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苦しみ、決意。
2、3ヶ月かけてやっと書き上げました。
少し、、、そう、ほんの少しだけ未来のお話です。
大きな会場。激しく揺れる光。強い圧を感じる歓声。
大きくガッツポーズをする龍我、感極まって泣き出す浮所、口を開けて呆然とする深田、肩を組んで抱きしめてくる那須。
そして、何もわからず立ち尽くす俺。
後ろを振り返ると、「ACEes デビュー決定」の大きな文字。
デビュー。
その4文字をなかなか認識することが出来ずに、それでも体は勝手に動く。
那須を抱きしめ返し、それから5人で肩を組んで並ぶ。
また、強い歓声。その先、後ろの方に見えるいつかの仲間達。彼らは複雑な表情を浮かべていた。1人を除いて。
立ち上がってガッツポーズをする優斗、自分の腿を全力で叩きながら涙を流すガリさん、口を開けて座ったまま呆然としているはしもっちゃん、ガリさんと肩を組み抱き寄せるみずっこん。
ああ、なんでこんなことになったんだ?
嫌だな。
5人でデビューしたかったのに。あの5人で並んで肩組んで、笑いたかったのに。
嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ。なんでこんな風に、ならなきゃいけないの。
ぽろぽろと涙が溢れる。嬉しさではない。辛い涙。
くらくらする。足元がふらつく。でも、新しい仲間たちは俺を離してなんてくれない。
視界がふっと黒くなった。何も見えない。何も聞こえない。なんで?助けて、
目が覚める。
ここはどこ?なんで?どうして?しばらく混乱する。
すっと気持ちが落ち着くと、そこは自分の部屋だった。
窓から入る光。なぜだか薄ら寒く感じる部屋。
妙に体にまとわりついてくるTシャツを脱ぎ捨て、洗濯かごに放り込む。
浴室に入ってシャワーを出し、ふとタオルと着替えを出していないことに気づく。あーあ、やっちまった。
最近、少し前の夢をよく見る。デビュー発表の瞬間。
ものすごい数の光が目の前で揺れ、正直頭がくらくらした。
あの時と全く同じ光景が、夢の中に現れる。
ただ、違うこともある。元メンバーたちだ。
あの大きな会場で、メンステに立って4人をまともに認識できるわけもない。無論、人の顔もはっきり見えない。
4人があんなことになってるなんて、わかりはしないんだ。
なんでだろう。なんであんな風なメンバーが、元メンバーが出てくるんだろう。
自分もあそこまでの拒否感はなかったしな、とシャワーを止めずにぼーっと考える。
しょうがないって割り切れた。事務所の気持ちもわかるって共感した。だから、あんなに拒否感はない。
シャワーを止め、浴室から出る。ちょうどそこにあったタオルで体を軽く拭き、下着を履いて、そのままで部屋まで戻る。
クローゼットから部屋着を出して、着て、ソファに座る。
ここ数日はお休みをいただけている。コンサート後なのと、デビューした後が忙しいからだ。
ぼーっと続きを考える。いつも一つの結論にしか行きつかない想いを、飽きることなく、違う結論を探して考え続ける。
数十分無言で考え続けて、やっぱり同じ結論に至った。大きくため息をついて、ソファに深く沈む。
あんなメンバーが出てくるのは。自分の夢の中で3人が悔しがって、複雑な感情に苦しんでいたのは。
きっと俺が、みずっこんと、はしもっちゃんとガリさんに、『_____』って、思ってるから。
こんな想いを抱えたまま、デビューしたくないな。
どうしようかな。
辛いな。苦しいな。
また数十分迷った末、スマホを手に取った。LINEを開き、ほんの少しスクロールする。
開いたトークのアイコンに、相変わらずセンスないな、とちょっぴり笑う。
文字を打ち込んで少し迷い、送信した。
「一週間以内で、会える日ある?」
返信はすぐにきた。
「空けるわ。いつにする?」
なんだか少しだけ体が軽くなった気がして、俺は冷蔵庫へ向かった。朝ごはん、どうしようかな。
「優斗。」
メッセージを送った翌々日、出勤ラッシュが終わった頃。横浜駅前。
少し遅れたか、と慌てて待ち合わせ場所に向かうと、スマホを眺めて何かを考えていた優斗がぱっと顔を上げた。
「作ちゃん!最近どう?」
「まあまあ、かな。」
なんとなく絶好調とは言い難くて濁した返事をすると、優斗は少しばつが悪そうににこっとした。
「そう、ならよかった。わざわざ横浜まで来てもらってごめんな?」
「いいよ全然、俺から言い出したことだし。最近休み多いから、元々ちょっと出かけようと思ってたんだ。」
「へー、いいなあ。っあ、、、ちょっとメールだけ返していい?」
「うん、いいよ。ごめんね」
「全然!ちょっと待ってなー、」
どうやら俺のために休みを取ってくれたらしい。俺らの頼れる兄ちゃんは、いつもそういう人だ。
自分を犠牲にして、他の何かに迷惑をかけてまで、いつも俺たちとファンを守る。俺たちとファンが嬉しいこと、楽しいことを一番に考える。
俺らと同じぐらい横浜バニラの人たちも大事にしているけど、ここまではやらない。
「俺よりも社会人経験長い方ばっかで、みんなすぐ自己解決して動いちゃうから、俺はやることなくなるんだ」
5人で集まった時、そんなふうに言ってた。
「もちろん会社の人たちを守るのも大事な仕事だけど。それよりも、俺はお前らのために動くよ」
なんてことも言ってたっけ。
その時はメンバー全員でいじってやったけど、こうやって実際に動いてくれるのを見ていると、あながちかっこつけてもなかったんだな、と思い返す。
「、、くちゃん?さーくちゃんっ、さくちゃーん!!」
「ぁいっ、え?」
やば、思わずぼーっとしてた。
「作ちゃん疲れてるの?大丈夫?」
心配そうにこっちを見つめる優斗に言われ、思わず自分の体の重さを確認する。
、、、いや、だるさも残ってない。きついのは気持ちだけだ。
「大丈夫だよ、疲れてるわけじゃないから。」
「うーん、、、そ。じゃ行こ!」
「えぇっ、はいはい笑」
「最初どこいくー?」
「俺、シーパラ行きたい」
「あーね?じゃあ電車乗るかー」
「シーパラ楽しかったね」
「やっぱイルカショーって泣けるんだよ!!笑」
「俺も泣けたから大人の階段登ったかも〜」
「ご飯うまい!」
「今日は俺が奢ってあげません!!」
「えぇ、そこをなんとか!」
「ちゃはっ、うそうそ。ちゃんと奢ってあげますよ笑」
「買い物はさくちゃんが奢ってよなーw」
「えぇ、お願い優斗奢って!」
「やだよ!お前、金たくさん持ってるべ!?」
なんやかんやたくさん遊んで、気づいたら夜の帷が降りていた。
「これ、横浜バニラで座談会してたとこだよね」
「そそ、今日もちゃーんと予約してましたー」
「まじで?ありがと。」
「いいってことよ、個室の方がいいと思ったし」
「個室?なんで?」
「、、、さくちゃんなんか悩んでるんだろうなって、思ったから。」
そういえば、と思い出す。
楽しすぎて忘れてたけど、相談事したいんだったな。
気分が重くなっていって、思わずため息をつく。
「ため息つくと幸せ逃げるぞ」
「そうだけどさ」
「そうだけど何?」
「、、、ため息つきたくなる時ってあるじゃん」
「うん、まああるね」
「だから別によくない?」
「ついちゃだめとは言ってないでしょ」
「、、、なんか今日の優斗いじわるなんだけど。」
思わずぷくっと頬を膨らませると、優斗はいつものように優しく笑った。
「ごめん。ひさしぶりに会えたの嬉しくて、ついつい?」
「なんで疑問形なの笑」
「んー、なんでだろねw」
「あのさ、」
本当にデビューしていいか不安なんだよね。
最近、夢にデビュー発表の瞬間のシーンが出てくるんだ。
それで、客席のずっと向こうに、HiHiがいるの。見えないはずなのに。
ガリさんが泣いてて、みずっこんがそれを抱きしめてて、はしもっちゃんは口開けてぼーっとなってるの。全身全霊で悔しがってるの。
俺の夢にね、そんな3人が出てくるのはね、きっと『申し訳ない』って思ってるからだと思う。
ほんとはよくないじゃん。申し訳ないなんて、一番思っちゃいけないことじゃん。だって、3人の想いをやりたい放題に踏みにじってるから。
なのにね、きっと俺はそう思っちゃうの。
人に遠慮して、人の想いばっか考えておどおどして、だからずっとこれからも、申し訳ないなって思い続けちゃうの。
ねえ優斗、こんなままで俺はデビューしていいのかな。このまま先に進んでもいいのかな。
最後の方は泣いていた。
辛くて苦しい、苦く煮詰めた濃いカクテルのような涙だった。
そんだけ、辛かったんだ。そして、それをきっと優斗は受け止めてくれると思っていた。
「、、、いいよなお前は。そんな贅沢な悩み持てて。」
話し終わった後の沈黙に投げられたのは、そんな言葉だった。
心の傷が痛む。かさぶたが強引に剥がされていく。
「デビュー出来るのが申し訳ない〜とか、そんなん途中で辞めた俺からしたら当てつけみたいなもんなんだよ。作ちゃんはそれもわかんない?」
ずきずきずき。傷が開き切って血が流れる。
「ずっと、ずっと、、、作ちゃんは俺のずっと前を歩き続けるのに。それでもまだ俺に頼んのかよ」
言葉の剣が思いっきり刺さってぎゅうっとなる。
「ずっとお前らが羨ましかった!!」
実力で認めてもらえてたお前らが!!それに比べて俺は!俺は、、、ッッ!!
ただあの人に気に入られただけで、実力なんて足りなくて、それでも努力して追いつけなくてまた努力してそれでもお前らはずっとずっと前にいて!!
俺がどんだけ頑張ってもお前らは止まってなんてくれなくて、自分を惨めだなって何度も何度も思って、自分に自信なんていつまでも持てなくて、それでもお前は俺のことなんてちらりとも見ずにどんどん走っていっていつまでも追いつけなくてずっとずっとキツくて苦しくて!!
俺が、、、俺がどんな想いで辞めてったと思ってるんだよ!!
ほんとは歌もダンスもローラーも大好きなんだよ!!
なのに辞めなきゃいけなかったんだよ!!
俺の想いぐらい考えろよ!!
だって、お前は、お前は、、、!!
俺の、パートナーみたいな存在、なんだろ!?
言い切った優斗の頬も涙で濡れている。
めまぐるしく動く心とは全く別の場所で、あぁ、この人も辛かったんだな。と他人事のように思った。
「、、、ごめん、優斗、俺、ゆとの、ぱーとな、なのにっ、」
「っ、俺も、ごめんっ、こんなこと言って、、、」
2人抱き合って泣いた。
お互いの苦しみを苦しみで洗い流して、まっさらにしてしまうように。
全てを含んだ涙が、お互いの肩口に染みていった。
「なあ、作ちゃん」
背中から、心地よい温かさと振動が伝わる。
「なあに?」
「これは俺のエゴだけど。お前はずっと前を向いてて欲しい。いや、、、向くべきだと思う。」
「、、、急に、そんなこと言うね」
「空気読めないってか?」
くすりと笑う声が聞こえて、思わず微笑んだ。
「でね。作ちゃんは本当に、アイドルになるために生まれてきたんだと思うよ」
「だから、多分その感情を振り切ったら、もっと前に進める。もっともっと上に行けるから」
「ほんとにかな」
「もちろん。」
「大丈夫。作ちゃんは大丈夫だよ。途中で宇宙船を降りた俺なんかと、違ってね。笑」
今度は背後から、悲しそうな笑い声がした。
優斗はいつだって、自分に自信がないから。
この人は、もっと、すごく、人を幸せにできる人間だというのに。
「優斗も、大丈夫だよ」
思わず口からこぼれ出た言葉に、後ろではっと息を呑む気配がした。
「俺よりも、優斗の方がアイドルだもん。みんなに好かれて愛される、生粋の、きらきらアイドル。」
「ジャニーさんは、きっと、だから、優斗のことを見込んで、センターに置いたんだよ。もっとみんなに愛されるように。」
「きっとこれからも優斗は、誰からも愛されながら生きていくんだ。」
「、、、急に褒めるね」
「ふふ、空気読めない、って言いたいの?笑」
思わず笑ってしまったのだって、きっとこの人のおかげだ。
「俺だって、、、ずっと、ずっと優斗が羨ましかったんだよ?」
「それでも俺は優斗のことが大好きだし、それはこれからも絶対変わんないから。」
「仲良くして欲しいのも、2人で並んで笑ってたいのも、パートナーでいたいのも、ずっと変わらないよ」
「だからさ、これからも、やっぱり仲良くいようね」
「、、、当然だろ。」
「悩んだ時、一番最初に俺を頼ってくるような最高のパートナーなんてなかなかいねぇよ」
「んふふっ、確かにそうかも」
頭をこつん、として上を見上げた。
ただの天井のはずなのに、綺麗な星と満月の月が見える気がした。
「なんやかんや楽しかったな、今日は」
「今度5人でシーパラ来ようぜ」
「いいじゃん、今度は動物園も行こ」
「いいねぇ、俺がまた案内してやるよ」
「、、、じゃ、また。」
「ん、またそのうちな。」
「そのうちに」「また」
そう言えることにじんわりと嬉しさを感じる。
胸の温かみと共に見た夜の横浜は、
あの光の波のように、きらきらと光り輝いていた。
この長さを書くのは久しぶりで少し疲れ気味ですが裏話を。
このお話は、「作ちゃんがデビュー決まったらどう思うかな、どうするかな」という考えから来ています。
きっと自分の想いを口にするのが苦手な作ちゃんは、「申し訳ない」を自分で溜め込んでしまうのかな、、、と思ったところで、優斗に救ってもらうエンドを思いつきました。
結果的に優斗にも大爆発させてしまいましたが、私の中で考える2人の本音を、出来るだけ緻密にダイレクトに描いてみました。
たくさんの方に読んでいただける小説になればいいな、と思います。