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竜胆日向の冤罪
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作品名:竜胆日向の冤罪
ユーザーの名前:十七夜月 満天
この作品に込めた思い:璃音と日向という正反対な二人のやり取りを楽しんで欲しい
その他でほしいもの:お気に入り登録してくれたら嬉しいな
一言:先に『数量限定チョコクリームメロンパン事件』の方を読んでおくとより楽しめると思います
黒羽ネクロさん『小説コンテスト開催中!!!』用テンプレート
ユーザー名:十七夜月 満天
作品名:竜胆日向の冤罪
先に『数量限定チョコクリームメロンパン事件』の方を読んでおくとより楽しめると思います
昼休み、雨宮璃音は、戦国時代の合戦や武器を解説した書籍と、豊臣秀吉の生涯を描いた歴史小説を返却しに図書室へと向かっていた、この二冊は戦国時代の知識を深めると同時に璃音の処世術に大いに役立ってくれた。
図書室への道中、璃音は新校舎の一階、昇降口のすぐ脇にある巨大な掲示板の前で足を止めた。
掲示板は、この菫女学院の情報の集積場だ。学校行事の予定から、落とし物の連絡、各部活動の輝かしい実績、そして外部講師の来校スケジュールまで、あらゆる情報が整然とピンで留められている。
「……また増えてる」
独り言ちて、璃音は掲示物をスキャンするように眺める。
左端には、多くの生徒が群がる修学旅行の日程表。その隣には、購買の新商品のお知らせ。さらにその隣には茶道部外部講師の来校が本日に前倒しになったというお知らせ。
そして右下の隅に、見覚えのない数枚の事務連絡のメモが重なるように貼られていた。
『生活指導部より:旧校舎裏門付近での買い食い厳禁』
――これは先週のメロンパン事件の余波だろう。西園寺さんは厳重注意を受けたらしい。
『保健室より:季節外れのインフルエンザ流行の兆しあり。手洗い・うがいの徹底を』
――確かに、最近欠席者が増えている。気をつけないと。
『図書室より:今月の新刊リスト』
――読書の秋だからだろうか、今月はいつもより面白そうな本が多い。
璃音は掲示板を後にして図書室へと向かった。
菫女学院の図書室は、広くて綺麗で壁一面に並んだ本棚に本が隙間なく規則的に並んでいる、静寂が約束された本好きにとって楽園のような空間だ。
新刊コーナーにはついさっきタイトルを確認した本達が図書委員謹製のポップで飾られて、今月の主役だ、と言わんばかりの存在感を放っている。
璃音は新刊コーナーから一冊手に取り、読書スペースのパイプ椅子に腰を下ろす。――静かだ。
今日はあの日以来、何かと付きまとってくる竜胆日向の姿もない。彼女が視界に入らないだけでこんなにも静かで落ち着くなんて、改めて竜胆日向の影響力の大きさには驚かされる。
それから、璃音はチャイムが鳴るまで、黙々と“処世術”を楽しんだ。
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菫女学院二年生、西園寺晴子はなぜ、入手困難で有名な購買の大人気商品『なめらかチョコクリームメロンパン』を毎日のように入手できるのか。
ある日の放課後、日向がなんとなく話した謎を、璃音があっさり解き明かして以来、二人の距離が少しだけ縮まった。
正確に言えば、竜胆日向が一方的に距離を詰めているのだが、彼女の中で自分の存在が隣の席の無口なクラスメイトから、無口だけど頼れる友人に格上げされたことを璃音は感じていた、そして恐らくそれは間違いではない。
竜胆日向は一言で言い表すなら太陽のような女の子、明るくて好奇心旺盛で笑顔の眩しい、クラスの――いや学校中の人気者。そんな彼女の相手をするのは正直ちょっと疲れる。
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秋の日は釣瓶落とし、とはよく言ったものだ。
放課後の旧校舎三階、文芸部の部室に差し込む陽光は、一週間前よりもずっと深いオレンジ色を帯びている。窓の外では、わずかに色づき始めた銀杏の葉が、冷たさを増した風に揺れていた。
十月も半ばを過ぎると、旧校舎の空気はひんやりと肌を刺す。そろそろカーディガンが恋しくなる季節だ。
璃音は図書室で借りたばかりの、卑弥呼と邪馬台国に関する書籍を開いた、璃音の最近のマイブームは歴史に関する本を読むことである。
今、文芸部の部室には璃音と同じく人見知りの後輩が一人だけ、その後輩――佐倉恵美は部誌に載せる作品の執筆に悪戦苦闘していた。
よって、文芸部の部室は璃音の愛する静寂そのものだった。
「――りおぉぉぉん! 助けてぇ! わたしの潔癖を証明してぇ!」
静寂が、無惨に引き裂かれた。
部室の木製ドアが勢いよく開き、太陽が飛び込んできた。ポニーテールを振り乱し、必死な形相で長机に両手を叩き付ける。涙で潤んだ瞳から、その必死さは伝わってくる。
恵美の手が止まった、怯えるような表情で日向を見ている。
「……証明するのは潔白。あと、うるさい」
「だって、だってさ! わたし、何もしてないのに和菓子泥棒にされてるの!」
「和菓子泥棒……、それで私に冤罪を証明してほしいと」
日向は大きく首を縦に振る、璃音は再び大きなため息をついた。
璃音は日向の顔をじっと見つめる。
和菓子という事は茶道部のものだろう、購買のメロンパンにあれほどの情熱を燃やす彼女なら、茶道部の部室に美味しそうな和菓子があれば、ふらふらと手が伸びてしまう可能性は否定できない。
「……竜胆さん。正直に言って。食べたの?」
「食べてないってば! 璃音まで私を疑うの!? 確かにわたしは食いしん坊だけど、人のもの、しかも部活で使うお菓子を黙って食べるほど落ちぶれてないよ!」
日向は頬を膨らませて抗議する。その表情には、いつもの天真爛漫な明るさよりも、本気の焦燥と悲しみが混じっていた。
しかし、日頃から文芸部のお菓子をつまみ食いしているせいで説得力がまるで無い。
「信じるもなにも、私は何も知らないし、事の顛末を話してもらわないと何とも言えない」
日向の言い分によれば、事の顛末はこうだ。
今日の昼休み、日向は「日当たりのいい和室で少しだけお昼寝をしよう」と思いつき、旧校舎の和室に忍び込んだ。そのまま授業開始のチャイムが鳴る直前までうたた寝をしてしまい、慌てて部屋を飛び出したところを、運悪く茶道部の部員に目撃されたらしい。
日向を目撃した茶道部の部員によると『あの時、日向さんが満足げな顔で口を拭きながら出てくるのを見た』らしい。
そして放課後。茶道部のお茶会のために用意されていたはずの高級和菓子が「一個足りない」ことが発覚し、部室に不法侵入をしていた日向に真っ白な羽ならぬ、真っ黒な疑いがかけられたというわけだ。
――昼休みに姿を見ないと思っていたら、こんなことをしていたとは……。
戦国時代なら有無を言わさず切腹だ。
璃音の中で半信半疑で釣り合っていた天秤が疑の方へと僅かに傾いた。
「目撃証言もあるのね、満足げな顔で口を拭いていた、という。これについては?」
「それは……その……」
日向は急に顔を赤くして、もごもごと口ごもった。
璃音は目を細める。この反応、何かを隠している。
「やっぱり食べたの?」
「違うの! あれは、その……畳が気持ちよくて、熟睡しちゃって……よだれが、出てたから……それを拭いただけなの!」
……。
沈黙が流れる。璃音は天を仰いだ。
茶道部の部員からすれば、昼休みの部室から口元を拭きながら寝起きの満足げな顔で出てくる生徒がいれば、それを完食の証拠と見なすのは当然の帰結だ。
「あ、大変だよ、璃音! こんなことしてる場合じゃないよ、部長の九条先輩がすっごく怒ってて……今すぐ謝りに来いって言われてたんだった!」
一瞬、ハッとした表情を浮かべた日向は長机を回り込むと「璃音一緒に来て!」と璃音の腕を掴み、半ば強引に部室から引きずり出そうとする。抵抗は無駄だと悟った璃音は大人しく日向に従うことにした。
もし、拒否したりすれば日向はその場で泣き出して恵美は作業どころではなくなるだろう。
「恵美ちゃん、璃音借りてくね」と日向は言って、部室を後にした。ほとんど誘拐である。
「あ、はい、いってらっしゃい」
恵美は呆気に取られた様子でぎこちなく手を振って二人を見送った。
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茶道部室の入り口は、異様な緊張感に包まれていた。
扉を開けると、そこには数人の部員と、一際威厳を放つ上級生が立っていた。茶道部部長、九条栞。
お嬢様という言葉を具現化したかのような濡れ羽色の長髪の令嬢は鋭い視線を日向に向けた、射干玉の瞳が冷徹に輝く。
「あら、竜胆さん。観念して謝りに来たのかしら? ……そちらの方は?」
九条部長は冷ややかな声で言った。その傍らには、すでに到着している外部講師の先生――上品な着物姿の老婦人が、困ったように微笑んでいる。
「違います! 私は食べてません! こっちは私の親友で、文芸部の……その、名探偵の雨宮璃音さんです!」
日向の余計な紹介に、璃音は顔が熱くなるのを感じたが、努めて無表情を装い、九条部長の前に歩み出る。
「文芸部の雨宮です。……九条先輩、まずは状況を確認させてください。お菓子が『一個足りない』と判断された根拠は何ですか?」
九条部長は不快そうに眉を寄せたが、毅然と答えた。
「決まっているでしょう。今日の出席者は、私を含めた部員が十二名。顧問の先生が一名。そして、外部講師の先生が一名。合計十四名です。それなのに、冷蔵庫に入っていた箱の中には、十三個しかお菓子が入っていなかった。……一人分、足りないのです」
なるほど。数としては明確だ。
「箱を見せてもらっても?」「構いません、ですがくれぐれも中身には手を触れないでもらえます?」
念を押しつつ、九条先輩は冷蔵庫から箱を取り出した。
それは学院御用達の老舗和菓子店『翠麗庵』の包み紙に包まれた、大きな紙箱だった。
箱を開けると、そこには秋らしい紅葉を模した美しい生菓子が並んでいる。
……確かに、不自然な空きスペースがある。
箱の中には透明なプラスチックの仕切りがある、お菓子のスペースは十五個分
お菓子が整然と並べられるようになっているのだが、その一角だけがぽっかりと空いていた。
十五個入りのスペースに対して、お菓子は十三個。一列目と二列目は五個並んでいるが三列目は三個、つまり、空きスペースは二つある。
「普段は十二、三個しか頼みませんが、今日は特別に講師の先生がいらっしゃるので、十四個注文したはずなのです」
璃音は箱をじっと観察した。
「先輩は、この二つの空きスペースのうち、一つは元々空いていた場所で、もう一つは誰かが食べた跡だと判断したわけですね?」
「当然でしょう。十四個注文したのですから十五個入りの箱で届くのが道理です。そして、あそこにいた竜胆さんが、一つ手に取って口にした……それ以外に何があるというの?」
確かに九条先輩の言い分も筋は通っている、しかし何か違和感がある。
もし本当に最初から十四個入っていたのなら、箱の角ではなく真ん中を空けてそのスペースに飾りでも入れておけば、箱の中身が左右対称になって見栄えも良くなるのではないだろうか。和菓子職人のような見た目に人一倍気を配りそうな職業の人ならそのくらいはするはずだ。
璃音は次に、部室の隅にある小さなゴミ箱を覗き込んだ。中には、華道部の生けた花のものと思われる枯れ葉と、ちり紙が数枚。和菓子を包む薄紙や、食べた後のカスなどは一切落ちていない。
璃音の視線は、部室の机の上に置かれていた部活動日誌と、その横に添えられた注文票の控えを手に取った。
そこには、茶道部の備品購入や、お菓子の発注記録が記されている。
――あぁ、なんだ、そんなことか。
もし、この推測が事実なら日向の無罪を証明できる。部室の角で借りてきた猫になった日向を一瞥した。
「九条先輩。今日のお菓子の発注を担当したのはどなたですか?」
「……私ですが、何か? 本来は下級生の仕事ですが、今日は講師の先生がいらっしゃる大事な日でしたから、一週間前に私が直接電話で注文内容を変更するよう指示しました」
璃音は注文票の控えを指でなぞる。これがパズルの最後のピース。
そこには、手書きでこう記されていた。『定例注文:生菓子十三個』、先輩の証言と食い違っている。
璃音は眼鏡のブリッジをクイと押し上げる。
「九条先輩。お菓子は最初から、誰も食べていません、これを見てください。この控えには『十三個』とあります。十四個ではありません」
「なんですって? そんなはずは……! 私は確かに、店の方に十四個と言ったはずです。講師の先生が来る日が、本来の来週から今週に前倒しになったのですから!」
九条部長の声が少し上ずった。
「それが、この謎の真相です。先輩」
「真相……?」
和室にいた全員の視線が、璃音に集まった。
璃音は静かに、けれどはっきりとした声で語り出した。
「九条先輩。あなたは確かに『十四個』と注文したつもりだったのでしょう。ですが、お店の側にはそれが届いていなかった。理由は単純です。……この茶道部は、普段から『十三個』を定例注文していますね?」
「ええ、部員十二人と顧問の先生の分よ」
「お店の方は、長年の慣習で茶道部からの注文=十三個というデータが頭に染み付いていた。そこに先輩から日程の前倒しというイレギュラーな連絡が入った。お店の方は日程の変更には対応しましたが、個数の変更……つまりプラス一個という指示を、いつもの定例注文の数に上書きしてしまったんです」
「そんな……。でも、箱の中には空きスペースがあったのよ!? 一つはともかく、もう一つは……」
「それは、この箱が十五個入りだからです」
璃音は箱を指差した。
「十五個入りの箱に、注文通りの十三個を入れたらどうなりますか? 空きスペースは二つできます。もし先輩が思い込んでいたように十四個入っていたのなら、空きスペースは一つしかなかったはずです」
九条部長は絶句した。
璃音はさらに追い打ちをかけるように、手元の日誌を示した。
「お店から届いた納品書も確認しました。そこにもはっきりと『生菓子 十三個』の代金が記載されています。……つまり、最初からこの箱の中に、十四個目のお菓子は存在していなかったんです」
「じゃあ……日向が食べたわけじゃ……」
部員の一人が呟いた。
九条先輩の顔色が少しずつ変わっていく。
「じゃあ、私の目撃証言はどうなるの! 竜胆さんが口元を拭きながら、満足そうに出てきたじゃない!」
璃音は日向の方を向き、少しだけ意地悪く微笑んだ。
「あれは単によだれを拭いていただけです、彼女は昼休みにこの和室でお昼寝をしていたそうです」
九条先輩は理解が追い付かないと言った表情で日向を見つめた、さっきまでの鋭さは微塵も感じない。
この菫女学院によだれを垂らして昼寝をする生徒が居るなんて夢にも思わなかったのだろう、自分もその一人だが。
璃音は「本人の証言なので間違いないと思います」と付け加えた
「あわわわ! り、璃音! それは言わなくていいってば!」
日向は顔を真っ赤にして地団駄を踏んだ。
その様子を見て、張り詰めていた和室の空気が、ふっと緩んだ。
講師の先生が、コロコロと鈴が鳴るような声で笑い出したからだ。
「おやおや、それはお恥ずかしい。でも、これで疑いが晴れて良かったわね、お嬢さん」
「良かった、良かったのかな、これ?」
講師の先生が日向に優しく微笑みかけたその時、一年生部員が慌てた様子で飛び込んできた、顔を真っ赤にしている。
「せ、先輩! お店から電話がありました! やっぱり、配送ミスだったそうです。今から足りない一個を急いで届けてくれるって……」
九条栞の顔から、一気に血の気が引いた。
しばらくの間、呆然と空のスペースを見つめていたが、やがて深く、深く頭を下げた。
「……竜胆さん。私の思い込みで、あなたにひどい疑いをかけてしまいました。本当に、申し訳ありませんでした」
その潔い謝罪に、日向は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにいつもの太陽のような笑顔を取り戻した。
「いいですよ、九条先輩! 私も、勝手にお昼寝しちゃったのが悪かったし。……でも、その代わり!」
「その代わり……?」
「昼寝の事はみんなに黙っておいてください!」
日向のあまりに率直な要求に、部長は一瞬目を見開き、それから今日一番の穏やかな微笑みを浮かべた。
「ええ。喜んで。……雨宮さんも、ご迷惑をお掛けしました、もしよろしければ今度一緒にお茶でも……」
部長は璃音に再び深々と頭を下げる。
「私は……文芸部の活動がありますから」
璃音はそっけなく答えて、日向の背中を押して部室を出た。
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夕暮れの廊下。日向は璃音の隣を跳ねるように歩いている。
「いやー、さすが璃音! 今日も冴えてたね! かっこよかったよ!」
「でもさ」日向は璃音の前に躍り出る、璃音の目を真っ直ぐ見つめて言った「なんでよだれの事話しちゃったの? わたしすんごい恥ずかしかったんだからね!」
「私も名探偵って紹介されて恥ずかしかったから、おあいこ」
「待って、璃音の中では名探偵とよだれがイーブンなの?」
「恥ずかしい思いをしたという点では同じでしょ?」
「かっこよさが全然違うよ!」
ポニーテールを揺らして笑う日向。
その横顔を見ながら、璃音は心の中で小さくため息をついた。
もう、この太陽の呪縛から逃れる術は無いのだろう。
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竜胆日向の冤罪事件から数日が経った、昇降口脇の掲示板に部室の私的利用についての張り紙が掲示されることはなかった。
黒薔薇姫さん『黒薔薇姫の年末作品コンテスト』用テンプレート
作品のこだわり、工夫点:ジャンルが日常の謎と言うことで、現実に起こりそうな謎を題材にした点
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