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第3話 アグリア・メーリ
「このスマホって…」
「スマホ…そうだ、スマホだ」
「文読さんって一体…」
国語の偏差値は高いのに、理解が追いつかない。
スマホを起動させて、それをさりげなく見せてきた文読さんを見る。
「今から行く。助けてほしい」
「どういうこと?」
「…頭がかたいな。じゃあ、今から話す」
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こっちの世界は、『アグリア・メーリ』という。僕らの言葉で、『アグリア』は君らの言う『感情』、『メーリ』は『世界』を意味する。
つまり、『感情の有る世界』。
僕は元々、君らとは違う世界から来た。僕らの世界は君らの世界より、ずっと文明が進んでいる。こっちに来た時、文明が遅れすぎて驚いた。そんなの、400年前の文明だ。
僕らの世界は、何もかもが君らよりも進んでいる。文明、農業、水産業、工業、林業すべてが進み、環境だって素晴らしい。
ただひとつ、僕らの世界には欠陥があった。僕らの世界には、感情というものがひとつもない。犯罪だって起こらない。何かコンピュータのバグがあっても、それを『みんなが困るから』という理由ではやらない。ただ、『教えられたから』やるんだ。
とある一家がすべてを独占しようとした。その一家はすべてを独占できたが、人々の性格や感情まではコントロールできなかった。しかし、一家は優秀な研究者を雇い、感情を吸い尽くす装置を開発した。研究者は装置を作った後、即座に死んだ。独身なので、家族に何も遺すことはできなかった。一家は感情を吸い尽くしたが、不注意による火事で死んだ。感情を吸い尽くした装置は残ったが、感情を蘇らせる方法は残らなかった。一家と研究者の頭にしか、その方法はなかったんだ。
そう約3400年前の手帳にかかれている。3400年の間、僕らは感情を一切持たなかった。持たなかった先祖から遺伝して、今の僕らにも感情が殆どない。
だが、最近になって、まずいと思ったのか、政府が感情を蘇らせようとしてきた。サボりなどが深刻化してきたんだろう。
感情を蘇らせるための方法を、僕らは知らなかった。発展した文明で、他の世界を見つけた。その世界からランダムに選ばれたのが、この街だった。この街にある学校・いろは学園には、小説大会が存在する。小説大会で金賞を受賞した作品を政府が読むと、少しだけ『悲しみ』と『怒り』と『喜び』の感情が蘇っていた。
この作品の作者は、人々の感情を蘇らせるパワーがある。そう確信して、僕らは君のもとへ来たんだ。