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〖立てば芍薬、座れば牡丹、 歩く姿は百合の花〗
「大麻...ですか?この、匂いも?それが...?」
汗を拭う日村を見ながら問いかけた。
「...大麻は青臭く、甘い匂いがするんだ。だから、もしかしたらと思っていたが、まさか本当にあるとは...」
そう言いながら近くの資料を手で取り、目に映す。どれも赤毛の人物が載った写真で年齢や性別もバラバラで共通点はどれも燃えるような赤毛であることしかなかった。
ふと、日村が紙を捲る手を止めた。
「涼くん、これ...」
名前を呼ばれて日村が見ていた資料に俺も目を通した。
ある赤毛の女性。しかし、見たことがある。数時間前に話した女性達だった。よく見れば、会場にいた男性や女性の顔ばかりだった。
「...顔見知りの方々ばかりですね。でも、それが、ここと何の関係が?」
赤毛の人物の資料が散乱し、数々の照明に照らされた大麻ばかりの植物室。それに、恰幅の良い男性はどこへ行ったのだろう。
「...なぁ、暴力団関係者ってのは......大麻だけを売る仕事じゃないだろう?」
「?...正直、借金取りのイメージがありますね。大麻だけに焦点を当てれば、参加者に大麻の密売をしているようにも...」
「へぇ、君は大麻の販売の話でも誰かにされたのか?」
「いや...されてないですよ。でも、あり得る話では?」
「...公に出る人を不特定に集めて大麻の販売なんてリスクが大きすぎる。大麻は別の話だろうけど、この資料と暴力団の因果が気になるところだな...」
こっちの話を否定して勝手に考えこむ姿を横目に部屋全体を見回した。
特にこれといって特徴はない。強いていうなら臭いがひどいくらいだった。
恰幅の良い男性の姿はなく、細身の小綺麗な男性...日村だけが部屋の中に自分といる。
改めて部屋を見回して気づいた。部屋の奥のすり硝子の扉から風が入っている。
すり硝子の扉を開き、コンクリートの床の屋外を見回す。男性の姿はもちろん、なかった。
とりあえず日村を放って辺りを探索しようと入った扉に手をかけた。
それから引こうとした瞬間、急に開かれ以前会った女性が相見えていた。
「うわっ...鴻ノ池さん...!」
眉一つ動かさず堂々としている彼女に少し怖じけつく。奥に恰幅の良い男性を取り押さえる桐山亮の姿が見えた。
「どうも、和戸さん。大麻臭いですね...やりました?」
「えっ、いや...俺じゃないですよ!」
「なら日村さんが?」
「違います!」
彼女は少し微笑んで更に口を開いた。
「分かってますよ、その部屋ですよね。少し日村さんとお話があるので、そこで遊んでる桐山の相手をして貰えますか?」
この人、案外怖いかもしれない。
縦に頷いて部屋から出るとき、すり硝子の扉付近に何かが光ったような気がした。
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「あ、和戸さん!髪、染めたんですか?」
カツラだよと言いたくなるものの、ぐっと抑えて桐山が組み敷いた男性を見た。先程の恰幅の良い男性ではあるが、手には手錠がかかり少し大人しくなっている。
その姿に呆気なさを感じながら桐山に問いかけた。
「その人、捕まえたんですね。どうやって捕まえたんです?」
「ああ...外の階段から出ていくのが見えたんです。先輩が怪しいから捕まえとけって言ったので...」
「そう、なんですね」
「はい!和戸さんは大丈夫でした?」
「何がですか?」
「日村さん、結構無茶する人なので何かしら危なくなかったかなと」
「...特にはないですね。強いて言うなら...」
「強いて言うなら?」
大麻を見つけたなど、言っていいのだろうか?
「......いえ、何も」
「そうですか?...ところで和戸さんって、なんで宮本さんと別れたんですか?」
「一身上の都合ですよ。それを言ったら桐山さんもそうじゃないんですか?」
「いや...僕はちょっと仕事とか学業の問題で...その...夜をあまり......」
爽やかな笑顔だった顔がひきつっていくにつれ、声が小さくなっていく。
「......ああ、分かりました。すみません、変なことを訊きましたね」
「いえ...僕も無神経で、すいません」
宮本亜里沙は...元カノは、この俺と正反対な奴のどこが好きだったのだろう。
今も男を作っているのだろうか。よく、分からない。分かりたいと思えない。
桐山と少しの話をした後、パトカーの音が聞こえて辺りが騒がしくなった。
部屋から和やかな笑顔をした鴻ノ池と対象に少し強張った顔の日村が出てきていた。
そこでその日は他の参加者が別室で束になり、拘束されていたと話を挟んだが関係のないことだろう。
ただ厄介だったのは帰り際に日村が見つけたというUSBを見せてきたことだった。
それは紛れもなくすり硝子の扉付近で光ったものだと分かってはいたが、口には出さなかった。
桐山と話をする鴻ノ池がじっとこちらを見ているようで、怖くて堪らなかった。
流石にこっちもやらないとな、やらないとなで出来たものが適当過ぎる...。
要約すれば、恰幅の良い男性が入った部屋でUSBを見つけて持ち帰りましたってだけですし...。