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透明
得意なこと。それはみんなが持っているものだとカウンセラーの花里先生は言った。「だからあなたにもあるわよ。」先生は続ける。無責任だと思った。どうしてみんなが持っているものだとわかるのか。得意とは、どこからどこまでを指すのか。私は何もできない。勉強も運動も、0から1にすることも、1を100にすることも、10にすることすらできない。私は何も持っていない。私が私であることを証明する術はない。どこにもない。
花里先生はその後も、私を励ますための的外れな言葉を熱心に吐き出してくる。はいと頷いているとカウンセリングはいつの間にか終わって、私は待合室のソファに座っていた。どうやらお母さんと花里先生が少し話をするようだった。まだ地面に完全にはつかない足をぶらぶらと持て余す。5分ほどでお母さんは帰ってきた。何を話していたのだろう。一瞬思ったが、聞くほどではない。花里先生は私のことを何も知らないのだから、彼女の想像でしかないことを話されたのだろう。私は先生とコミュニケーションを取らなかった。だから先生が私のことを何も知らないのも当たり前だった。先生が一方的にボールを投げてきて、私はそれを取るために動こうともしない。きっと私は、これをずっと続けるのだろう。
個人的に好きな1文は、「一瞬思ったが、聞くほどではない。」
主人公の「関心はゼロではないけど、聞くのは怖い、だから聞くほどではないと思い込むことによって自分を守っている」感が出て良いなと思った。