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ボクたちの反抗生命
ニーゴがなく、この4人が出会うとしたら—。
自殺表現あります。
日付け、時間、場所は実際のものとは一切関係ありません。何かの事件などとも関係はありません。プロセカ内のシブヤと同様に場所はカタカナで表記しております。
5/10
「一人は、なんか寂しいな」
中性的な見た目をした、どちらかというと男子に近いような、しかしどことなく女性らしい。髪や瞳は淡い桜色で透き通っているような、儚い印象を抱く。短髪も似合う美形だ。そんな少女とも少年とも呼びづらい中、高生くらいの子供が呟いた。その声からは生気を感じることはできず、ただ疲れを感じるのみだった。
ふと思い立ったようにパソコンの電源を入れる。ウェブサイト作成のページを開き、文字を入れていく。とてもシンプルで何の凝りもないページが完成した。
「集まるかな…」
バカみたい、と思った。今まで人から避けられ、また人を避け続けてきた。しかし今さら一人は寂しいなどと感じてしまうのだから。
「ああもうなんなの?!アイツまじムカつく…」
少女はそう叫んだ。
茶髪、茶目でボブ。目はぱっちりしていてかわいらしい。しかしその顔は苛立ちであふれている。と思えば、一気に苦しみや悲しみの表情へと変わっていく。
「もう、諦めたほうがいいの、?」
こんなに頑張ってるのに、誰にも認めてもらえない。私の絵が、じゃなくて、私の夢自体を。
「…将来とか、夢とか、馬鹿らしくなってきた」
画材が散らかってるぐちゃぐちゃな部屋で、同じくぐちゃぐちゃなベッドに寝転ぶ。スマホに手を伸ばす。
自殺、そう検索をかけてみた。いのちの電話だとか何とか、役に立たない情報ばかり出てくる間に一つだけ、奇妙なサイトを見つけた。
「絶望の底にいる者たちへ…?なにこれ」
出来心でタップした。それがすべてを狂わせた。
暗い部屋のなかで、パソコンの青白い光が少女を照らす。カチ、カチとマウスが鳴る。画面には曲を作るアプリが映し出されている。
白く長い髪を垂らした、青い瞳の少女は ふぅ、と一息ついた。立ち上がろうとして、ふらつく。当たり前だ。この日は何も食べていないからである。生きることに疲弊しているはずなのに、曲を作るために、ただそれだけのために身を削り生き続けている。
「これだけ作っても、誰も救えた試しがない…私じゃ…救えないのかな」
心の底のドロドロが溢れるように声に出る。検索バーには、自殺の三文字を入力していた。読み込まれた検索結果の一つに、少女はマウスを伸ばした。
疲れた、その言葉さえも出ない。出せない。出すこともできなくなってしまった。どうして?わからない。なぜわからないの?わからない。自分が、わからない。
そんな答えにならない自問自答を繰り返す少女がいた。顔立ちはとても整っていて、うねりのある紫色のポニーテール、目を引く紫色の瞳。しかし瞳の中はどす黒く濁り、何も見渡すことができていないように伺える。
「もういっそ、消えることができたら…いいのに」
これだけが、自ら願えることができるただ一つであった。
ふとパソコンを開く。自殺、と検索する。少女は画面に映し出された一つのサイトを、クリックした。
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**絶望の底にいる君たちへ**
このサイトを見ているのなら、あなたはきっと、とても辛い状態なのでしょう。
解放されたいでしょう?
他人からの呪いも、自分への呪いにも。
そこで私から一つ、提案です。
私と一緒に終わらせませんか?
一人よりは心細くないでしょう。
最後に仲間がいる、これだけに縋ろうではありませんか。
もし気になったならば、下にVIXIと入力してください。
入力したのですか?それならば、何をするのか教えましょう。
日付:5/12
時間:25:00
場所:アオウメ精神科病棟F4大部屋1号室
持ち物はご自分の望む自殺方法に合わせてご持参ください。こちらの方では可愛い丈夫なリボンで作った首吊り縄を用意しております。
定員は3名です。枠が埋まった瞬間このサイトはどこにも表示されなくなります。
それでは、残り2日、良き人生を。
--- **応募する** ---
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5/13 1:00(5/12 25:00)
大部屋1号室に1人の少女が入る。
「どんな子が来るかな」
中性的な子—瑞希は呟いた。
この前とは違う、可愛らしい服装をしていた。最後に好きなものを着たかったのだろうか。
「あれ、人がいる」
「来た…!」
白く長い髪を揺らした少女—奏がやってきた。小ぶりのかばんで荷物は多くないようだ。
「あのサイトをみたんですか?」
「あ、はい」
「…こんばんは」
紫髪の少女―まふゆと、
「こんにちは」
茶髪の少女—絵名が来た。まふゆは大きめのクーラーボックスを二つ肩に下げ、台車に何か大きいものを乗せている。絵名は描きかけの絵のキャンバスを脇に抱え、チャックが開いたままのカバンからはパレットや画材が少し見える。
「お?残りも来たみたいだね」
瑞希はあとから来た三人に向かい合う。
「ようこそ、夜遅くにこの場所へ来てくださり、ありがとうございます。ボクがこの企画のオーナー、瑞希でーす。さて、ここに来たということは皆死にたいのでしょう。早く終わらせてしまいましょう、こんな人生。」
「ちょ、ちょっと待って」
「どうかしました?」
「ホントにあんた、死にたいのよね?」
「…なんで?」
「なんでって、あんたが結構明るいからじゃない」
絵名が口にする。
「ボクはもちろん、死にたいよ」
出会った時と変わらない笑顔がなんとも言えない狂気を感じさせる。
「そう…」
「ボクがこうして明るく振る舞うのは、最期くらい、暗い気持ちで終わらせたくないから。あなた達だって陰鬱な雰囲気よりは、死に対して前向きな雰囲気のほうがいいでしょ?」
じゃあ少し自分語りを。みんなにも話してもらうよ。大前提ボクは男の子なんだ。みんな驚いた?そうだよね。スカートとかはいちゃって、リボンとかつけちゃって。驚くのは当たり前。ただボクは好きなものを身にまとっていたら、気がついたらたくさんの人に変な目で見られてた。小学生の頃、瑞希がそれ着てるのはおかしいよ、って言われちゃってね。まあそれはよく考えなくても当たり前なんだけどさ。それで、そこからは身の丈に合う服を着ていたよ。でももう疲れたんだ。誰かの目を気にして好きなものを好きと言えないのは。でも好きなものを主張すれば、世界はそれを否定する。なら、こんな場所から消えてしまえばいい、そう思ったんだよ。こんな感じかな。
「じゃあ次は誰が話す?ほんとは少し罪悪感とかある人、いるんじゃない?やるって決めたことから逃げてたり、たくさんの人に頼られてるのにここ来たり。ほら、懺悔の時間だよ」
図星を突かれた三人は目を伏せる。
「ごめんね。ボク、目を見ればその人がどんな人か、何を考えてるかなんとなくわかっちゃうんだよね」
「それだけ、他人の目を気にしていたんだね」
まふゆが呟く。
「そーゆーこと、よくわかったね」
「まあ、私も…そんな感じだったし」
「そっか〜、じゃあ次はキミね」
「わかった」
自分で言うのは気が引けるけど、多分私はいい子、優等生なんだと思う。校内のテストはいつも1位だったし、先生や友達からも頼られてた。将来は医者だとか言われてきた。母に褒められたくて始めたことが、気がつけば人生単位になってた。私の調子が少し悪ければスマホが悪いとか、音楽をしてるからだめだとか、もっとできるはずって、母自身の価値観を私に押し付けてきた。そしたら、自分が分からなくなった。何が好きかとか、嫌いかとか。したいこともしたくないことも分からない。だから、生きてる意味ないなって、そう思ったの。…終わりだよ。
「そっか、大変だったんだね…いい子、か私にはほど遠いな」
奏がそう言う。
「じゃあ次はキミね」
え、わかった。えっと、私は曲を作るのが好きだった。父が作曲家で、その影響で小さい頃から音楽に触れてた。曲を作れるようになって、一度だけ父の仕事でこうしてみたらどうかって提案をしたんだ。そしたら、その部分が使われたんだ。父は自分の曲じゃない、そう感じて、私が追い詰めて…倒れちゃって。だから、私は…もう二度とこんなことにはならないように、誰かを救う曲を作らなくちゃいけない、そう思ったんだ。だからネットで投稿し始めた。コメントとかで救われた、そう言ってる人はたまに見かけるけど、実感が沸かないのと、父が倒れてから私のこと全部忘れちゃってるのが苦しくて、ここに来た。こんな感じだよ。
「やらなきゃ、って思ったことから逃げてるのは、同じだな」
「じゃあ最後は茶髪ちゃん!」
あんたら三人より全然ダサいけどね。まあ絵を描くのが好きで、ずっとずっと描いてた。小さい頃からずっと。小さい頃、画家の父に憧れちゃったんだ。それで進路を考えた時、画家になりたい、だから高校から学べる所がいい。そう言ったの。でも、お前は画家になれない、そう言われちゃって。だから見返そうと思って何度も何度も描いて描いて描いて描いた。自分なりに勉強して努力した。だけど、絵画教室の先生にも、父にも、暗に無理だって言われ続けてたら、自信なくしちゃって。もう無理なのかなって。絵だけじゃなくて、夢自体も否定されて生きるのに、耐えれなくって。ただ、それだけ。
「否定されるのって、ほんとに嫌だよね」
瑞希はそう言った。
身の上話で重くなった空気を変えるために、それでは、と明るい声を出し、瑞希は首吊り縄を見せた。
「ボクが用意してきたのはこちらの首吊り縄でーす!」
「ほんとに可愛い…ちゃんと使えるの?」
奏が問う。
「もちろん、耐久性はバッチリでーす!もし使いたかったら使ってね」
「結び目にリボンなんかつけちゃって…どんだけ可愛いのが好きなのよ」
「首吊れるんなら問題ないんじゃない?」
「そういう話じゃないんですけど」
「あはは、なんかボクたち、昔から知り合ってたみたいだ」
「まだあんたの名前しか知らないけどね、瑞希」
「だって自己紹介してないもんね」
「そもそも名前も知らぬ人と、みたいに書かれてたもんね」
「ボクは誘った、巻き込んだ、かな。その張本人だもん。名前くらいはね。でも皆はもちろん教えなくていいよ」
「最初からそのつもり」
「茶髪ちゃんはツンツンしてるねー」
「はあ?別にツンツンしてないけど」
「してる」
「紫のあんた…!ちょっと、私の味方はいないわけ?!」
「まあまあ、からかってるだけだよ」
「この子しかいい子はいないの?」
「あー!ボクがいい子じゃないって言った—!まあ実際不登校だったけど」
「いい子じゃないじゃん」
「って!そんなことはどうでもよくて!皆、自殺道具ある?」
「あるよ」
「ある」
「私もある」
「じゃあこのリボンは必要ないかな」
それじゃあとは、この病院の好きな場所で、死んできてね。そう言って瑞希はリボンを持って大部屋から出た。首を吊れる場所を探すようだ。
続くようにして、奏と絵名は大部屋を出た。
まふゆは一人、その場に残った。
肩から下げた二つのクーラーボックスを下ろし、開ける。一つは大量のドライアイス。一つは大量の氷。台車から下ろしたものも氷だ。
部屋の扉と窓をしっかりと閉じたことを確認してから氷を自分が横たわる予定の位置の周りに置く。一気に部屋の温度が低下していく。大量のドライアイスを空に放り投げる。次々と気体になりながら落ちていく。
「こんな機会をくれてありがとう、瑞希」
「…どうしてかな、お母さんの手より、全然冷たくない、痛くないや」
横たわりながらドライアイスに触れる。
嘘だ、痛くないわけではない。皮膚を刺すような痛みと、体温が奪われていく感覚。震えと鳥肌もいつしかなくなり、温かさを感じるようになる。閉め切られた部屋はドライアイスによって満たされていく。急速な二酸化炭素中毒により眠気が強まる。
これでよかった。やっと、私の意思で動けたよ。
氷とドライアイスの温かさに包まれ、月の光に照らされて、優等生だった少女は安らかに眠りについた。
2階の一室に、奏は入った。一つのベッドと、棚と、窓と。何も変哲のないただの病室だ。奏はベッドに座り、備え付けの簡易テーブルに大量の薬を出した。音楽から逃げることは父から逃げることも意味している。父にすごい作曲家になれるよ、そう言われたことが呪いになっていた。その呪いから解放されることは、到底許されるものではない。奏はそう考えている。しかし、彼女の心のダムは決壊した。もう、耐えられないのだ。奏は睡眠薬を大量に飲み込んだ。効果を過剰にしてくれるアルコールも一緒に摂取した。何も食べずにアルコールを摂取したためか、すぐに酔いが回る。薬の効果もすぐに回り、激しい呼吸困難に陥る。幻聴なのか、耳鳴りなのかわからないが、耳障りな高音が脳内に響き渡る。視界が歪む。何もかも上手く処理できない。したくもない。
苦しい、息ができない。でも、私にはこれがふさわしい。苦しまずに死ぬ、楽に死ぬ資格なんてない。だから錯乱しても、苦しさはひどく感じて、そうやって死ぬんだ。
「ありがとう、瑞希…」
「…お父さん、ごめん、なさい」
これだけは、言いたかった。どんなに脳が正しく活動していなくてもこれだけは、言いたかった。
心臓が激しく脈を打っているような気がする。もはやこれが本当の心臓の音かも分からない。視界が曖昧になり、目を開けているのも億劫になる。今まで感じたことのない苦しさに心も体も包まれ、そして月の光に照らされて、作曲家だった少女は眠りについた。
絵名は屋上の扉を開ける。鍵がかかっているものかと思ったが、案外セキュリティは緩いらしい。
「死に場所でさえ、私の中の芸術にしてやる」
だってもうそれしかないから。普通の絵じゃ誰も認めてくれない、見てくれもしない。ならば、私がそのものになってしまえばきっと誰かが、私のこと、認めてくれるでしょ?
絵名はキャンバスをセットした。描き上げられたキャンバスに、1色だけ足す。
絵名は四角に近い形のペインティングナイフを取り出し、自分の皮膚に当てがい力を込める。皮膚に少しめり込んだナイフはそのまま、皮膚を薄く削っていく。何度も何度も同じ場所を削ると、ツー、と赤黒い絵の具が垂れていく。それを一滴も無駄にするまいと同じナイフで受け止める。ナイフからこぼれ落ちてしまわないようにキャンバスまでそっと色を運ぶ。
足された赤黒い色は一つだけやけに水っぽさが拭えず、なんとも異質感というか、そういうものを感じさせた。
絵名はたくさん使ってきた自分の腕に何度も様々な形のペインティングナイフを突き刺したり、それで皮膚を削ったりした。みるみる赤く染まっていく両腕両手。自身すらもキャンバスにしてしまうその絵への熱い想い。ただそれを理解してくれるものは、自分しかいなかった。
絵名は最期の一筆だと言わんばかりに心臓あたりにペインティングナイフを刺す。弾力のせいでスッと刺すことはできないが絵名が込めた力とその反動で身体に食い込む。
「ゔっ…く…」
痛い、痛い、痛い。
しかし手をとめることはなく押し込む。深く刺さったペインティングナイフは抜けることはなかった。もっとと言わんばかりに次々に新しいペインティングナイフで心臓や肺の辺りを突き刺す。
「ありがとう、瑞希」
「…お父さん、私今、最高の絵画になるからね」
絵名は掠れた声でそう言った。息が浅くなる。
絵名が愛し絵名を苦しめたそれは最後に武器となって絵名を救済へと導いた。痛みと、開放感に包まれ、そして月の光に照らされて、画家を目指した少女は眠りについた。
瑞希は病院の一階ロビーに降りてきていた。他の全員の死亡を確認した後―本当に死んでいるかは医師ではないので判定できないが—自身の死に場所へ向かったのだ。
「集めてよかったな…どうせなら、」
神代先輩も…そう思ったが、彼を巻き込むわけにはいかないかと踏みとどまった。それこそ、瑞希が何も言わず死んでしまう方が彼は哀しむかもしれないが。
瑞希は非常口の方向を示す看板に、自作の首つりリボンを括り付けた。
「うん、かわいい」
瑞希は自慢げに呟いた。
結び目にリボンをつけてみたり、小さなモチーフを散りばめて取り付けた首つり縄は、縄というにはあまりにも可愛らしすぎた。
鮮明に残る苦しんだ過去と、姉と過ごした幸せな時間を思い出す。
「ごめんね、お姉ちゃん」
「でも、後悔はないんだ」
病院の中の椅子でなんとか縄に首をかけることができた。もともとほとんどご飯を食べていないし、引き篭もり落ちてしまった筋力では看板が落ちる心配はなかった。もちろん苦しい。生存本能が働きかけるがしかしそれもすぐに消えて、またあんな思いをするならば死んだほうがマシだと、その思考に脳は埋め尽くされる。
神代先輩にも、お礼を言ってから死ねばよかったかな。
最後にそう思う。だんだんと意識が遠くなる。視界も朦朧としてよく分からない。ただ宙に浮いている、そのことになぜか安心感を覚えた。もうボクはこの世界の住人ではなくなる、そのことにひどく嬉しさを感じながら、瑞希は目を閉じた。
月の光に照らされて、少女のような少年は眠りについた。
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5/14
閉鎖した精神病院が撮影に使えることを知ったとある人が、四人の少女の遺体を見つけた。
一人は可愛らしい縄で首を吊り、また一人はベッドで大量の薬と一つの酒の缶と一緒に横たわり、また一人は凍りかかり、また一人は屋上で真っ赤になり、それぞれ死んでいた。
少女四人集団自殺―—ほんの少し物議を醸すニュースになったことを、四人は知ることもなかった。
四人の遺体の表情は、みな幸せそうだったとか。
ここまで読んでくださりありがとうございます!想像以上に長くなってしまいましたが、書くのはとても楽しかったです。
この小説は自殺を助長するものではございません!あくまで創作の物語です。