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ウマ娘〜オンリーワン〜 01R
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「ピピピッピピピッ……」
目覚まし時計を止め、むくりと起き上がる。
見慣れた景色だ。だが、この景色を目に焼き付けるのも、しばらくは無理だ。
なぜなら、今日でこの家を出ていくから。
私は、ベッドから出て、すぐ脇にある鏡台の前に向かった。
明るめの栗色の髪の毛を二つに結(ゆわ)く。そして、結び目に白いリボンを付ける。
そして右耳には少し大きめのオレンジ色のリボンを付ける。
それから、パジャマを脱いで数日前に届いたばかりの新品の制服―――紫を貴重としたセーラー服を着る。
スカートの後ろにある穴に尻尾を通し、毛並みを軽くブラシで整える。
そう、私はウマ娘だ。
ウマ娘とは、特殊な耳と尻尾。そして超人的な走力が備わっている特別な存在。
多くのウマ娘は、レースに出走する。
私も今日からその一人だ。
「―――朝ごはんよー。」
お母さんの声が聞こえた。
私は、階段を降りて、一階のリビングへと向かった。
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「6時10分発、府中行きの電車が参ります。」
駅のホームに、アナウンスが鳴り響く。私の乗る電車だ。
まもなく、電車が来た。
扉が開く。これから、1時間半の長旅だ。
電車に乗り、しばらくすると扉が閉まる。
そして、電車が動く。
この電車を降りた先には、どんな世界が待っているのだろう。
私は、ワクワクする反面、少し不安だった。
でも、私は決めたんだ。
強くなるって。
きっとなってみせる。
オンリーワン〈唯一無二〉のウマ娘に。
窓から見えるまばゆいばかりに晴れた景色は、少し私の背中を押してくれているように感じた。
01R「夢にまで見た光景」
「ふぅー、やっと着いたー。」
盛大に構える門の前に、私―――アルノオンリーワンは立っていた。
夢にまで見たトレセン学園。
そこに、制服を着て生徒として入学できるのだ。
トレセン学園へ入学するまでの時間は長かった。
筆記試験に、実技試験。さらに面接もあった。
勉強はそこそこ出来るものの、それ以外はあまり得意ではない私だったが、懸命な努力の末、今ここに立っている。
私は、緊張した面持ちでトレセン学園の門をくぐろうとした―――その時―――
「あれー?あなた“も”新入生?」
後ろの方から声がした。
私は、くるっと後ろを振り向いた。
その声の主は、そのまま私の方へ近づいてくる。
そして私の隣に来る。
「やっほー♪あたしたち、同期だね!あっ、あたしクリスタルビリー。よろしく!クリスって呼んで!」
アルノ「わ、私はアルノオンリーワンです。よろしく、クリスちゃん!私はアルノでいいよ。」
クリス「オッケー♪」
その子は、青みがかった黒髪をポニーテールに結んでいた。耳には丸や星の飾りを付けている。
右耳には、大小二つの真珠が通された輪っかを付けていた。
私は周りに比べたら少し小柄な方だが、その子は、私よりも背が高く、大人っぽかった。
=====
クリス「アルノちゃんは何でトレセン学園に入ったの?」
私たちは、新入生の集合場所になっている教室へと向かっていた。
クリスちゃん曰く、私とクリスちゃんは同じクラスらしい。
アルノ「うーん……えっとねー、テレビでレースを見たときに、憧れたって言うか―――」
そう、私がトレセン学園に入った理由は、レースの世界に憧れたからだ。
小さい頃から、私は内気で人見知りで、友達も少なかった。
だけどある日、テレビでたまたまウマ娘のレース中継を見たのだ。
レースに出ているウマ娘みんなが一生懸命走っている姿に、私はとても心打たれた。
ウマ娘としてレースで走りたい―――
内気な自分を変えたい―――
その日から、私はレースのことについてたくさん調べたり、見たりするようになった。
クリス「―――そっかー。」
アルノ「クリスちゃんは、どうして入ったの?」
クリス「え?あたし?あたしはねー、憧れの人に自分を見てもらうため!―――かな?」
アルノ「憧れの人?――なんか、それ素敵だね!」
クリス「えへへ。ありがとー!―――あ、もう教室着いたみたいだよー。」
確かに、気がつくと、教室の扉の前に立っていた。
扉の側の壁には、「1-A」と書いてある。
どうやら、今年の新入生は非常に少ないらしく、1クラスしかないのだという。クリスちゃんが教えてくれた。
クリス「緊張するね……開けるよ!」
クリスちゃんは、教室の扉の手すりに手をかけた。
扉は、新品みたく綺麗で、引き戸だった。
そして、扉が開く。
そこには、六人程の新入生が席についていた。
しかし、空いている席は二つしかない。恐らく、私とクリスちゃんの席だろう。
席は縦に三列、横に三列と言った形で並んでいた。
私とクリスちゃんは、それぞれ空いた席に適当に座る。
私は後ろの方の席。クリスちゃんは左前の一番端の席。
沈黙が漂う。みんながみんな初対面で緊張しているのだろう。
私だって緊張している。
しかし、沈黙はすぐに破れた。
クリス「あ!ユニバちゃんだよね!久しぶりー!小学校以来だね!トレセン学園入学してたんだ!」
ユニバちゃんと呼ばれたその子は、焦げ茶色のうねり気味のロングヘアー、後頭部に大きな赤いリボン。横の髪は密編みで結われており、右耳に黄色いシュシュが結びつけられている。
その子も、私よりは背が高いように見える。
その子が喋る。
「……あ、クリスちゃん…久しぶり……!」
おっとりと静かな声でそう言った。
クリス「このクラス―――てゆうかあたしたちの学年って八人しかいないの?」
クリスちゃんがみんなの方に椅子ごと体を向けてそう言った。
「そうだな!そのようだ!」
私の前の席に座っている子がそう言った。
ストレートヘアーの大分小柄な子だった。
今のところ、この二人以外、誰も口を開いていない。
そんな中、タイミングが良いのか悪いのか、扉が開く音がして、誰かが入ってきた。
大人の女性だ。ウマ娘にある耳や尻尾が無い。どうやら人間の女性のようだ。
恐らく、私たちのクラスを担任する先生だろう。私たちは、全員揃って背筋をピンと伸ばした。
紺色のスーツを着こなし、黒髪のいかにも清楚な感じの女性だ。先生は、口を開く。
「―――皆さん、初めまして。私は、あなたたちのクラスを担当する|瑞城亜水《みずきあみ》と言います。よろしくお願いします。」
やはり、口調も清楚そのものだった。おっとりしていて、柔らかい、そんな口調。
瑞城先生「みなさん、よく我がトレセン学園の難関試験を合格しましたね!あなたたちはその選ばれし八人です!」
先生―――瑞城先生の予想外のその言葉に、私は、とても驚いた。
そして、みんなも同じようで、周りが少しざわついた気がした。
瑞城先生「……正直に言います。あなたたちの学年が非常に少ない理由を……それは、さっき言った通り、試験を難しくしすぎてしまったからなのです。実は、今年度から試験をより難しくし、より才能あるウマ娘を絞り込もう―――と、トレセン学園の理事長がおっしゃいまして……しかし、難易度を間違え、たくさんのウマ娘の方々が試験に落ちました。しかし、あなたたちはそんな試験にも見事合格し、トレセン学園に入学することが出来ました。私はもちろん、他のトレセン学園関係者はみんなあなたたち全員が大きな結果を残せると期待しています!私たちも全力でサポートいたしますので、頑張ってくださいね!」
私は、周りを見渡す。
どの子も、強そうな子ばかりだ。
この中で頑張っていけるのか、とても不安になった。
でも、みんなが私たちに―――私に期待してくれているんだ。
そう思うと、少しずつ不安が取れていく気がした。
=====
「ボフッ」
アルノ「ふわぁ~気持ちいい~っ!」
寮の部屋に入って、早速私はベッドに飛びのった。
あの後、先生はレースについてたくさんのことを教えてくれた。
逃げや差しなどの脚質について、
レースに出走する流れ、
GⅠレースや勝負服についてなど―――
私は、入学するまでにたくさんのレースのことを調べていたので、大まかな知識はあったが、先生が教えてくれたことは、どれも初めて聞くような内容ばかりだった。
私は、ベッドに寝そべり、先生が教えてくれたことをもう一度思い出しながら、ふと横を見た。
使われなくなってしまったもう一つのベッド――――
寮は基本二人部屋―――らしいのだが、私の部屋には私しかいない。
私の入っている寮・美浦寮の寮長さんの説明によると、部屋の配分の関係で私は一人部屋になったのだという。
ただし、来年になったら新入生の子が入ってくるから、それまでは一人部屋として使ってほしい―――とお願いされた。
ちなみに、ベッドや勉強机などはそれぞれ二つずつあるのだが、片方しか使ってはいけないと言われた。
私は、早速カーペットの上に積み重なっている段ボール箱を次々と開封した。
中身は、私の家から引っ越しのトラックに運んでもらった日用品類や小物、洋服などだ。
開封し、中身を出し、次々とここがいいかも―――と決めた場所に置いていく。
小一時間ほどでこの作業は終わった。
窓の外をみると、もう夕方だ。時が経つのは早いのだな―――そう改めて感じた。
先生のレースについての説明が終わり、また明日―――ということで、その日は解散になった。
ちなみに明日は、実際にみんなでグラウンドのコースを走るのだとか。
しかし、ちょうどお昼時なのもあって、最初に、私に話しかけてくれたクリスちゃんが、「みんなで食堂のお昼ご飯食べない?」と言った。
私を含め、みんな賛成だったので、みんなで食堂へ向かった。
そして、みんなでご飯を食べながら、たくさんのことを話した。
まずは自己紹介。それから、目標や夢まで。
この食堂は食べ放題制だったので、遠慮なく私は大量の料理をよそった。みんなに、「よく食べるね」と、驚かれた。恐らく、あのメンバーの中で私が一番食べていただろう。
そう、実は私は大食いなのだ。
まあ、それは置いておいて、とにかく、今日は色々なことがあった。
でもこれから、そんな日々が当たり前になっていく。日常になっていく。
気がつけば、不安よりもワクワクの方が勝っていた。
アルノ(明日が楽しみだな……)
そうだ、夢に見たあのレースに使われるコースを実際に走るのだ。
私は、明日がとてもとても待ち遠しかった。
〈翌朝〉
当日はジャージを着てグラウンド集合と言われた。
私は、ジャージを着て部屋を出た。
私は、集合時間の五分前にグラウンドに着いた。しかし、みんなもう揃っているようだった。
グラウンドには、本物のレース場のように観客席のようなものが設置されていた。
その観客席を見て、私はとてもびっくりした。
たくさんの人たちが、わんさかと群がり、私たちの様子を見ている。
すると、そこへ先生がやって来た。
瑞城先生「みなさーん!もうお揃いでしたか。優秀ですね。……さあ、昨日も言った通り、本日は実際にグラウンドで皆さんに走ってもらいます。しっかりタイムも計りますし、着順もつけるので、手を抜くことがないように。実際にゲートに入ってスタートしてもらいますからね~。コースは芝1200メートル。始めから終わりまで全力で走るも良し。逃げや差しなどの脚質を使うもよし。走り方は自由で構いません。そして枠順は、くじ引きで決定します。」
そう言って、先生は、手に八本の割り箸のような棒を握って私たちに見せた。
瑞城先生「では、みなさん、好きな棒を持ってくださいね。まだ引かないでくださいね。早い者勝ちですよーっ!」
そう言われ、私はとっさに目についた棒を掴んだ。
他のみんなも棒を掴んだ。
瑞城先生「それではいきますよ~!せーのっ!」
先生の掛け声と同時に、私たちは棒を勢いよく引っ張った。
私が引いた棒は、オレンジ色に塗られ、マジックで「7」と書かれていた。
外枠の方だ。聞いたことがある。レースで外枠の方は不利だと……
大丈夫なのだろうか。少々不安になった。
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瑞城先生「さあっ、みなさん。枠順も決まったところで、いよいよスタートします。そして、みなさん気になっていると思いますが、あちらの観客席にたくさんいる人達―――あちらはトレーナーの方々です。昨日言ったことを覚えていますか?トレーナーの方々はみなさんの走りを見て、スカウトするウマ娘を決めるのです。そうして、スカウトを了承すれば、晴れ晴れチームに入ることができます。しかし、スカウトを受けるか受けないかはみなさんの自由です。この人だ―――と思ったトレーナーさんを見つけられることを願っております。……いけない、話が長くなってしまいましたね。では、いよいよスタートです!」
先生に言われるがまま、私たちは、ゲートに入った。
ゲートは以外と狭い感じがした。
そして、目の前をみると驚いた。
目の前に広がる芝。これも夢にまで見た景色だ。これから、この芝を走るのかと思うと、胸がざわついた。
(―――1200…少し短い。マイルなら確実に勝てるのに。でも、関係ない。私は勝つ。最強マイラーになるために……!)
1枠1番・アスターウールー
黒髪のショートヘアー。左耳辺りにピンクのリボンがついている。ジト目の子だ。
とてもクールで落ち着いている雰囲気だ。
(このレース……絶対に勝って未来の世界王者・グッドラックナイトの存在を知らしめる!)
2枠2番・グッドラックナイト
明るめのストレートヘアーの茶髪で右耳に黄色い耳カバーを付けている。頭に赤いヘアバンドを巻いている小柄な子だ。
とてもハキハキしている性格で、クリスちゃんと同じくらい、あの教室で喋っていた子だ。夢は世界一のウマ娘。
(あたしの走り、みんなが見てくれるのか……それじゃあ、頑張らないと!)
3枠3番・アスカウイング
こちらも明るめの茶髪でボサボサ気味のロングヘアー。右耳に鳥の羽が二枚くっついたリング状の飾りを付けている。
背は高めで、スラッとした体格だ。性格は飄々としていて、どこか掴めない感じがする。
(憧れのあの人を越えるために……“まず”は芝で頑張ろう……!!)
4枠4番・クリスタルビリー
青みがかった黒髪のポニーテールに結んだ子。入学したときに話しかけてくれた子でもある。
明るく明朗快活。夢は、憧れの人を越えること。
(ここが三冠ウマ娘のスタートライン……ママ、見ていてね。私、頑張ります………!)
5枠5番・ユニバースライト
焦げ茶色のロングヘアーで横髪を両方密編みに結んでいる後頭部に着いた大きな赤いリボンがトレードマークの子。
クリスちゃんに小学校ぶりだね、と話しかけられていた子だ。夢は、亡くなった母親のなし得なかった三冠ウマ娘になること。
(お袋や先祖代々の夢の為に……まずはここで勝たねぇと……!)
6枠6番・ガーネットクイン
私よりも少し暗めの栗色の髪を後ろに一つに束ねている。左耳に赤紫の丸い珠状の飾りを付けている。
大柄で私たち同期の中で一番背が高い。すこし威喝目の顔をしていて、すこし怖い。夢は、先祖代々惜しくも破れてきた、とあるレースを勝つこと。
(オンリーワンになるために……頑張らないと!)
7枠7番・アルノオンリーワン
夢は、オンリーワンのウマ娘になること!
(このレース、ウイニングライブないのかなー。でも、頑張らないと!いつかセンターを勝ち取るためにねっ♪)
8枠8番・マロンホワイト
芦毛のボーイッシュな髪型の子。背は小さく、くりくりとしたかわいい目が特徴。緑と紫が入ったカチューシャを付けており、両方の耳に緑の耳カバーを付けている。そして左耳に黄色い鈴のような飾りを付けている。
ウイニングライブに憧れているらしく、夢はGⅠレースのウイニングライブでセンターとして歌って踊ること。
瑞城先生「それではみなさん。準備はいいですかー?それでは、スタートです!」
「ガシャン!」
ゲートが一斉に開いた音がした。
私たちは、一斉に走り出す。
負けられない1200mの戦いが、
今、繰り広げられる―――――
-To next 02R-