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第2話:無口と、三語
「第5特殊消防隊、および第8特殊消防隊。これより合同演習を開始する!」
訓練場に響き渡る号令。第5の大隊長・プリンセス火華が傲然と椅子に座り、その傍らには、無表情で佇むシヅキの姿があった。
「……第8。……騒がしい。……帰りたい」
シヅキの声は、隣に立つトオルにしか聞こえないほど小さい。彼女の視線の先には、緊張感のない笑顔を浮かべる森羅日下部や、騎士ごっこに興じるアーサー・ボイルの姿がある。
「我慢しろ。お姉様の前だぞ、シャキッとしてろ」
トオルの囁きに、シヅキはわずかに眉を寄せ、彼の影に隠れるように一歩下がった。
「おい、そこの不気味な女! さっきから俺の背後をジロジロ見やがって、何の真似だ!」
アーサーが剣の柄を握りながらシヅキを指差す。シヅキの『反響定位』が無意識に彼の筋肉の動きや呼吸をトレースしていたことに、野生的な勘で気づいたらしい。
シヅキはトオルの後ろから、冷徹な紫の瞳でアーサーを射抜いた。
「……騎士。……馬鹿。……黙れ」
「なっ……!?」
絶句するアーサーを無視し、シヅキはトオルの裾を掴んだまま火華の前へと進み出る。
「シヅキ。あんた、第8の新人どもに第5の格の違いを見せてやりなさい」
「……了解。……お姉様」
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演習の内容は、高速で射出される標的を、指定されたポイントで正確に破壊するというものだ。
第8のシンラが足から火を吹き、派手な音を立てて標的を粉砕していく。
「次は第5の平隊員、紫月!」
シヅキは一歩前へ出た。彼女は構えない。印も結ばない。ただ、標的を見つめる。
その瞬間、空気が変わった。
『|焦眉の紫眼《バイオレット・バースト》』
シュン、という小さな音と共に、標的の「中心核」だけが内側から弾け飛んだ。炎の塊ではなく、極限まで圧縮された熱の針が貫いたような破壊の跡。
標的が地面に落ちる前に、さらに三つ。シヅキが瞬きをするたびに、紫色の火花が空中で爆ぜる。
「……終わり。……トオル。……次」
シヅキは結果を確認することもなく、トオルの元へ戻った。
「相変わらずえげつねえ精密さだな……」
トオルが差し出したスポーツ飲料を、シヅキは黙って受け取る。
「今の……発火現象を視線で固定したのか? 手も使わずに?」
驚きを隠せないシンラが歩み寄ってくる。シヅキは彼を一瞥すると、すぐにトオルの背中に隠れた。
「……悪魔。……足。……臭そう」
「おい! 足が臭いのはひでぇよ……じゃなくて、悪魔って言うな!」
騒ぎ出すシンラを他所に、シヅキの呼吸はすでに乱れ始めていた。
精密発火は脳への負荷が異常に高い。こめかみを流れる汗を、トオルがタオルで拭う。
「……トオル。……脳。……熱い」
「頑張ったな。もう少しで終わるから、後で甘いもん食わせてやる」
トオルの言葉に、シヅキは「こくり」と小さく頷く。
鉄の女としての冷徹な眼差しは消え、そこにはただ、依存する相手の体温を求める、一人の少女の瞳があった。
だが、訓練場の隅でシヅキを観察する視線があったことを、この時の二人はまだ知ら
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