公開中
7
久保田
七星が橋田のことを好きだという噂は、知らなかったわけではない。というかそもそも、その噂を流したのは久保田、つまりは自分自身であった。
いつだったか、昼休み、ぼっちの久保田は教室にいるのもなんだか居た堪れないので、学校中をうろちょろしていた。校舎裏付近を歩いていた時、会話が聞こえてきた。耳を澄ましてみれば「嘘じゃないなら、教えなさいよ。今、ここで!誰が好きなのか!」という橋田と思われる声。橋田がどうして校舎裏に?そして誰と会話をしているのか?好きな人の話?疑問と不安と好奇心に襲われた久保田は、続く言葉に驚愕した。「橋田さん。」それはおそらく、クラスメイトの七星の声だった。七星と話したことはない。印象も、特にない。だがどうやら七星は橋田のことが好きらしいぞ。てか、好きな人にあなたのことが好きですなんて言うな!橋田が七星のこと意識し始めちゃうだろ!てか百合?現実にあったんだな!てかこれ聞いちゃって、俺はどうしたらいいんや!どうしろと言うんや!久保田は驚きのあまり、橋田の反応を聞き逃してしまった。自身の横を通り過ぎた強い風(橋田)で我にかえり、慌ててその場を離れたのだ。
それから久保田は、考えた。橋田の反応を見逃したのが惜しくてならなかった。橋田がもし、七星のことを意識し始めてしまったのなら、俺は慌てて告白しないとあかん。橋田の意識が完全に七星に向いてしまえばもう手遅れだろう。だがもし、「あ、まじ? 七星って私のこと好きなん?」くらいの反応なら、まあ告白は延期でいい。そりゃいつかは付き合いたいけど、告白する勇気はそうそう出るもんじゃないし、別に今じゃなくてもいいかな、と言う感じなのである。
ではどうしたら橋田の反応を伺えるだろうか?久保田は弱い頭で必死に思考し、ようやく思いついた。俺が噂を流せばいいのだ!「七星が橋田を好きだ」と言う噂を!噂を耳にした橋田の反応から、おおよそわかるだろう。
久保田は実行し、毎日ちょいちょい橋田の様子を気にして、ようやく噂を知った瞬間の橋田を見ることができた。昼休みの屋上でのことだった。やばいぞと思った。もうカップル成立しそうやんけとも思った。久保田は焦った。告白して無理やり橋田の意識を俺にも向けさせるしかない!久保田はそう決めたのだった。
ある日の昼休み、久保田は橋田に言った。
「放課後、屋上に来てほしい。」
こじつけだ…噂を流した人が誰なのかなんて全く考えてなかったもん…仕方ないよ…。