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心筋注射体験日記
サブ垢です(^^♪
約6500文字。心フェチ新作。
親の方針で、心筋注射を体験した人の日記。
親の方針でワクチン接種をしました。
私は打ちたくなかったんですが、学生だったので選択権がなく、仕方がありませんでした。新型コロナウイルス感染症の予防接種があって、私はそれを受けてきました。予約日を決めて、クリニックに行きました。
「新型コロナワクチン接種をしにきました」
窓口で親がそのような事を言って、問診票を貰い、記入していると、看護師さんが来られました。
「心筋注射を選択しますと、国から補助金が出て、税金控除できますよ」と。
「まあ、裏オプみたいなものですけど」
「やりますやります。無料ですものね」
その時点では、私は何のことなのか全然わからず、ただ注射嫌いなので、ただただ泣いて、待合室の皆さまに迷惑をかけてばかりいました。
問診票を提出し、しばらくして自分の名前が呼ばれました。医師は、自分に聴診器をあてがい、心臓の音を聞きました。
どうしてか、心臓付近について、執拗にと言ったらアレですが、時間を使いました。
「はい、よい音ですね〜」
医師は、「問題ないですね」と言いながら、予防接種の内容を話しました。
「今回の接種方法は、心筋注射ということになっていますが、大丈夫ですか〜?」
「はい、ソッチのほうが安上がりですよね。効果は皮下や筋注よりも効果が高いみたいですし、長い期間に効くんでしょう?」
「ええ。ですが、その分相当リスクが高いですけど」
「大丈夫です。わが子なら乗り越えられますから」
「じゃあ、『心注』に同意と」
「『シンチュウ』……?」
心筋注射とは、文字通り心臓に打ちます。しかし、私はこの時点では初耳です。
どこに刺すのか、図面を見せて、ここに刺しますと指を刺されます。心臓上部の左側……左心房に刺すようです。
「うで、じゃない……の?」
「うん、〇〇ちゃんでいうと、この辺だよ」
私の左胸上部に指先を押し当てました。
私は、泣くのすら忘れ、キョトンとしていました。
どういうことなのか、という顔を把握したのか、看護師さんは「だからね」といいながら、服の裾を掴み上げ、胸までたくし上げました。
「今からこの部分に、注射をするからね〜」
と、左胸部を2回、トントンと指で叩きました。
その場所は、先ほどのように聴診器で診るところでした。
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新型コロナが流行っていた頃を思い出してください。
ファイザー、モデルナ。今世間をにぎわせているA国産のワクチン接種では、「筋肉注射」だったことを。
日本では皮下注射が主流でした。インフルエンザワクチンなどの場合に行われ、針を寝かせて注射をし、薬液を注入する手法です。一方、筋肉注射は針を垂直に立てて、皮膚深くに注射するという。
問診票記入時のチェックリストにて、普通の筋肉注射があったのに、隣の「心筋注射」にマルを付けたようです。
理由は、親に反抗期のある主張をした腹いせらしく、私が予防接種を受けたくなくても受けなくてはいけない空気にさせて修羅場化させた罰のようなものでした。
医師より説明されて、親は同意書にサインしました。同意書には、
「心筋を直接傷つけるので、突然死する可能性があります」と注意書きに記載がありました。今考えるとゾッとします。
三脚が設置されて、スマホがこちらを見下ろしています。
子供が苦しんでいる様を撮影して、政府に提出するんだそうです。心筋注射は、まだ件数が少なかったので、成功例の一部にしたかったのでしょうか。
「はい、寝転んでね〜」
「やだっ、やだっ、注射イヤぁ〜‼」
ベッドで仰向けになった姿勢で行います。
予め上着を親に取り上げられて軽装でした。子供服の薄着をめくり、胸を晒しました。
「念の為、心臓エコーするからね」
注射部位を特定するためです。
「えーん、ヤダ〜!」
と抵抗するのですが、オトナの力には勝てません。羽交い締めになったり、手首を掴まされて、頭の上にあるベッドの手すりに括り付けられました。
子供の身体は小規模なものです。
私は〇学生高学年で、身長については旺盛でしたが、肝心の胸の成長は微妙でした。児童の胸板は、肉付きの良い青少年よりも平べったく、まだ肋骨のほうが|上手《うわて》でした。
そんな人間的生態系のなかで静かに暮らす心臓の居所は、小規模なものになります。
「はーい、まだ注射しないからね〜。〇〇ちゃんの心臓がどこにあるか、調べますからねえ……」
心臓エコー用のジェルを胸に塗りました。
探触子を押し当てると、小さい心臓が画面に表示されました。
小心者の私の心中は裏腹に、ドクッドクッと胸を打っていました。看護師は、器用に手先を動かしながら、探触子を微妙に傾けながら、肋骨の間に見えるシルエットの変遷について、ほどよく効率的で、呆れるほど機械的でした。
その画面を凝視していました。時折、画面下側にあるボタンを押して、画面内のモーションやアニメーションを動かしました。赤と青の部分が、ダイナミックに流れたり、白い何かにせき止められたりしていました。動脈血と静脈血を切り分けるそれは、心臓の中隔壁です。
少女の胸に、黒ペンで印を付け、数字を書かれました。
印は1点で、その隣に走り書きで75と書かれました。75……75°の角度で針を傾けて、注射を打たれるという意味です。
繰り返しますが、心筋注射をする場所は心臓上部……心房です。心室よりも部屋は小さく、子供の心臓内部においても位置取りが難しいでしょう。筋肉注射より針を傾けるけど、皮下注射まで行かない……技術が要るわけです。
エコーのためのゼリーを拭い取り、いよいよか……と緊張感が走りました。
しかし、いのちに小さな剣を突き立てるための儀式はまだ続きました。
「冷たっ」
まず保冷剤を胸の上に置かれました。
心部を冷やしたほうが「心臓が大人しくなる」と言っていました。よく、採血にて「血管が逃げる」と言っている看護師がいますが、そういうものでしょうか。心臓エコーの様子を見て、元気すぎるから大人しくしてと言っているようでした。
心臓って、冷やさないほうがいいんじゃないか。
――というのが子どもながらに理解できました。保冷剤の大きさはケーキを買った時のようです。大人目線では配慮している小ささではあるようです。しかし、子供目線では左胸から右胸まで、横に置かれています。胸全体を冷やすほどに強い、冷たい重力波を感じました。死が広がるように、私の体温を奪い取り、内臓が冷えていく……。
保冷剤の冷却により、身体は大人しくなりますが、心は冷静にはなれません。
この方法は間違っている。理不尽だ。不条理だ。心臓に針を刺すなんて、生きた人間に対する仕打ちじゃない……。そういいたいけど、我慢せざるを得ませんでした。
とうとうその時が来ました。
保冷剤を外し、聴診器がやってきました。
心音を確認し、「オッケーです」と言いました。
「はーい、〇〇ちゃーん。よろしくねえ」
先ほどの男性医師が、近くに座りました。
歯医者と対面したときのような、私の恐ろしい顔つきを確認したのち、胸を確認しました。たくし上げた服をさらに押し絞るように上げ、鎖骨の上まで上げました。
脱脂綿が来る、前兆を感じました。ツンとした匂いです。それで、
「ちょっとひんやりするよ~」
と、濡れた脱脂綿で左胸全体を消毒しました。刺す運命を予告するように。脱脂綿には表面麻酔のゼリーが含まれているようです。
「刺しますね〜」と宣言しました。しかし「その痛み」は、まだやってきません。
捲りあげた服のミルフィール越しには、針の角度を合わせている姿は見えません。念入りに調整をしているようで、脱脂綿で何度もひんやりとさせられました。肝心の「その痛み」がやってくる時を待たなければならないのです。
刺す部位は肋骨を避けて打つからか、斜めに刺すようです。
だから、「刺しますね〜」と宣言しても、刺しどころを見極めているのか、躊躇しているのか……。
アルコールのひんやり冷たい感触が、いよいよ注射されるのか、身も心も固くならざるを得なかったです。もちろん心臓もですが、止まるどころか速くなるばかりでした。そういう運命なのです。私は。
ついにその時が来ました。
突然でした。心筋注射針が皮膚に当たり、痛みが走りました。目を背けていたので見ていませんが、身体は正直に反応します。注射針は皮膚のなかを刺し進みながら、胸の筋肉を進みます。そして、「うっ」と胸の中央がずきんと痛くなりました。針が、心筋に到達したのです。
「あっ、はっ……っ……」
痛みで呼吸困難になりました。
声が出なくなり、喉が働かなくなりました。そして、心臓の動きが悪くなり、心臓震盪が起きた時のように、心停止が起きたように、暴れるはずの身体が硬直状態になりました。
「動かないでね〜」
医師は言い、ぐっと圧迫されました。
刺さった針がさらに進むのか、と錯覚しましたが、違いました。針はもう何秒か前に抜かれており、抑えつけられた綿で止血圧迫していました。すでに心臓内部に、薬液が注入された後だったのです。タイムスリップしたみたいの手際の良さでした。
この白衣のひとたちは、一体何個の心臓に注射をしてきたのだろう。そして、そのうち何個の心臓を駄目にしたのだろう。
手の拘束を解いてくれました。
すぐに自分の手で胸を抑えるように、私は加害者の止血圧迫の手を拒否するようにしてから、自分の手にしました。
自分の心臓の行方は……わかりません。脊髄、胸の感覚神経、全身にわたる末梢神経……。身体のどこを探してみても、わかりません。行方が分からなくなり、自分も分からなくなりました。
処置をしたベッドの上で、両手を重ねて抑えつけていました。
胸のなかは、薬液の染み込む異様な感触で広がっていました。患部はどこなのか、正確にはわかりません。しかし、心臓の上くらいならわかります。手のひらをやさしく当てました。表面は麻酔されたがごとく冷たく、胸のなかはズキズキします。痛みがひどく、まだ針が刺さったままのようでした。上半身の上の部分は、仮死状態になったのかもしれません。
直前まで冷やされた保冷剤の冷気。
外部から強制的に入れられた、液体の冷たさ。
それらは、拍動で身体じゅうに即座に広がることはなく、まるで心臓内に留まるようでした。早鐘を打つ心臓でした。ドクン、ドクン、……と動悸が凄まじく感じ、小動物のように暴れ狂うはずのものが、痛みで気絶しているようでした。
ワクチン液の冷たさは血液に乗って全身に拡散する様子はなく、大部分は左心房にとどまり、拍動の力で緩慢と左心室に落ち、未だ心臓内に滞留したままでした。冷たさで誤認したのでしょうか、いいえ、まだ薬液の95%以上が心臓内部に……左側に|存《い》る状態なのです。
その時、「ううっ……!」
と心臓が悲鳴をあげました。私の身体は飛び上がるように上体を起こし、背中を丸めます。ベッドの上で、うずくまるように。重力に従って落ちるはずの、捲りあげられたシャツの裾も、上半身裸のようなまま、胸を守るように……私は前のめりになりました。
「どうかしましたか?」
「いた……い!」
「いたい?」
「む、ね……い、……っ」
「いたいね、いたいよね、よしよーし」
看護師さんは背中を撫でてくれました。
何が起こったのか。心臓が燃え盛るように痛かったのです。
ばくん! ばくん! ばくん!
と、ひと拍が悠長に感じられ、そのまま身体の外に出たがっているようでした。今まで感じていた動悸の二倍か三倍か、大きくなっていきます。痛みの気絶により気を失っていた臓器は、肋骨で出来た骨の籠のなかで暴れ狂い、その異常事態を動悸が察知したようでした。
「胸に機械当てるから、手どけてね〜」
看護師さんはそう言って、再び2人がかりで対処しました。
慣れたような緊急配備でした。一方は胸をガードする両手をどかして、宙づりの形になるように、頭の上に持って行きました。先ほどの形になりましたが、桁違いに痛かったので、足がバタバタと勝手に動きました。
手を固定している間に、もう一人の方が私の無防備な胸の上に、特殊な機械を当てました。まるで心臓マッサージで出てくる機械に見えました。まさか、電気ショック!? そんな! まだ意識がある人に電気を……?
と思いましたが、どうやら違うようです。
ぐっと押し当ててきましたが、心室内圧を測る機械だそうです。
「右心23、左心160……左が膨張気味です」
「あー、薬液が冠動脈に入ったみたいですね。まあ、大丈夫ですよ。これで心臓は停まりませんから。むしろ元気になっただけです」
機械を取り外しました。
その後、頭をポンポンとやさしく叩きながら、こう言い聞かせました。
「〇〇ちゃん、あのね、しばらくじっと耐えてくれば、楽になりますからね。もうすぐ中学生になるんでしょう」
「う……くっ……」
「この注射ね、小4の子も受けて、我慢してたの。あなただったら、耐えられるでしょう?」
声にならない声をあげようとしましたが、その言葉に孤独な我慢を背負い込みました。手の拘束はそのままに、首つり自殺ならぬ心臓吊りを味わいました。
その間、看護師たちは和やかに会話していました。
当の本人である私は地獄でした。心臓が痛がっていて、ひと拍ごとに吐血をしているみたいです。ズキン、ズキンと、ナイフでめちゃくちゃに刺されているような気分で、失神できればどれほど良かったかと思いました。しかし、心臓には痛覚がない。意識を失うことは叶わず、そのまま心臓の痛みが癒えるまでそのまま抱え込む姿勢を取り続けました。
「確認するからね~」
看護師の一人が、聴診器を当てようとしました。
痛さと格闘中の私の身体はねじり鉢巻きのようになり、それをどけて、ピースを押し付けました。
後で聞いてみると、本当は軽く当てただけだったようで、張り裂けんばかりに心臓が聴診器のピースに目掛けてタックルしていたようでした。しばらく私の心臓の音を恍惚そうに聴いていて、
「うーん、元気で良い音。大丈夫そうですね」と、聴診器はすぐに離れました。
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地獄のような体験をした後、しばらく寝転んで休憩していました。
心筋注射後、心臓の痛みは引いていきました。代わりに、徐脈気味な鼓動は、トクトクトク……、と心拍数が速くなっていきました。150は超えて、その後遅くなり、また速くなりました。
待合室にて待っていた親がこちらに来て、大丈夫? と声をかけていました。すでに会計は済ませているようで、処方箋も貰っていたようです。手には薬局で痛み止めの入ったビニール袋をぶら下げていました。
男性医師は、三脚を片付けている最中でした。スマホを固定していたものです。スマホは、私の苦しんだ様子を動画にて撮影しているものです。
「あ、おかあさま」と医師は親を呼び止めました。
「あの、申し訳ございませんが、もう一つ同意書にサインをしていただいたく」
「なに」
「この医療用に撮影した動画について、児童ポルノに流用される危険があるかもしれないという点につきまして……」
「それは、私ではなく本人がサインすればいいのでは?」
「ですが、未成年ですから」
「もう」と言って、母親はサインをしました。その様子を見て、私の心臓は通常時に戻ったと思います。
数年ほど経ちましたが、あれから新型コロナに罹ったことはありません。
たしかに、風邪っぽいものには何度も罹りましたが、後遺症として挙げられる味覚障害やブレインフォクのようなものはありません。
また、昨今の小中学生で見かける自傷跡もありません。リストカットなど、一度もしたことはありません。もしバレれば「心筋注射するわよ!」と親に言われるからです。あれに勝る痛みは、ありません。
いのちを守る行動は、いのちを直接傷つけられるような経験をしないと、自傷行為をするなんて、バカな真似はしないでしょう。成人した今では、一種の躾、一種の通過儀礼だったと受け入れることにしています。