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天使のお届け物
かなり元ネタからはギャグ寄りというか、展開が雑というか…になっておりますm(_ _)m
自主企画様リンク
https://tanpen.net/event/cd0f4523-cfe8-4306-9342-cbedd653de6a/
原案様リンク
https://tanpen.net/novel/cbf74e16-b7a2-46a5-aa99-39fc3723ac89/
「さてと、業務業務。」
私はリライヤ・スーロア。前世悪いことをした(といっても、私は知恵神様の計らいで覚えていない)ので罰として社畜やってる天使です。
どうやらまだまだ退職させてもらえなさそう。しかし!あともう少し魂を回収したら1週間だけ休暇をもらえることになった!
と、いっても1週間だけど。まあ、天使になって数十年(詳しくは覚えていません)も経っているのに私はやっと初長期休暇だ。嬉しいものは嬉しい。
さくさく魂を回収しながら進んでいく。
どうやらここは抗争が起こっていたようだ。
どうにも好きになれない悪臭が漂ってくる。
うん、やっぱりマフィアって怖い。さっさと魂回収して休みたい。
私がてくてくと歩いていると死にかけの男の人と出会った。
「ね、姉ちゃん。そこの姉ちゃん!」
あれ、死んでなかったんだ。もうそろそろまずそうだけど。
「はい、なんでしょうか?」
「もう姉ちゃんでも良い…!裏の社会の人間なら、どうかこれを坊ちゃんに!『アメルラクトのカイル』に届けてほしい。アスロ組の。ケトル組のやつでもいい、お願いだ。」
渡されたのはUSBメモリ。この中に何かデータが入っているのだろうか。私はどうやら裏社会の人間と勘違いされているようだ。
まあここにいるのにパンピーとか訳わかんないもんね。一般天使が通行してるとは思わないよね。
一週間ぐらい休暇あるし、持って行ってみるか。
「はい、分かりました。」
「ありがとう。あぁ、もう、む、り、だ。」
あ、魂が。ふわふわ体から出てきた魂をキャッチして、私はノルマを達成した。ありがとう、ゴツいお兄さん。天国では安らかに過ごしてください。
『やあやあリライヤちゃん。ノルマ達成したみたいだね。』
「知恵神様!」
私を社畜化…ごほん、更生させるために天使として働かせた神様、知恵神様から連絡が来た。
『はい、お仕事お疲れ様。休暇の始まりだよ!』
やった!ついに社畜生活に一筋の光が!
『でもさでもさ、リライヤちゃん?その男の人から渡されたUSB、どうするの?』
「もちろん持って行きますよ?『アメルラクトのカイル』さんに。」
頼まれたものはしっかり渡さなければ。ちょこちょこ徳を積めば社畜から解放されるはず。
『よし、じゃあそれ休暇中に終わらせてねー。じゃないと僕、働かせる期間長くしちゃうから。』
それだけは回避しなくては!!
さて。
なぜ私はこんな目に?
『ぶぶぉっ…はっ……ふぇ…ぶっふ…あー面白い。』
せっかくのイケメンが台無しな笑い声でゲラゲラと地面を転がり回る知恵神様を見る。あなた神ですよね?
自分の着ている猫耳メイド服を睨みつけた。
遡ること三日前。
「はあ、アメルラクトっていう土地には来られたものの、なかなか見つからないなぁ。」
船旅で2日。陸路で1日。もう私はかなりへろへろだった。船旅はもう遠慮したい。天使でも酔うみたいだった。こんな新発見いらない!
とぼとぼと歩きつつそれっぽい裏路地を歩いてみる。
『まあマフィンだからね。そう簡単に見つかったら困るんだよ!』
「マフィンではなくマフィアです!」
本当に知恵を司る神様なのだろうか。どうみてもアホ……。
『あーっ!今アホって言ったよね!いーけないんだいけないんだ!』
テレパシーは使えるしやはり神様なのだろう。アホだが。
『アホって言った方がアホなんです!』
「はいはい。」
くだらないやりとりをしていると、突然声をかけられた。
「よお、お嬢ちゃん。ここで何してるんだい?」
一発でマフィアだな、と分かる格好の人から話しかけられた。
服の上には青色のワッペンが丁寧に付けられていた。
……青色のワッペン?確かあのゴツいお兄さんも付けていたような気がする。
「えーっと。アスロ組の方ですか?」
どうやらあのお兄さんの話から推測するに、アメルラクトのカイルさんはアスロ組というマフィアの一員のようだった。
「そうだが…ここで何を?」
それならアメルラクトのカイルさんにたどり着くためにも、この人とは繋がりを持っておきたい。
どうしたものか。
「あっ、えーっと。私、実は彼氏がアスロ組の方に借金をしていて。その返済にやってきたんです。」
バレないだろうか。咄嗟についた嘘なので、すぐにバレそうな気もする。
冷や汗がたらりと頬を伝う。
しばらく考えたそぶりを見せた後、アスロ組の組員さんは納得したようにこちらを眺めた。
「なるほど。ついてきな。そういう娘にはうちの店で働いてもらってる。お嬢ちゃんもそっちに来るといい。」
「は、はい。」
どうやら大丈夫だったようだ。胸を撫で下ろしている私に声がかけられる。
『えー、これからオトナーなお店に連れて行かれたりするかもよ!?どうするんだよ!?』
「変態!!」
あっ、勢いでビンタしちゃった。
『いたっ。もう、ひどいなぁ。今回だけは許してあげるけど、2回目はないからね!?』
神様にもビンタは効くんだなぁ。
馬鹿らしいことを考えながら呑気に歩いていた。その時は、まだ。
『ふひっ…ふへっ…それで、連れてこられたお店がメイド喫茶だったんだよねぇ!!4日もここで働いちゃって!!恥ずかしくないのかなぁ?』
回想にまでテレパシーを飛ばしてくる知恵神様を横目に見つつ、お客様にケーキと紅茶を渡す。
「お待たせしました。きゅーとべりいぱふぇとあっぷる・てぃーのお届けです。」
羞恥で消えそうになりながら声を出してトレイを置く。
「いやー、ありがとうね。それにしてもキミ、すごく可愛い。」
「あ、ありがとうございます。」
お願いだから厨房に戻らせてください。
引き攣った笑みを浮かべながらそろり、そろりと下がったところでお客様が私の手を握る。
「へへっ…仕事終わったら遊ぼうよ。ねぇねぇ!!」
力が強くて手を離せない。こっちに寄ってきた。き、気持ち悪い。
「メイドにはお触り禁止です!」
近づいてきた男に体術を浴びせる。
男はふらりとよろめいて、顔面を怒りで赤くした。
「おい!このメイド喫茶は客に暴力を振るうのか!?」
やってしまった。いくらなんでも体術はダメだった。私は前世体術がめっちゃ強かったらしいから危うくお客様を殺すところだった。
怪我はしていないようなのでそこは一安心だ。
それでも、まずい状況に変わりはない。
助けを求めるようにゆっくりと後ろを振り返る。
『いくら僕でもどうにかできるわけないじゃん。これは労働期間延長かな?』
要所要所で役に立たない!
どうしよう、このままだとのんびり天国でのバカンス生活が遠ざかってしまう。
「申し訳ありません!」
男がこちらに寄り、拳を振りかぶって、そして…。
「なぜお前は女性に暴力を振るおうとしている?」
がっしりとした男性が私の前に立っていた。やはり服の胸元には青いワッペンが縫い付けられている。
「若頭!」
ほう、若頭。つまりこのアスロ組の偉い人、ということか。
もしかしたらアメルラクトのカイルさんのことも知っているかもしれない。
「あの!私が悪いんです。お客様を、その…殴ってしまって。」
数秒、沈黙が場を支配する。
やっぱり私、店から追い出されるよね?
「この店はお触り禁止だったのですが、あの男がリライヤさんを触ったんです。リライヤさんは、どうかクビだけで許してください。」
店長がこっそりと若頭さんに告げる。
「…リライヤ?」
なぜか若頭さんは私の名前に反応した後、私を見つめてふと微笑んだ。
イケメンに微笑まれるようなことは何もしてない。睨まれることはしたけど。
半ば宇宙に飛ばされている私の前に若頭さんはやってくると、ぺこりと頭を下げた。
「うちの者がすみません。」
そんな簡単にマフィアのボスが謝ってもいいのだろうか。
私も頭を下げる。
「顔を上げてください!あの、私も悪かったので。流石に蹴るのはないですよね…。」
にっこりと笑った男はありがとうございます、と告げた。
本当にマフィアなのか怪しいレベルだ。だって礼儀正しいし、爽やかだし。
私の訝しむような視線で察したのか、若頭は手をひらひらと振る。
「ああ、ちゃんとここのマフィアですよ。母に礼儀正しくせよと厳しく教わってきましたきましたので。安心していいのかは分かりませんが。」
お母さんか。こんな礼儀正しいイケメンを育てるなんて、どんなお母さんなのだろうか?
「あの…よろしければお詫びにお茶でもいかがですか?」
こんなトントン拍子でいいのだろうか。といっても7日目だが。
私は二つ返事で若頭さんについて行った。
「ここですね。」
着いたのはかなり綺麗な建物。白い壁にオシャレな木の飾りが生えている。
中はたくさんの人で賑わっていた。どの人も若頭さんを見たらピシッと敬礼するし、礼儀正しいマフィア、っていうのは本当だろう。あの男がそうじゃないだけで。
内部の個室にて、女性が恭しく差し出してきた紅茶を恐る恐る飲む。
『そーんなほいほいついていって大丈夫なの…?その紅茶に毒が入ってたりさぁ。するかもしれないでしょ?』
「既に死んでるのに何を言うんですか。毒なんて効かないですよ。」
『それもそっか。』
そこから私たちは他愛もない話をした。ついつい話が盛り上がってしまって肝心なUSBのことを忘れてしまうところだった。危ない危ない。
「あの、このUSBを『アメルラクトのカイル』さんに届けて欲しいとのことを組員さんから言われまして…。」
「これは…!ありがとうございます!恥ずかしながら、抗争で落としてしまったんです。言い忘れていましたが、僕がカイルです。本当にありがとうございます。」
二つ名を持っている人っぽかったし、偉い人なのかなとは思っていたがまさかボスだったとは。
部屋の隅からノートパソコンを取り出して、データが無事か確かめるカイルさん。
しばらくして、音声が流れ出した。
〈おあー。うー?〉
〈あら、起きたの。今日はご機嫌ねー。〉
驚いた。
いや、驚いたとかそんな簡単な言葉で表せないくらいの衝撃だった。
だってその声の主は、紛れもなく私だったから。
イントネーションも、もちろん声質も、絶対に私だった。
頭の中がハテナマークで埋め尽くされる。
なぜ?
「…よければそのデータを見せていただきたいんですけど…。」
「大丈夫ですよ。このビデオはですね、亡くなった母との記録なんです。」
そうか。
そうだったのか。
そうだったのだろうか?
何もわからない。
私はただ、目の前の男性をさん付けで呼ぶことしかできなくて、突きつけられたソレがどんな味わいを持っているかを知らなくて。
私がただ愕然とビデオを見つめている間にカイルさんは続けて話す。
「これは、僕が赤ちゃんのころのビデオですね。この時の母の顔を見ると、僕も知らず知らずのうちに嬉しくなってしまうんですよね。」
知恵神様の方をこっそり見ると、下手くそな口笛を吹きながら後ろを向いていた。確信犯じゃないか…。
「なんだか母と話しているみたいで、ちょっとドキドキしますね。母の名前もリライヤ、だったらしいんですよ。」
握手したその手の熱は、確かにいつの日にかに宿っていたものなのだろう。
「改めて、ありがとうございます。このちっぽけなUSBが、僕と母を繋いでくれているものなので。」
「いや、知恵神様!なんで言ってくれなかったんですか!?」
事務所を出てすぐ、私は知恵神様に掴み掛かるような勢いで質問する。
『だって、それがゼウス爺様のルールだし、僕には変えられないし?』
「だからって…。」
その先の言葉が声に出せなくて、立ち止まる。
『まあ、僕からのサービスでこっそり教えてあげる。秘密だからね?君は本当に、あの子の血縁者だったよ。あの子を守るために抗争に出て、それで死んだ。その時に敵を狩りまくったからその文のツケでこっちに回されたんだよ。』
「…そうですか。」
いつのまにか日が暮れていた街を、空を見つめながら歩く。
お互いに気味が悪いくらいに静かな沈黙を保つ。
私は今、天使だ。
あの人を優遇することは出来ないし、私はあの人のことを何一つ覚えていない。
それでも、私が大切だったあの人を守ったという事実がそこにある。
それに気づいたことだけでいいのかもしれない。
今は。
「初めて天使になれて良かったなって思いましたよ。」
『これからもきっちり働いてもらうからね。天使になったことを感謝しなよ?』
「そこまでは行きませんよ…。」
夕暮れ時の道に、小さな足音一つと神の笑い声が響いた。
『はい、新人くんの紹介です!』
「えーっと…ここ、どこなんだ?」
どこかで見覚えのあるゴツい男が、私の後輩になったのはしばらくあとの話。