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不器用な男
死にたくないから物語を書いていた。時代じゃないのにペンを使った。気取っていたんだ。
気が遠くなるほど物語を書いていた。
大人になるのが本当楽しかった。
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死にたくないから物語を書いていた。
君ならどんな結末を望むだろうか。
こんな展開なら君なら笑うだろうか。泣くんだろうか。怒るだろうか。
架空の君を書いていた。掴めない感触は綺麗で。
それ全部フィクションなんだ。それでも書いた。
終われなかった。
「こんなんで終わるかよ。書ききったって言えるかよ」
春も夏も秋も冬も書いた。死にたくないから。
ゴミみたいな部屋で、今日も生み出していた。
「そうさ俺は不器用な男」
死にたくないよ。死にたくないよ。死にたくないよ。死にたくないよ。
「死にたくないよ」
人間らしさを知りたいから物語を書いていた。正々堂々言葉が出せない俺は人間じゃないから。
言いたいことばかり書き留めていたら物語が出来ていた。誰も見ないけどなんか楽しかった。
人間らしく笑ってみたいから物語を書いていた。頬の筋肉はとうの昔に廃れちまった。
評価されるたび嬉しくなるのはきっと俺が醜いからだ。褒められたいと思うたび自分を恥じた。
会えないからボロクソ書いた。昔の友人、先生、家族。あの日愛した君すらも、それだけで優越感があった。
人生全部埋めるように、寂しさを全部埋めるように、朝も昼も夜も日々を書いた。倒れてしまうほどに。
だって何にも満たされやしないんだよ。
「そうさ俺は欲張りなんだ」
生み出したいよ。生み出したいよ。生み出したいよ。生み出したいよ。
「生み出したいよ」
音楽、恋愛、映画に旅行、話のネタになることはなんでもやった。
吐き出してはまた喰らった。食らって泣いて吐いて泣いて、なんか人間みたいだな。
人生全部焦がすように、ひたすらペンを震わせた。
何年何十年生涯これだけだった。
こんなものがクソの役に立つものか。
そんなものわかっている。
わかっているのに、、
「こんなんじゃ終われない。書ききったって言えやしない」
春も夏も秋も冬も書いた。死んでしまうから。
ゴミみたいな部屋で、泣きはらしながら書いていた。
「そうさ俺は不器用な男」
死にたくないよ。死にたくないよ。死にたくないよ。死にたくないよ。
「死にたくないよ」
生み出したいよ。生み出したいよ。生み出したいよ。生み出したいよ。
「生み出したいよ」
「死にたくない」