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取り敢えず___と言われ医院のベッドで寝た。
目が覚めて人の気配のある方へ行くと女の子が絵を描いていた。
金髪で隻眼、年齢は僕と同じ程。
『…リンタロウから聞いたわ。アマネね』
凛とした声が静かな部屋に響いた。
「そうだ!リンタロウが取り敢えずの服を用意したから、これに着替えてきて頂戴?」
言われるがままに着替えてくると少女は似合っている、と笑った。
『私のこと、リンタロウから聞いた?エリスよ』
聞いた、と頷くとエリスは「リンタロウ」の愚痴を始めた。
すぐ着せ替え人形のようにされること、可愛い可愛いとばかり言ってくること、ロリコンが気持ち悪いこと。
「リンタロウ、っていうのは森さんのこと?」
『そうよ。私ね、リンタロウのイノウなの。』
異能生命体っていうんだって。とエリスは言った。
『アマネもかわいいからリンタロウに着せ替え人形にされないように頑張ってね』
「あれぇ、エリス嬢と新人ちゃんが仲良くなってる。」
間抜けた声に振り返ると太宰という少年。
「アマネちゃん、だっけ?エリス嬢、何話してたの?」
『リンタロウの話よ。今は多分まだ寝てる』
「えぇー僕等よりよっぽど起きるの遅いじゃない。何やってんの。」
太宰は頬を膨らませてむくれた。
「それ、森さんが選んだ服?…ふぅん。ロリコンのおじさんにしてはマシな服だね。あの人ならエリス嬢の服とか……いや、今日買いに行くつもりか?」
「え」
昨日着ていたのは患者服。
今日は白いブラウスに黒のスラックス。質素だけどきれいに仕立てられている。
きっとそこそこに値は張るのだろう。
『リンタロウったらお金ない癖に私やダザイの服にはそこそこお金かけてるのよ。』
偉い人と会うこともあるから、とエリスは言った。
『…リンタロウ私みたいな服アマネにも着させる気じゃないわよね』
「……ないと思う?」
『思わないわ…』
「その時は全力で止めたらいいよね」
「おっはよー…あれ、もう来てるの?早いねぇ」
「森さんが遅いだけでしょ。年寄りは早起きだって、あれ嘘だね。」
「私未だ30代だけど?」
「はいはい」
「ハァ…今日は医院休んでアマネちゃんの服買いに行くからね?」
「…昨日回復が先とか言ったのはどこの誰?」
「まぁアマネちゃん元気そうだし。外出るのも体にいいし」
『雑』
「とーりーあーえーず!もう決めたから」
「僕もついていく」
「あれ?珍しい」
「森さんだけじゃ彼女にろくな服選びそうにないからね」
「そんなことないよぉエリスちゃんみたいに―ふわーっとしててぇーでもクールな感じだからシックな黒系のーあ、ゴシックがいいかな?あーでも思い切って白もいいかも」
「ホラ碌なことにならない」
『行ってから決めればいいじゃない』
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「ほらぁこれとか絶対に似合うよぉ」
「厭」
「じゃあこっちはー?」
「厭」
「…じゃあこれ!」
「厭」
「j「厭」
「……」
彼がハンガーに手をかける。
「厭」
「でも」
「厭」
「うぅ~…じゃあどれならいいのさぁ…」
「凄いね…思ったより拒否してる。これ僕付いてこなくてもよかったかも」
『リンタロウがここまで気圧されてるの見るの久しぶりかも』
ぐるりと体ごと回りながら辺りを見回す。
ひらひら、
ふわふわ、
レース、
リボン、
ピンク…
「あ」
「え?」
「…あれがいい」
その指の先は
「え、待って何処」
「あの向う」
「若しかしてアマネちゃん向こうの店見てる?」
「うん。」
「え、待って見えない」
「えぇ~…え?あれ?」
「うん」
『かわいくはないけどいいんじゃない?似合うと思うわ』
「厭、だから見えない」
「いいね、森さんよりよっぽどいい趣味してる」
「うん」
『ダザイも買って貰えば?』
「いいねぇ」
「ねぇ!というか今日は太宰君のは買わないからね?」
「なんで」
「お金がないから…」
「……」
「……」
『……』
「そんな目で見ないで?」
「というか早く行こうよ向うの店」
『私ケーキが食べたいわ』
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「こんな…こんなはずじゃなかった…」
「エリス嬢」
『えぇ、ダザイ』
「『いぇーい』」
「なんでぇぇ……ねぇアマネちゃん、今からでもせめてスカァトにしない…?」
「しない」
「何故………」
「何でも」
「うわぁぁ……」
「キモい」
「やばいねこの子」
『やばいわね』
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今日の日記
今日は服を買いに外に出た。久しぶりの外。
黒のコートとブラウス、スラックスなどの一式を買って貰った。スカァトにしないかとしつこく言われたが断った。
あの人のことはよくわからない。
エリスのこともまだ詳しくはわからないがただ人間じゃないこと、いい子だということはわかった。
太宰、彼は何なのだろう。