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人魚姫
人魚姫
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彼女には名前がない。
海の底でひっそりと暮らしている。
彼女は毎日海底を散歩する。そしてある日、上からキラキラと光りながらゆっくり落ちてくる物を彼女は掴んだ。文字は掘られておらず、細かく美しい彫刻だけがあった。お金ではないけれど、間違いなく高価なものだ。
彼女はそれを持ち帰った。
毎日持ち歩き、日光にかざしてみることもあれば、ただただ眺めるだけの日もあった。
この彫刻は誰が施したのだろう。その人は、どんな事を考えながら掘ったんだろう。
彼女の友達は「よく飽きずにそんな物を見ていられるわね」と言ったが彼女は全く気にしなかった。
だがある嵐の日、王子が乗っている豪華な船が転覆してしまい、王子が落ちてきた。
彼女はその美しい容姿に一目惚れし陸まで運んだ。陸へ下ろそうとしたとき、王子が目を開いた。
「ここは、、、?」
そしてむせ返り、激しく胸を叩いた。人魚姫が優しく背中をさすってやった。
「ありがとう。ぜひ、海水ではない水とお金を恵んでくれないか。それと、君の連絡先も。」
そう言って舌鼓をコッ、と打つ彼を見てもドン引きしないのが世間知らずの人魚姫。
「ごめんなさい。水も電話も持っていないの。繋がらない電話ならあるのだけど。」
そこまで言ってひらめいた。あのコインがある。そして彼女はどこからかコインを取り出し、王子に差し出した。
「これ、お金になるかわからないですが、、、」
そう彼女が言うと王子は「もらっていいのかい?」と言いながら奪い取るようにコインを受け取った。
ここまでくれば間違いなく王子がクズなのは目に見えているはずなのに、「強引なところが素敵、、、」と思っている世間知らずな人魚姫。
こうして彼女の手から王子の手へ、コインは移動した。
よく考えたら人間にとって人魚姫のあの格好は刺激的すぎた。