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1-2 僕は味方だから。
幼い頃にいつでも行き来できるように、と破ったパーテーションから隼人の方へと向かう。
幼馴染と言えど5歳も年が離れているため、話すのは久しぶり。
その気まずさを埋めるために質問をする。
「あの、なんで気づいてくれたの?」
「時々、真樹さんの怒鳴り声が聞こえてて。今日も。部屋追い出されてからしばらく経っても窓が開く音しなくって。心配になったから覗いてみたら居たから」
全部知られていた。紗絢が人生で一番の汚点だと思っているものを。
なんと返せばいいのかわからず、口をつぐんでいると、隼人が目も合わさずに話し始める。
「いつでも来たら良いよ。何かあっても、なくても。僕と話してもいいし、一人で好きなことしてても良い。紗絢も1つぐらい安心できるとこある方が良いでしょ?」
「安心、できる場所?」
「うん。紗絢は今、家で何が起きるかわからない状況でしょ。それでも家にいるあたり、仲いい友達も居なさそうだし。いつ外に出されるかわからない、そんな状態で安心できる?」
「…ううん」
「だったら、ここに来なよ。僕はいつでも紗絢の味方だからさ」
「、味方?」
「うん、味方」
母親が自分に当たっても無視して浮気を続ける父親。
我が家の状態を知ってからいじめるようになった元友達。
そんな中で過ごしてきた紗絢にとって、「味方」という言葉は都市伝説に近かった。
「な、んで?」
「ん?」
「なんでそんなに優しいの?数年話すらしてなかった5歳年下の女だよ?そんな奴がベランダで死にそうになってたからって、部屋に入れて。いつでも来て良いよ、なんて。そんなの…」
「そんなの?」
「、そんなの!信用しちゃうじゃん!これ以上奪われたくないよぉ…。なんで、なんで、なんで!」
優しく、仲が良かった両親。
いつも一緒に遊んでいた友達。
「いじめは嫌いだ」なんて言いながらも自分を助けない教師。
全てを失った紗絢は10歳という年齢にして、一生一人で戦う覚悟をした。
これ以上、悲しみたくない、その一心で。
「なんでって、幼馴染だから、?」
「え、それ、だけ?」
「うん。それ以外に理由なんている?」
久しぶりに自分の全てを肯定してくれる人に出会えた。
隼人からの言葉一つ一つが心に染み、涙が溢れてしまった。
「隼斗、ありがと」