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【黎翔の館】,2,〜館内〜
黎翔館という名前の館は、ものすごく大きく、名家の令嬢が仕切っていそうな感じだった。
シンプルだが、そのゴシック調はしっかり際立っている。
「ルレアはこんな良家の居候なの…?」
「良家?ここに住んでいるのは皆貧乏だが」
え……?
び、貧乏……?
「あっ、ルレアじゃん!!」
館の方から声が。
見ると、女子二人組がいた。
一人はピンク髪、淡く輝いた黄色い瞳。ベレー帽を被り白い華奢なワンピースを着て、完全な可愛いキャラを思わせる。
もう一人は、茶髪。腰まで長く伸びた髪を一つに括りまとめている。瞳は薄い紫色で、襟元のリボンが長いため風に靡いている。
「誰?その子。とうとう付き合いはじめたの?」
からかい半分でピンク髪の女子が言う。
あのいじめっ子のような卑しさは感じず、というか彼女の雰囲気には可愛げがある。
「ぁあ?そういえば名前、聞いてなかったな」
「凛です、凛々しいという漢字」
「ふふ、凛か。死霊なのにルレアと同じような気配を感じるね」
茶髪の女子は、ピンク髪の彼女と反対に、楚々とした雰囲気だ。
「とわみんに話、通しておこっか?」
「……よろしく」
「OKだよ」
上から声が聞こえてきた。
威厳がある声。
私は上を向く。
黄色がかった白髪に、琥珀色の瞳。
優しい目をしているが、威厳がある。
たとえば、貴族とか。
「あの人もルレアが言う貧乏?」
こっそりとルレアに聞く。
「ああ、金はあるが貴族家を追放された身だ。名は永遠実」
永遠実はにこりと微笑む。
「よろしくね、凛」
もはや主人公を揺るがす悪役の口調だ。
「ど、どうして私の名前を?」
「死霊の情報は分かる、ような?そういう能力なの、永遠実さんは」
ピンク髪の彼女が私に教えてくれた。
そういえば、名前聞いてなかったな。
「あ、私の名前、ユイノだよ」
彼女は私の様子を察したらしい。
ユイノ。
覚えておこう。
「茶髪はミオナって名前」
ミオナ。
永遠実は、「凛、よろしくね」とだけ言って、どこかへ立ち去っていった。
それだけ。
永遠実……。
彼女も妖魔なのだろうか。
まあ、人間でない何かなのは確実だろう。
何せ今日からこの大きい館に住める。
…掃除はどうしているのだろうか?
もしかして私達がやる?
いやいや、無理無理無理。
居候なのだから多少は頑張るしかないのだが、ここは…ちょっと。
デカ過ぎる。
ムリ、ほんとに。
そう思いながら、ルレアに連れられて館内の廊下を歩いている私。
二階へ上がる。
そしてもう少し廊下を歩いた先。
「ここが凛の部屋で」
どうせこの大きさに関わらず小さいのだろう。と思っていたが。
室内はもうそれは美しいものだった。
広く、家具は可愛い、色々綺麗、ベッドが大きくふわふわ。
いくら何でも。
高級ホテルではないのか。
じゃあ……
「お金を…払わないといけない?」
いや、ルレアも住んでいるのだから…。
いやいや、皆貧乏ばかりだ、というのは、本当は詐欺目当ての嘘で、みんな大金持ちの大富豪〈詐欺グループ〉なのでは。
私は自分で考えて少し怖くなる。
「それは無い」
私はふっと後ろを振り向く。
扉から覗くルレア。
てことは無料。良かった。
私は胸を撫で下ろす。
「無料な訳だが、好きに過ごせ」
ガチャリ。
鍵は閉められるのかな。
鍵穴がある。
自分の尻尾をその鍵穴の形に……
できた。
どうやら私の尻尾、変形させられるらしい。
私は勝ち誇ったような感覚を覚える。
さて。
館を探索でもしますか。
フンフンと鼻歌でも歌いながら館内を歩いていた。
「こんにちは。あなたが噂の凛さん?」
すれ違うかと思った瞬間に声を掛けられる。
透き通った水色の髪を団子括りにまとめていて、目はタレ目、黄色。
それにメイド服を着ている。
こちらこそ、あなたが噂のメイド様ですか。|括弧《かっこ》私の中の噂で。
「…はい、そうです」
「タメ口…、このご時世はそう言うのかしら。私、ただのメイドですから、タメ口でもいいのですよ?」
「う、うん…わかった。メイドさんの名前は?」
メイドの彼女は、笑みを浮かべて
「メイド、でいいわよ」
と言った。