公開中
23:カレーと笑顔
「大きいお鍋ですね……。」
全校生徒の給食を全部作ってるんだから、そりゃあ、ね。
さて、私たちは今給食室にいる。
今日の私たちは給食当番なのだ。そう、ヒメさんは給食当番初体験。
汗水垂らして(は、言い過ぎかもしれないが)頑張って働いた後の給食は美味しいよ!やりがいもたっぷりである。しかも今日はみんな大好きカレーだ、テンションが上がらないわけがない。
「茶色くてとろとろしたスープの中に具材が入ってるんですよね?」
その認識で合ってるよ。スープかどうかは微妙なところだけど。
「茶色いならちょっと針とか虫とかの除去がやりにくそうですね。いつもより注意してやらないとダメですね。」
だから針も虫も入ってないよ!安全だよ!もし入ってたら大騒ぎだよ!
声も怖いですよ、ヒメさん。
入ってるのは具材、にんじんとかジャガイモとか……あ、名詞はこっちと向こうの国で違うのか。とにかく、野菜しか入ってない。具材だけだからね。
「具材が入ってるんですねー。」
なんでそんなに平坦な声なの!
重いカレーが入った容器をえっちらおっちらと運ぶ。
正確に言えば私は運んでない。全部ヒメさんにお任せである。
ごめんね。
「……重いです。」
私も気分だけでも手伝えないかな?
手に容器の鉄のひんやりとした感覚を思い出して、握って。
よい、しょっと。持ち上げる想像をする。
「あれ?」
もしかして、軽くなってる!?
「そんな気がしなくもないです。ありがとうございます!」
いやいや、本当は私が運ぶ予定だったんだし、悪いね。
精神生命体みたいな状態でも、条件を満たせばちょっとはお手伝いができるのかな?これってドーピング?
……まあ、たぶん大丈夫だと思われる。これは事故である。しょうがないのである。
だから、私がちょっとぐらい手伝ったとしてもしょうがないよね!うん!
「そうですよ、きっと大丈夫です!」
「ナツキさん、一人でしばらく喋ってる?」
う、痛いところを突くなぁ。
正確には一人じゃなくて二人だよ。この言葉は伝わらないけど。
「手を合わせてください。」
「いただきまーす。」
「相変わらず美味しいですね、こっちのお料理は!」
私もカレーの味を想像すれば食べられるのかな?
「どうでしょうか?」
ダメだった。カレーの味……見えるのに!
「ごめんなさい。」
あなたが謝る必要はないのよ!?
もうちょっとイメージトレーニングが必要なのだろうか。カレーの味を味わうためならなんのそのである。
「……美味しいですね。本当に。」
そう言ってヒメさんは、ちょっと感傷に浸っているような声を出した。
「努力して運んで、みんなが笑顔になって、わたしも笑顔になれるんですね。すごく素敵です。」
その言葉はやけに、私の心に染みついていった。