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禪院家の落ちこぼれ #3
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「特級討伐任務ゥ?」俺は頓狂な声を挙げてしまった。無理もない。術師として呪術界で活動して早一年。1級任務でもかなりてこずるのに、それが特級だと。
「そうなのよ…あのバカ、生徒の実力を過大評価しすぎ。」あのバカというのは、きっと五条先生のことだろう。歌姫先生は、過去に五条先生と何があったのだろうか…?
まぁそういうことならいい。何人でやるんだろうか。最低でも3人は欲しい。
「それがね…単独任務なの」
なるほどなるほど、単独任務か…え?単独任務?
「来週、京都校と東京校で親善試合があるでしょう?そのとき、呪いが近づいてこないように、パトロールしていてほしいの」なるほど…そういうことか。呪霊が呪いの気配にあてられて近づいてくるから、と。だったら確かに、単独任務の方が都合が良いと言える。
「今年東京校に入って来た1年生がいるんだけど、その子がかなり強い呪いを『連れていて』ね。そういうわけだから、かなり強い呪いも寄ってくるかもしれないの。それを考慮しての、あえての特級討伐任務よ。まぁ、ホントに特級呪霊が襲ってくる可能性は0に近いでしょうけどね」
「分かりました。」
襲ってこないなら安心だ。じゃあ俺は帳の外から、みんなの活躍を見守るとしよう。
《交流会当日》
「じゃあ行ってくるぜ、藜」「…任務頼むぞ」「行ってきます!」
次々と、挨拶をかわし交流会会場へと出かけていく。…しかし、禪院真衣だけはこちらを無視して歩き去っていった。俺の身分はバレていないはずだが、何か本能的なものを感じているのだろう。
…そもそも、なんで俺は交流会に呼ばれなかったんだ。
補助監督の車に乗り込み、交流会場を包み込む帳の外で待機する。確かに、いつもよりも呪いの気配が濃いような気がする。俺は不安によってか、無意識に刀の鞘をカチカチと引っ搔いていた。
「それでは、4時間ほどしたら交流会が終わりますので、そのころに迎えに行きます。ご武運を。」
「分かりました。後ほどよろしくお願いします。」
補助監督の車が去っていく。呪いの気配がいつもよりも格段に多い。
(頼むから、1級以上の呪霊は出てこないでくれ…特級なんてもってのほかだぞ)
「うりゅりゅりゅりゅゔ」「ううへええええへへへへ」「あああぁああばあぁぁぁあばば」
見たところ3級呪霊のようだ。10体で群れを成している、虫のようなものだ。
「全員こんな雑魚であってくれよ…?」俺は刀を抜いた。
10分後。あたりには呪霊の死骸が転がっていた。
「ふぅ...」
と、その瞬間。背筋が凍る思いがした。
「ッ!」命の危機を感じ振り返ると、そこには新たな呪いがいた。
その全身から発せられる、禍々しい殺気と迫力。呪力の圧が、先ほど祓った三級呪霊とはけた違いだ。その呪霊は、人型であった。襤褸切れを身にまとい、髪は薄い白色で逆立っている。
(アレは...1級…?いや、まさか…!)
特級呪霊…?
「ギャギャギャギャッ!」
あまり知性の感じられない声から発せられたのは...稲妻。
「ッ!」間一髪回避する!その稲妻は、近くの木に直撃した。
ズズーー...ン 音を立てて木が倒れる。当たったら間違いなく即死だ。
「ギャギャギャアッ!」襲い掛かってくる。信じられない速さだ。とっさに刀で防御の体勢をとる。
ガッキィィィィン...!鈍い金属音が響く。しかし、呪霊は余裕だった。
「ぐあああああっ!」バリバリバリ、と刀を通して電撃が襲い掛かってくる。
(しまったぁっ...!感電かっ...!)
意識が飛びそうになるところをとっさにこらえる。今気を失ったら死ぬと分かっているからだ。
今はこの猛攻をなんとか躱し切って、何とか抜刀まで繋げないといけない…!
10分後
「はぁ…はぁ...ヒュー...ゴホッ」マズい。そろそろ限界だ。相手の呪力出力も上がってきている。攻撃精度も格別だ。あまり後ろ向きな言葉は使いたくないが、全くもって勝利のビジョンが見えない。
「ギャギャギャアッ!ギィッ!」また稲妻が飛んでくる。なんとか躱すが、肩にかすってしまった。
(ジュウウゥウ...) 肩の肉が溶ける音がする。痛みに顔をゆがめながら、なんとか躱し切る。何より辛いのが、俺が刀を使えないことだ。刀は金属であるため、電気の術式とは相性が悪い。
いつまでも逃げ続ける俺に苛ついたのか、呪霊が不思議な掌印を結んだ。
「ま、まさか...」それはマズい!
斬りかかる瞬間、周囲の空間があの呪霊を中心に歪んだ。領域展開。呪術の極致であり、これに行きつく者は僅かな強者だけだ。つまり。
(死ぬ…!) その呪霊が展開した領域は、雷雲が漂う荒野だった。
通常、領域展開には「必中術式」というものが付与される。その領域内でのみ、必ず領域を開いた者の術式は的中する。
あの雷の術式が必中になるというのか。冗談じゃない!
「ギヒヒヒヒヒヒ」何とか!何とかしなくては!何とか…!
バチバチバチ…
呪霊の周囲に雷撃が集まってくる。俺の髪の毛が逆立ち、冷や汗が噴き出る。俺は、領域中和手段である簡易領域を持ち合わせていない。あれが当たれば、生存は絶望的だ。
(あ、必中なんだった) 雷撃が俺に直撃し、意識がブラックアウトした。
ステータス
特級呪霊 術式 雷撃。超電圧の真空波を放つ。 領域 雷鳴絶叫魂