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~そして僕らは逃げだした~
分かる人はもうわかるはず...
本編どぞ!
〈優音〉
『昨日の放課後、人を殺しちゃったッw』
電話越しにそういう君の声は微かに震えていた。
「は?ちょッ今からそっち行くからッ!待ってろよッ」
なんで、玲は人を殺したんだ?
なにか、理由があるはず。
---
「玲ッ!人を殺したってどういうことだよ!」
「ッ!」
「優音、来てくれたんだ。」
「なんで、そんなに濡れてるんだ?」
「さっき散歩したからだよwほら、梅雨だし、雨降ってるから。」
「なら早く部屋に入れよ!」
「入る気力とかなくってさw」
震えている。
梅雨と言ってももう6月後半だ。
そろそろ熱くなってくる時期。
なのに、玲はひどく震えていた。
ーあれは、俺らのある夏の日の出来事。
「まず、誰を殺したんだ?」
「優音も知ってると思うよ。
舞だよ舞。僕の事をいっつも虐めてくるあいつ。
なんか、嫌になっちゃって、突飛ばしたら、
打ちどころ悪かったみたいで死んじゃった。」
「...」
「ここにいても人殺し扱いされるだけだし、生きてる意味もないから、どっかで死んで来るよw」
そういう玲は笑っていた。
「ねぇ、なら俺も連れて行って。」
「...いいよ。」
---
財布持った。
ナイフ、持った。
万が一の時に死ねるように。
形態も、ゲーム機も全部カバンに入れた。
いらないものは、、、捨てる。
壊して捨てる。
このアルバムも、小さい頃の日記も
もう、必要はない。
この旅には何も必要ない。
「行こう。人殺しの玲とダメダメな俺との旅へ。」
---
逃げ出してから1週間がたった。
あの、狭い空間から。
それだけじゃない。
家族も、クラスメイトも、全部捨てて、俺と玲だけで。
玲は大親友だ。
置いていくなんて、置いて行かれようだなんて、考えもしない。
玲が死ぬなら俺も死ぬ。
遠い遠い誰も知らない、誰もいない場所で。
この世界に価値なんて無いんだ。
玲が人を殺したんじゃない。
打ち所が悪かったんだ。
それだったら、人殺しなんて、たくさんいる。
玲は、悪くない。
---
また、1週間がたった。
「僕らの事、誰も探しにこないね。」
「あぁ。誰からも電話すらかかってこない。」
「だれからも、愛されてなかったのかな。」
「そうみたいだなww」
嫌な共通点だけど、こんなことを笑い合って話せるのは、
俺らだけだった。
誰にも縛られないで生きていける。
そう考えて、二人で路線の上を歩いて行った。
あるときは、落ちている金を盗んだ。
二人で逃げるのなら、どこへでも行ける気がした。
俺ら二人なら、怖いものなんてない。
俺らの額から流れる汗も、玲の落ちて壊れた眼鏡も、
今ならどうでもいい。
買うお金もないし、働いてもない、自由な二人の旅だから。
「ねぇ、ある夢を見たんだ。」
「へぇ~」
「誰からでも好かれて幸せに暮らせる主人公になった夢。」
「...その主人公になった夢が、現実にあったら、僕らじゃなくても、
そういう人がいたら、汚れた僕らの事も、見捨てないかな?」
「そんな夢みたいな思考はもうしない。
だって、俺ら今これだぜ?公園で野宿w」
「幸せなんてものは存在しないんだよ」
「そうだよね。今までの人生で十分思い知ったことかw」
「見捨てたやつらは、俺は何も悪くないって思ってるんだろうな。」
「ミーンミンミンミンミンミーン」
「蝉がたくさんいる。」
「そうだねッ」
「大丈夫か?」
「おい!お前たち何をしている!今は夜だぞ!」
警察が来た。
鬼のように怒り狂っていた。
「ッ!逃げよう!」
「うんッ!」
---
暫く、俺らは逃げていた。
「ふぅ、ふぅ...」
「ーーー!?」
「まッだいるッ」
「走れるか?」
「あははッもう、いいよッ」
「は?何言ってるんだよ!」
そういう玲の手には、俺の持ってきた、ナイフが握られていた。
「優音がいたからここまでこれたんだよ。
もう、十分。最期まで傍にいてくれてありがとう。」
「まてッ!お前が死ぬなら俺も死ぬ!」
「んーん。死ぬのは、僕一人で、」
「最期まで犠牲になるのは僕一人だけで十分さ。」
そう言って、玲は、ナイフで、
--- 首を斬った ---
その姿はまるで、アニメや、映画のワンシーンのような
光景だった。
これは、白昼夢、夢なんじゃないかと思った。
いや、目の前に広がっている、残酷な光景を信じたくなかった。
「ッ!殺人容疑で逮捕するッ!」
「ッは?」
気付いたら、もう救急車が来ていて、
俺はなぜか捕まっていた。
そう。玲を殺したのは俺だと思われたのだ。
頭が真っ白になって、時間だけが過ぎていった。
---
それから、玲は自殺だというのを伝えて、俺は家に戻った。
この夏は、暑い日だけが過ぎていった。
家族とも会った。クラスメイトとも会った。
でも、もう玲とは会えない。
あれから、俺は音楽にどんどん興味を持っていった、
玲は、曲を作るのが好きだったのを思い出した。
「前に歌詞をくれたっけ?」
「曲、作ってみよう。」
その歌詞はラブソングのようなものだった。
『僕もいつかこんな経験ができたらいいな』
なんて言ってたっけ。
---
あれから、また1年。
「♬~」
俺は、今も、今でも歌を歌っている。
俺と、玲しか知らない"あの夏"の曲を。
今でも、探している。
どこかで生まれ変わったのではないかと、おとぎ話みたいなことを
信じながら、玲を探している。
俺は、この世界が素敵なことに気づいたから。
それを伝えるために。
もう、今世で失敗しないように。
俺に、それを気付かせてくれたのは玲だったから。
俺は、今でも歌うよ。
「6月の匂いを繰り返す
君の笑顔は君の無邪気さは
頭の中を飽和している。」
「...!あの!」
「?どちらさまですか?」
「その歌って、もしかして、玲っていう人が作った曲ですか?」
「ッ!」
「玲を、玲を知っているんですか?」
「はい!だって、僕が、」
「玲だからッポロポロ」
「ッ!」
「ごめんねッ優音ッ一人にさせてっ!」
「馬鹿ぁッ!!」
あの時もしも、誰も悪くない。
玲は何も悪くないから。諦めてもいいよ。
この狭い世界でもいいから、
他の道に抜け出そう?って言ってたら、
空白の1年間はなかったのに。
今思えば、簡単なことだった。
玲だって、きっとこれを言って欲しかったはず。
「ごめんな玲ッ」
「全然だよ。でも、今言ってほしいのは...」
「知ってる。お帰り。だろ?」
「ただいま。優音」
あの夏が飽和する。/カンザキイオリ様。
※尚、主は原作読んでいません!