った。
不安そうだ。緊張とかそういうのじゃなくて。
ぼんさんはゆっくりゆっくり歩き出した。
一歩が重く、普段の軽い感じはどこにもない。
ローブがぶわっと風に揺れた。屋内だから風なんて入ってこれないはずなのに。
ぼんさんは祈るように手を合わせた。そんなぼんさんを、僕は初めて見た。
魔法がかけられた。……何も変化はない。オーラも、何も出てこない。
魔力が少なすぎて校長先生でも引っ張り出せなかったのか?とすら思ってしまう。
けれど、そうではないらしい。
校長先生は自ら何かを作ってぼんさんのローブの襟につけた。
「ぼんじゅうる。君の属性は|無《ノーマル》。相当珍しいな。」
二重丸の銀色バッジが輝いている。
ぼんさんの顔は、諦めを絵に描いたかのような寂しい笑顔だった。
式は進んでいく。グループ分けもすんだ。
ノーマル、という声は聞こえてこない。
僕は隣のぼんさんを見ることができなかった。