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9.歓迎
「ようこそ、我が村へ。」
村長の寛大な言葉によって迎えられた。
どうやら、この村は響に好意的なようである。
「して、この少女は誰じゃ?」
「…どんな所以で俺の村に来た?」
村長の息子はどうやら響についてあまり聞いていないようである。
「たしか…ライセン殿が、拾ってきたんだ」
いくら知らなくても、見たままの事実はさすがに分かるようだ。
「ライセン殿が?どんな経緯で?」
「たしか…魔物に襲われているところを見つけたんだとか。その時は服装も変なものを着ていたそうだ。」
「服装が変?」
村長はその言葉にひっかかりを覚えたようだ。
「もう少し説明を頼む。」
「そう言われてもな……。」
響は焦った。はじめに洞窟とかをライセンに言っていしまったからだ。他の村長の娘で学びに来ているという設定を壊さないためには……と考えて、思いついた。
「私は、遠くの村の村長の娘です。ヒビキ・カグラといいます。私の村には面白い伝承……洞窟を通れば、離れたところに一日もかからずに移動できる……というものがあって、それを実践してみたらいきなり魔物に襲われてしまって、そこでライセンさんに助けてもらったというわけです。」
(これぞまさに完璧な説明!ムフフ……)
響はかなり満足げである。
「名字持ち……洞窟……変な服装……」
村長はなにやら考え込んでいる。
そして、他の人を呼びに行った。
一体何の必要があるのだろうか?
それはさておき、村長たちは、しばらく話していた。
「あのー。」
さすがに響もしびれを切らし、割れこもうとしたが、結論は出ていたようだ。
「もしやそなたは神子ではないか?」
「「神子?」」
村長の息子と響の声が被った。
「神子とは、我々の村に伝わる伝承じゃな。ある日突然、人があらわれる。そしてその人物は、自分は洞窟を超えてやってきた、と言う。さらにその人たちには名字があり、変な服装を着ている。まさにそなたではないか?」
響はポカンとする。
(何その設定。急に神子?いや、君たちも同じところで生きているはずでしょ。確かにそれは私を指していそうだけど。そんな設定まで作っているなんて……すごい!さすがテレビとかの誘惑に勝っているだけあるなぁ。)
そして、納得した。
「まあそうかもしれませんね。」
「皆の衆、新たな神子が現われたぞぉ!!」
「「「「「「おおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」」」」」」
響は、引いた。
……今までの神子は一体何をしてきたのだろうか?ふつうはこんな歓迎があるわけがないというのに。
だけど響は納得していた。
それはそうだろう。この大げさな歓喜の声を、きっと大げさに話を作っているんだろうな……などと思いながら聞いているのだから。
逆にそう思っていなかったら絶対に納得できなかっただろう。
ただ、そこで響は初めて疑問に思ったことがあった。
(あれ?洞窟を越えたら戻ってこられない……ってどういう意味なんだろう?帰ってくるのに時間がかかるという意味なのかな?)
この疑問は、もっと早く持っておくべき疑問だろう。逆に今まで疑問に思わなかったことが不思議である。
「さあ、今日は好きに飲んで、歌って、新たな神子の誕生を……いや発見を祝おうではないか!」
「「「「「おう!!!!!」」」」」
ちなみに、今は昼である。
ここにいる人たちは皆、仕事を放り出して、宴をしようとしているのである。
「あのー、私、これを見せたら帰る予定なんですけど。」
「「「「「え?」」」」」
「今日中に帰りたいんですけど。」
理解してもらえなかったのか、と思い、もう一度言う。
「ちょっとちょっと、今晩は泊っていきましょうよ。村で一番高級なベッドを使わせますから。」
「おう、うちの娘を世話役に入れようか?」
「いえ、一人でいいですし、帰りますよ?」
ガーン。その音が聞こえてきそうなほどにそれを持ち掛けた男はショックを受けたようである。
「ヒビキさん、ここは一晩残ってもいいですよ。僕は帰りますから。ただ、帰るときは村の人に送ってもらってください。」
「おう、俺が送るさ。」
そう言ってくれる人がいた。
「ではこの書類をどうぞ。僕は帰ります。」
そして、その後の宴は騒がしかった。もう一度言おう、騒がしかった。ただ宴をしたかっただけ、その理由で響が巻き込まれただけじゃないか、と思うほどに。
そして、響は思うのだった。
(裏切られた……?)
と。